「痛って!」
「おーおー、また愛しのつかさちゃんと愛のトークか?」
「お、おぉ……ま、まァな……」
「うわっ、顔赤っ!どっからが髪の毛かわかんねーぞ?」
「う、うるせェ!!……つーか何か用事か?」
「ん?お前がニヤニヤしてっから揶揄いに来た!」
瀬呂は真っ白な歯を見せて楽しそうに笑っている。この頃、上鳴や瀬呂からめちゃくちゃ揶揄われることが増えた気がする。っつーのも俺がつかさと付き合いだしてからなんだが……
「もーキスなんかしちゃったわけ?」
「げほっ!キッ、キキ、キス!?ごほっ!バ、バカヤロー!げほっ!そ、そんなことできっかよ!」
コイツ、突然なんつーことを……危うく飲んでいたミネラルウォーターを吹き出すところだった。瀬呂はケタケタと笑いながらまだ質問を続けてきた。
「したくねーの?」
「い、いや、そりゃ、してェ、けど……」
「お前ってさー、そーゆーとこ男らしくねーよな。」
「ぐっ!」
「キスしたいって言えばいいのに。どんな子かわかんねーけど、そんだけ毎日連絡して仲も良いならできるだろ?」
常々男らしく男らしくなんて言ってっけど、瀬呂曰く俺は所謂チキン野郎って奴らしい。悔しいが否定はできねェ。
あれから何度かつかさとデートしたり、ツカサとも遊んだりしてかなり仲は深まったと思う。そして、前回、先週のつかさとのデートで俺にはある目標があった。それは手を繋ぐことだった。今日こそ!と意気込んでいたが、照れちまってそんなことは出来なかった。だが、家まで送る時こそ、と電車を降りて俺の方から手を繋ぎたかったところをなんとつかさの方からギュッと手を掴まれて、鋭ちゃんの手は大きいね、なんて言われちまって正直意識がぶっ飛ぶかと思った。
しかし、『男らしさ』ねェ……『漢らしさ』とはまた違った意味なのだが、男らしくないと言われると流石にグサッとくるものがある。かと言って、つかさに嫌われたくねーし……なんてモヤモヤしてたらつかさからチャットの返信が来た。今週の土曜、俺は授業、つかさは部活の練習試合があるからどっか出かけねーか?と送ったら、いいよ!おやつ食べに行こう!との返事が。ちなみにチャットはつかさ、メールはツカサと連絡手段が決まっている。まァ、つかさとツカサは記憶を共有しているから振り分ける意味はないが、便宜上そうしてくれという要望で。
なんだかんだであっという間に土曜日がやってきた。つかさと会う日は何を着るかで悩むんだが、上鳴、瀬呂、芦戸にアドバイスをもらっていて、結構オシャレに見えんじゃねーかと自画自賛してしまう。今日も走って待ち合わせ場所に行くと、既につかさは待っていてくれた。
「待たせた!悪ィ!寒かったよな?」
「鋭ちゃん!走って来てくれてありがとう!今日はバスケしたしあったまってるよ!」
「バ、バスケ?そんなちっこいのにか?」
「む……バスケしてた時は飴食べてたから小さくなかったよ!」
つかさは不満気に俺をじとーっと見てきた。身長が小さめで可愛らしいと思っただけなんだがなァ……なんて。ごめん!と謝ると、怒ってないよ!と小さな手をぶんぶん振りながら目を細めて八重歯を見せながら笑っていた。これがつかさの本物の笑顔。以前までは口端をきゅっと結んで、困ったように、悲しそうに、まるで消えちまいそうなくらい儚く綺麗に笑っていたのだが、今のつかさは本当に楽しそうに笑う。ハッキリ言って、マジで可愛い。
「ねぇ!聞いてるの?」
「……あっ!わ、悪ィ、えーと……」
「あははっ、間抜けな顔!」
「ごめん、もう一回言ってくれるか?」
「うん、もちろん。ここのタピオカ入り和風黒蜜パフェ食べたいの。一緒に行ってくれる?」
「おうよ!行こうぜ!」
つかさが見せて来たのはカラフルなタピオカが入った和風スイーツの写真だった。そういやいつもカラフルな飴を袋に入れて持ち歩いているし、つかさはカラフルな物が好きなのかもしれねェ。早速店に向かって二人で並んで歩いて歩みを進めた。
付き合いだしてからもう1ヶ月ぐれェ経つが、いまだに俺はつかさにぼーっと見惚れちまう。だが、つかさは逆だ。どんどん俺にちょっかいをかけてきたり、楽しそうに笑う姿が増えてきた。まァ、元々こういう明るい性格なのかもしれねェけど。今日も歩き出した時にギュッと俺の手を握ってきた。あったかいねぇ、なんて言われたがとんでもねェ。燃えちまいそうだわ……
店に着いて、目的のパフェを注文した。つかさはスタンダードな茶色のタピオカよりカラフルな方が好きらしい。見た目が飴に似ているからだとか。結局は飴に帰結するところがなんともつかさらしい。ニコニコしながら美味そうにパフェを次々に口へ運んでいる。正直この笑顔だけで腹一杯になっちまいそうだ、なんつークサイことを考えながら俺も夢中でパフェを口へ運んだ。店の外には行列が出来ていたから、食事を済ませてからは速やかに店を出た。
「はー、美味しかった!見た目も可愛いし、味もよかった!また来よう!」
「そうだな!けど、あの色でどんな味がすんのかと思ったけど全部同じ味なのは驚いた!」
「それは思った。でも、味がいくつもあったら煩くなっちゃうから仕方ないよね。」
「お、おぉ、頭良いな……」
つかさは悪戯っぽくニヤリと笑った。ツカサに似てる、と呟いたら、ツカサも私だからね!と得意気に答えていた。自分の個性があまり好きではないような様子も今では一切見せなくなったと思う。
「意外とパフェの量多かったねー、今日は夕飯いらないかも。」
「確かに……ところで、明日暇か?」
「明日?うーん……勉強するくらいかな?なんで?」
「も、もうすぐ学期末テストがあってよ……」
「……勉強教えてほしいんだ?」
「話が早いな!頼む!」
つかさは楽しそうに笑いながら、もちろんいいよ、だと。あの隣野高校スポーツ科でトップといえば、うちで言うところの八百万や飯田クラスの頭を持っているわけで。俺よりちっこい脳みそなのに……なんてバカなこと考えていると、いつの間にかつかさの家に着いていた。毎回別れの瞬間はとても寂しそうに俺を見上げてくる。ふと、ここで瀬呂の言葉を思い出した。
『男らしくねーよな。』
『キスしたいって言えばいいのに。』
つかさの顔をじっと見ると、ぽっと頬に赤みがさした。目をキョロキョロと泳がせている。もしかして、今、良い雰囲気なんじゃ……
「……つかさ!」
「は、はい!」
「あ、あの、あのよ、キ、キッ、キ……キ、キス、していいか!?」
俺は目を瞑ってつかさに向かって叫んだ。見たか瀬呂!俺だって男だ!勇気も漢気も持ってんのが真の漢で、男だぜ!なんてわけのわからねーことを自分の中で反芻したが、誰の返事も返ってこない。つかさの反応がなく、恐る恐る顔をあげると、呆れた顔のツカサが俺を見下ろしていたのだった。
キス、していいか?
「…………えっ?」
「そんなデカい声で、キスしよう!なんて言うバカ初めて見たよ……」
「お、おわっ!!ツカサ!?なんでだ!?」
「キミがそんなこと言うから飴食べちゃったじゃないか……あーあ、せっかくキスできるところだったのにね。」
「は、はぁ!?」
「あ、僕今日のバスケの記録つけなきゃ。んじゃ、また遊ぼうね。」