「おーい!ツカサ!俺だ!俺!」
「ちょっと!声大きいよ!てっちゃん!」
「……その呼び方!女の方か!」
「バカ!それも声でかいよ!」
わりーわりー!と謝るとても声の大きい元気な彼の名前は鉄哲徹鐵くん。私は中学校に上がる前まで埼玉県に住んでいて、彼は幼稚園から小学校卒業までとても良くしてくれていた。当時、女男とか男女とかとにかく周りから揶揄われ、女子からは好きな男の子を巡ってあらぬ噂を立てられたり利用されそうになったり、男子からは騙してるだの女子からのスパイだのと言われたり、とにかく幼き日の学校生活に良い思い出があまりなかったのだけれど、目の前でニカッと笑うこの男の子だけは違った。幼稚園の頃から本当に良くしてくれて、熱血漢という言葉が相応しく、私が格闘技や武術に興味を持ったのは彼の影響だったりする。
「てっちゃん、久しぶり。元気だった?」
「おう!確か……中二んときの、あの日以来だよな?」
「う、うん、まぁ、その話は、おいおい。ところで、雄英はもうすぐ体育祭だよね?」
「おう!活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せるんだぜ!?うおおお!燃えるぜ!」
「どこかで聞いたなぁそれ……まぁ、いいや。あのさ、てっちゃんに相談があるんだけど……」
「おう!何でも言ってくれ!俺にできることなら力んなるぜ!」
「ありがとう……あのさ、実は……」
私は切島くんの名前は伏せ、彼の髪色の英語頭文字を借りて、少年Rというコードネームでてっちゃんに彼のことを相談した。男の子であるツカサの姿で出会ってしまい、一緒に痴漢を退治したことをきっかけに友達になってしまったこと、女の子であるつかさの姿で学生証を届けてもらったり痴漢を退治してもらったりしたこと、少年Rはつかさにツカサの情報を求めてくること、そして私の個性、連絡先の件、体育祭の件……とにかく順を追って一つ一つ丁寧に説明した。
てっちゃんはあまり考えるのが得意ではないからか、一つ一つ一生懸命スマホでメモを取って話を聞いてくれていた。こういう真面目なところも彼のアツい性格に起因しているのだろう、頼もしいこと限りない。彼はコーラを飲みながらスマホをぽちぽちと弄り続け、突然ぱちっと目を合わせてきてニカッと笑った。
「まず今一番に考えれんのは体育祭だな!Rには男の姿では行かねーっつったんだろ?そんならお前は男の姿にならなきゃいい!」
「そ、そうだよね、うん、私もそう思う。」
これについては先日私もそう決めたばかりだ。やはり無難な対応策だろう。
「んじゃ次に連絡先!Rから聞かれたときは女の姿で、聞かれたのはチャットアプリだよな!これは普通に女の姿で教えとけ!隣野の連中にもそうしてんだろ?」
「でも、男の子の時に聞かれたら……」
「あー、そんときゃあれだ。ほら、チャットアプリじゃなくてメールアドレスの方にすりゃいい!それなら俺しか知らねーだろ。」
「て、てっちゃん頭良いね……!?」
「おう、クラスメイトにめちゃくちゃ頭がキレる女がいてよ、ソイツに相談してみた。」
「あ、ありがとう、てっちゃんがいてくれてよかった……」
てっちゃんのクラスメイトさんの案はまさに絶妙で、男の子の時に連絡先を聞かれたらメールアドレスの方を教えればいいという対応策を採用させてもらうことにした。さて、残す問題はあと二つ、ツカサのことと私の個性のこと。これに関してはてっちゃんのクラスメイトさんには相談せず、二人でうーんと首を捻って知恵を絞り出した。ひとまず個性については、今は見せられないとか、その時が来たら教えるとか、曖昧な形で済ませようという結論になったのだけれどやはりツカサについてはどうしようもない。
「いっそ双子の兄妹っつーことにすっか?」
「一度しらばっくれてる以上それは無理。しかも同時に会おうなんて言われたらおしまいだよ。」
「っかー!そいつァ盲点だったぜ!」
「ていうか連絡先の件がおじゃんになるよそれ……」
「お、お前頭良いな!?」
「私達、似てないのに波長合うよね……」
この後はてっちゃんとポテトやナゲットをつまみながらお互いの高校生活の話に花を咲かせた。てっちゃんは暑苦しい性格だけどとてもサバサバしていて話しやすい。きっと少年R、もとい、切島くんも慣れればこんな風に打ち解けられるんだろうけど、最初に男の子の姿で出会った以上それは叶わぬ夢だろう。けれども最近こんな風に切島くんと仲良くなれたら、なんて考えてしまうことがやけに多くて自分でも戸惑っている。なぜか彼のことが気になって仕方がない。といっても彼が気にしているのは私ではなくツカサなのだろうけど。ふうっと一息ついたところで、そろそろいい時間になっていて。私とてっちゃんは駅まで一緒に行って、体育祭頑張ってねとお互いの拳を突き合わせてからお別れした。
そして体育祭前日の土曜日。今日は部活動がないから帰りにアイスでも食べて帰ろうと上機嫌で教室を出た。確か今日は駅前のアイス屋がメンズデーをやっていたっけ。今日の服装は大きめのユニセックスシャツにショートパンツ。私は一旦更衣室に入ってボトムスだけ長めのスキニーパンツに履き替えた。そしてポケットからいくつか飴玉を取り出して口の中に放り込んでガリガリと噛み砕いた。魔法の時間の始まりだ。
校門を潜ると燃えるような赤が視界に入った。言わずもがな、切島鋭児郎だ。彼は僕を見るなり、待ってたぜ!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。
「よう!お疲れ!」
「どうも。僕、今からアイス食べに行くんだけどキミも来る?」
「えっ!?いいのか!?」
「……トモダチ、なんだろ?明日、僕は行かないけど体育祭みたいだし、今日は僕の奢りってことでいいよ。」
「うおおお!おめー細いけど太っ腹だな!んじゃ、お言葉に甘えるとすっか!」
「ん、じゃ行くよ。」
僕がスタスタと歩き出したら彼は角のような前髪を揺らしながらついてきた。最近、テツ、もとい、鉄哲徹鐡と会ったからか、この暑苦しさも幾分慣れてきてしまって、今では僕も切島を友達だと認めてしまっているわけで。けれども間違っても気を許してはならないし個性のことだってバレてはいけない。もう二度と、あんな思いはしたくない。僕も、つかさも。
メンズデーのおかげかファンシーな外見のこのアイス屋に男の客が何人もいた。おかげで男二人で向き合って座っても自然に見える。僕は迷わず三段アイスにした。切島は遠慮して一段を選ぼうとしたけれど、せっかく奢ってやるのに一段じゃ奢りがいがないからと強制的に三段アイスにして好きなフレーバーを選ばせた。
「ツカサよォ……おめーやっぱ漢……いや、男らしいよなァ……」
「なんだよ突然。アイス奢ったくらいで。」
「いや、こう、スマートっつーかなんつーか……なぁ、おめー彼女とかいんのか?」
意外も意外。テツや切島の様な暑苦しいタイプの男がまさかそんな話題を振ってくるとは。僕は危うくスプーンを落としかけたが、どうにか動揺を隠して会話を続けた。
「んー、僕は恋愛とかキョーミないかな。」
「マジかよ!?そんなにかっけェのに!?勿体ねェ……」
「何?好きな子でもいるの?」
「いや、好きっつーかなんつーか……ちょっとソイツのこと知りてェっつーか気になるだけなんだけどよ……」
「何それ。僕のこととか言ったらはっ倒すよ。」
「ちっ、ち、ちちち、ちげェよ!おめーは男だろ!?」
「あっはははは!本気にすんなよ!」
切島は食べてるブラッドオレンジフレーバーみたいな顔色で慌て出した。僕だって冗談の一つくらい言うけれど、まさかこんなに大慌てするなんて面白すぎるだろ。しかし次に大慌てするのがまさかこの僕の番になるとは。
「ったくよォ……俺が気になってんのは、おめーと同じ髪色で下の名前も同じの飴宮つかさっつー女子だ。」
「ぼっ!?ぐっ!!げほっごほっ!!」
「うおっ!?大丈夫か!?」
僕のことじゃないか!と言いかけて何とか堰き止めるも、余りの衝撃にアイスが気管に入ってしまった。切島はトントンと僕の背中を叩いてくれている。なんつータチの悪い冗談を、なんて思ったけれど、彼はテツと同様暑苦しく真っ直ぐな男だ。つまり先ほどの発言は冗談なんかじゃなくて彼の本音なのだろう。
「だ、大丈夫か?」
「悪いね……大丈夫。で、そのつかさちゃん、だっけ?彼女がどうかしたの?」
「お、おう。いや、なんつーか、こう、守ってやりてーって感じの小せェ女子でよ、えーと電車の中で…………」
彼が女の姿の僕との馴れ初めを細かく話し始めた。当然僕は全部知っている。なぜなら自分の実体験なのだから。これは長くなるぞと思った僕は切島の話を聞きながら飴玉を口の中に何度も何度も放り込んだのだった。
気になる人
「……そんでよォ、明日の体育祭、見に来るらしいんだわ。」
「へぇ、んじゃ、気になる彼女にかっこいいとこ見せてやれば?」
「いや、だからまだそんなんじゃねーって!」
「まだ、ね。へぇ……」
「お、おめー、案外意地悪いな!?男らしくねーぞ!」
「今頃気付いた?あ、それ一口ちょーだい。」
「お、お、おい!か、か、間接……!」
「は?乙女かよ。僕等男同士じゃないか。」
「あ、そ、それもそうか……」
そういえば先日テツとは女の姿でも平気でジュースの回し飲みをしたっけ。テツはこの程度のことで狼狽なかったけど、男?漢?的にはどっちのレベルが高いのかと少し気になった。