守りたいのはその笑顔

テストは無事に終えることができて、なんとか全科目赤点を回避した。特に数学はつかさが熱心に教えてくれたのもあって、平均点よりも少しだけ高い点数を取ることができた。さて、放課後になって、尾白か砂藤あたりに訓練に付き合ってもらうかと席を立ち上がった瞬間、背後から誰かにガシッと肩を掴まれた。振り向いたら、よう!と片手を上げた鉄哲が立っていた。


「よう!切島、お前今日暇か?」

「えっ?あー……普通に訓練行こうと思ってたけど……何か用か?」

「あー、じゃあ訓練終わったらお前の部屋に行っていいか?」

「ああ、いいぜ!多分20時には風呂とかも済ませてっから、そんくらいでいいか?」

「おう!じゃ、また後でな!」


鉄哲はニッと笑うと急いで教室を出て行った。どうやらアイツはアイツで仲間と訓練に行くようだ。俺も負けてらんねー!早速尾白と砂藤に声をかけて、演習場へと足を運んだ。





約束の20時きっかりに鉄哲が俺の部屋のドアを叩いた。迎え入れて、俺はベッドに、奴は椅子に腰掛けて、最近の授業のことや互いの今日の訓練のことなんかを笑いながら話し合った。けど、本題はここからだ。鉄哲は神妙な顔つきになって、突然こんなことを口にした。


「お前……つかさとどこまでいった?」

「……は、はぁ!?ど、どこまで、って……」

「あー、なんつーか、あれだ、その、キスとか、したのか?」

「キッ、キキキッ、キス……!?ま、ま、まだだよ!」


まさか鉄哲からそんなことを聞かれるとは。もしかして、この前のことを鉄哲に知られているのだろうか。一応確認してみたが、何の話だ?と首を傾げている辺り、どうやら何も知らないようだ。緊張して急に喉が渇いちまって、スポーツドリンクを飲んだところでまたしても鉄哲が衝撃的なことを口にした。


「つかさ、お前とキスしたがってると思うぞ。」

「ぶっ!!げほっ!ごほっ!は、はぁ!?お、おめー!げほっ!なな、何言ってんだ!」

「あ?いや、お前があんま奥手っつーからよ……あ、これは瀬呂から聞いたんだけどな。」

「瀬呂のヤツ……ものには順序っつーもんがあるだろ……」

「順序ォ?お前がそれ言うのかよ。」


鉄哲の言葉にパッと顔を上げると、やはり首を傾げていて。どういうことだと問いかけると、俺が距離を詰める間も無くいきなりつかさに告っちまったことのようで。確かに、言動が一致してねェ。


「らしくねーぞ?漢気足りてねーんじゃねーか?」

「漢気……」


そうだ。彼女は男らしさも女らしさも兼ね備えた俺の憧れの漢だ。つかさの可愛らしさも、ツカサのかっこよさも、全部含めて飴宮つかさだ。アイツらはいつだって自分の信条を強く持って、悩んで悩んで悩み抜いて、しっかり前見て、自分の意志で全部やってきているんだ。俺も、ああなりてェって思ったじゃねェか。けど……ひとつ、ひとつだけ、気になることがあるわけで。


「つかさ……昔、男に、傷つけられたんだろ?その、怖い思い、させちまわねーか不安でよ……」

「あー……そりゃ俺も聞きそびれたな。」

「えっ?」

「いや!こっちの話だ!まー、大丈夫なんじゃねーか?つかさ、お前のことめちゃくちゃ好きみてーだし。」

「……な、何ィ!?そ、そ、それホントか!?」


驚きのあまり、鉄哲を押し倒さんばかりに勢いよく奴の両肩を掴んでしまった。


「お、おい!!どうした!?」

「い、いや、つかさ、俺のどこが好きとか全然言ってくんねーから……」

「あー……恥ずかしいんだろ、何せあんなことがあって以来、初めての彼氏だからな……実質何もかんも初めてだろ、つかさも、お前も。」

「は、初めて……そ、そっか、そうだよな……」


鉄哲の肩から手を離して、再びベッドに腰かけたら、鉄哲が、ん!と何かを差し出してきた。小さなカードのようなものが二枚。受け取ると、千葉県にある世界的にも有名な遊園地のチケットで。バッと顔をあげたら親指をぐっと立てながら爽やかな笑顔を浮かべた鉄哲が。


「こ、これは……!?」

「こないだ隣野高校の文化祭行ったろ?アレのビンゴ大会で当たった景品だよ。」

「お、俺にくれんのか?」

「おう!俺ァそんなもんキョーミねーからよ、お前、つかさと行ってこい!」

「うおおおお!鉄哲!ありがとな!なんか土産買ってくるぜ!」

「おう!楽しみにしてるぜ!土産話も期待してるからな!」


鉄哲は歯を見せてニッと笑うと、そろそろ物間達とゲームする時間だからっつって慌てて部屋を出て行った。俺はすぐにつかさに電話をかけて、鉄哲がくれた遊園地のチケットの話をした。一緒に行こうぜと誘ってみると、とても嬉しそうに楽しみにしてる!と返事をしてくれた。幸い俺もつかさも都合が良かったために早速今週末の日曜日に遊びに行くことになった。





日曜日、まだ暗い時間だと言うのに俺は電車に乗っていた。寝過ごしちまわないようしっかり目を開けていたつもりだったが、電車内の電気が消えたときにちょっとうとうとしちまって、ハッと気がついたら電車は目的の駅をとっくに過ぎていた。やっちまった!と思って立ち上がって、止まった駅で慌てて電車を降りて、ちょうど向かい側に来ていた電車に飛び乗った。急いでいたもんだから、中に乗っていた人にどんっとぶつかっちまった。けれど尻もちをついたのは俺の方で。すんません!と謝りながら立ち上がると、目を丸くしたつかさが立っていた。


「鋭ちゃん!?なんでこっち方面に乗ってるの!?」

「あ、いや、ね、寝過ごしちまってよ……」

「……あははは!っと、電車だったね……ぶふっ……早起き、苦手なんだね……!」

「う……かっこわりーとこ見られちまったな……」

「んーん、面白くて、わたし、好きだなぁ、鋭ちゃんのそういう可愛いところ。」

「え……」


今、好きって言ってもらえたのか?間抜けな顔でつかさを見つめてしまったからだろうか、つかさの顔はみるみるうちに俺の髪のように真っ赤になってしまった。そして電車が揺れ、つかさが俺の方へどんっとぶつかってきて、そのまま俺の胸に顔を押しつけて赤い顔を隠してしまっていた。可愛すぎだろ……





しばらく電車に揺られてっと、あっという間に目的地に到着した。電車を降りると既に人混みが出来上がっていて、俺は勇気を出してつかさの手をぎゅっと握りしめた。つかさは少し驚いたような表情をしたものの、すぐに八重歯を見せて笑いながら、今日は楽しもうね!だと。既に最高潮に楽しいんだが、まだ楽しくなんのかと思うとニヤニヤしちまう。


ゲートを潜る時、一瞬つかさが遠くを見つめてまるで時間が止まったかのように固まってしまっていた。どうした?と聞くとハッとして、好きなキャラクターがいた!だと。だが、笑顔が以前のそれだ。あの消えてしまいそうな儚い感じ。目線は鞄の中、つまり、ツカサに変身するあの虹色の飴を見ているわけで。


最近わかったことがある。つかさは本音を言えない時、ツカサになって本音を伝えようとしてくることがある。今日は折角のデートだからか、すげぇ可愛い服装をしている。だから流石にここで飴を食えっつーのも野暮ってもんで。どうしたもんかと思ったが、ここで俺が不安な顔をしちまったらつかさが悲しんじまうかもしれねェ。ここは男らしく不安を拭ってやるのが俺の役目だろう。つかさの小さな手をぎゅっと握りしめた。


「つかさの好きなキャラクターのいるアトラクション乗ろうぜ!どこだ?」

「あ……う、うん!あの、このジェットコースターに乗りたいんだけど、鋭ちゃん大丈夫?」

「おう!そんくれー余裕だ!行こうぜ!」

「うん!」


今度は八重歯を見せて明るくニコッと笑ってくれた。そう、俺はつかさのこの笑顔を守りてェ。繋いだ手に力を込めて、今日一日ずっとつかさを笑顔にできるよう、つかさとツカサに誓って、一緒にゲートを潜ったのだった。





守りたいのはその笑顔




「つかさが八重歯見せて笑う顔、めちゃくちゃ可愛いよなー……」

「……鋭ちゃんの笑顔の方が可愛いよ?」

「お、男に可愛いとか言うなよ!?」

「そう?私、鋭ちゃんの可愛い笑顔、好きだよ。」

「ぐっ……お、俺だって、その、す、す、好きだ……」

「あははっ!うん、やっぱり好きだなぁ……」








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