「明日の体育祭、マジで頑張んなきゃなァ。飴宮、見に来るっつってたし……」
「ん、頑張んなよ。彼女だけじゃなくて、プロヒーローもわんさか来るんだから。」
「おう!ますます気合入るぜ!……ところでツカサ、お前って1年なのか?」
「えっ?……何年に見えてるわけ?」
「いや、だってよ、飴宮もスポーツ科だから1年なら同じクラスだろ?」
「あー……まぁ、ご想像にお任せするよ。」
「はァ!?なんだよそれ!まァ、ダチには変わりねェからいーけどよ……」
突然なんつー爆弾を投げてくるんだ。僕と彼の性格の噛み合わせのおかげかなんとか誤魔化すことはできたが。仮に苗字を聞かれた時は何て答えるか……外人っぽくファミリーネームでも考えとくか?なんて思ったりしていたらそろそろいい時間になっていて。僕達は慌てて電車に乗って、電車内でも他愛ない話をして、最寄駅であっさり別れた。
そして雄英高校体育祭当日。昨日切島くんがあんな話をしてきたもんだから、少なからず私も彼のことを意識してしまって、今日の服装はどうしようかと困り果てて家を出る時間がかなりギリギリになってしまった。今日は男の子になる予定はないから飴玉は護身用に三粒だけ持って来た。駅に着いて電車に乗り、友達と待ち合わせしている雄英高校正門まで走って行った。門には既に1年7組の二人の女子と二人の男子が待ってくれていた。挨拶を交わして門をくぐり会場に向かったら学年ごとにステージが分かれていて。一人の男子は3年生ステージへと入って行った。なんでも通形さんと天喰さんという中学の頃の先輩の応援がしたいとか。女子二人とバスケ部の彼は2年生に見たい人がいるとかでそちらへ。そして私はてっちゃんと切島くんを、と1年生ステージへと入った。
1年生といえども流石雄英。そして先日の
選手宣誓は本気で腹が立った。ポケットに両手を突っ込んだ不良風の男子がスポーツマンシップに全く則っていない最低の宣誓をかましたからだ。雄英は何を考えているんだろう、こういう熱血漢の晴れ舞台にこそ、てっちゃんや切島くんを起用すべきだろうに。
第一種目の障害物競走ではスタート時点で地面が凍り付いて多くの生徒がふるい落とされていた。何ともえげつない妨害だ。まぁ、先頭を走る氷の男の子のスピードは幸い大したことないから彼より早くスタートを切ればいいだけの話だけれども。てっちゃんと切島くんは、と目を凝らすと、切島くんは硬化の個性で足をスパイクのようにして氷の上を走り、てっちゃんは金属だからか特に影響なし。二人とも素晴らしい動きだ。
途中のロボットのエリアではやはり氷の男の子が攻略と妨害を一気に仕掛けて突破していた。彼の戦闘センスは中々のものだ、一度手合わせしてみたいなんて思うほど。ロボットが倒れた際の砂塵が薄くなったところで切島くんとてっちゃんが同時に顔を出して同じセリフを吐いていたのが聞こえた時はクスッと笑ってしまった。やはりあの熱血漢同士は個性も性格もダダ被りで波長が合うようだ。実況のプレゼント・マイクすらもウケるなんて笑ってる。そして綱渡りエリアに地雷エリア、彼らは次々に難問をクリアして行き、最終的に切島くんが9位、てっちゃんが10位と二人とも好成績を収めていた。
続いて第二種目の騎馬戦では、あの宣誓少年に対して切島くんは明るく元気に声をかけて一緒に騎馬を組んでいた。意外も意外、全然タイプが合わない二人かと思っていたが、宣誓少年は切島くんの根性を認めているような感じだった。しかし彼は空中を飛び散らかして全然騎馬戦って感じがしなくて正直あんなヤツがヒーローになるのかと甚だ疑問を持つばかりだ。結果、切島くんのチームは2位、てっちゃんのチームは惜しくも上位4チームには入れなかったみたいだ。ここで休憩時間になったみたいだから、一緒に来た友達と連絡を取り合って、美味と名高いランチラッシュの昼食に舌鼓を打つことにした。
食堂で友達とそれぞれの学年のステージの話になったけれど、やはり一番盛り上がっていたのは1年生のステージだったみたいだ。周りの人達も1年生の話で持ちきりだった。さて、私達は順番に注文した食事を受け取って席を探すも5人席は生憎見つからず、誰か一人がバラけなくてはならなくなった。私はてっちゃんを探して相席させてもらおうかとスマホを取り出したところで突然後ろから名前を呼ばれた。
「飴宮!おーい!俺だ!切島だ!本当に来てたんだな!」
「おお、切島くん、お疲れ様。騎馬戦2位だったね、おめでとう。」
「おう!ありがとな!」
「つかさ、知り合い?」
「おぉ、けっこーイケメンじゃん。」
「うん、学生証拾ってもらったのと先日の電車の件でね。丁度いいや、一人離れなきゃだし、私、彼とご飯食べようかな。」
「マジ?悪い、つかさ。」
「飴宮、悪い。でも相手が知り合いなら良かったぜ。」
4人と別れて、私は切島くんに事情を話して相席させてもらうことにした。丁度彼も5人組で一人あぶれなければならなかったから助かったと眩しい太陽のような笑顔を向けてきた。二人で向き合って席に着くのは2回目だから私は特になんとも思わなかったけど彼はなぜかソワソワしている。そうか、今の私では初めてだからか。
「なぁ、今日何で見に来たんだ?知り合いでもいんのか?」
「あ、うん、いるよ。たしかB組って言ってたかな……」
「ヒーロー科かよ!?誰だ!?」
「え、教えないよ。」
「えー!?何でだよ!」
そんな理由、詮索されたくないからに決まっている。てっちゃんのことだ、私のことを聞かれたら口止めしていないことは全部喋ってしまうはずだ。私はさっさと次の話題に移ることにした。
「それにしても流石雄英体育祭だね、テレビで見るよりずっと迫力があってびっくりした。」
「お!そう思うだろ!?だよなァ、この熱さがわかるなんて流石スポーツ科だぜ!はぁ、ツカサも来りゃよかったのになァ……」
ツカサ、それは私の名前でもある。彼の口から自分の名前を出されてちくんと胸が痛んだ。彼を騙しているという罪悪感から来た痛み。私はオムライスをかきこんで胸の痛みをごまかした。しかし本当にここの食事は学食のレベルを超えている。正直隣野の学食では遥かに敵わない。食事を終えて、スマホを出してチラッと時計を見ると、切島くんがあっ!と大きな声を出した。
「わぁっ!な、なに?どうかした?」
「いや、連絡先!教えてくんね?今丁度スマホ持っててよ!」
「あ、うん、いいよ。チャットアプリだよね、はい。」
「お!ありがとな!よし、これで、っと……」
「ありがとう。じゃ、午後からも頑張ってね。折角の晴れ舞台なんだから。」
「おう!ありがとな!」
先日てっちゃんと話した通り、私はチャットアプリの画面を出して、コードを受信して彼と連絡先を交換した。念のためあの日のうちに、ツカサにつながるような画像や呟きは削除しておいて正解だった。また後で連絡するわ!と言われていつも通り太陽のような眩しい笑顔を見せてくれたところで彼と別れ、私はもう一人の知り合いを探してウロウロと食堂内を彷徨くのであった。
熱血漢の晴れ舞台
「あっ、てっちゃん!探したよ!騎馬戦惜しかったね!」
「うおっ!つかさ!……なんだ、えれぇ女らしくなったな。」
「おいっ!私は女の子だよっ!失礼しちゃうなぁ!」
「ジョーダンだって!久々にそーゆー格好してんの見たからつい、な!」
「あー……うん、そうかも。」
先日の放課後は無地の白いパーカーにダメージジーンズという男っぽい格好だったけど、今日は花柄のシフォンワンピースだったからかてっちゃんに軽く揶揄われてしまった。けれどこれは彼なりの優しさだとわかっていたからなんとなく怒る気にはならなかった。