あの二人、硬化とスティール……ほぼ同じといってもいい個性だけど、一体どっちが上なんだろう。彼等ならきっと正面から堂々とぶつかり合う小細工無しの殴り合いで勝負するに違いない。格闘技を得意とする私としてはある意味最も楽しみなカードなのかもしれない、と少し気分が高揚した。
そしてトーナメントの準備を進める合間にレクリエーションが始まった。大玉転がしや綱引き、借り物競走などが行われた。しかし、借り物競走である問題が勃発した。
「飴宮ー!どこだァ!?」
「つかさ!どこだー!?」
「ん?」
「あ?」
「「またダダ被りかよっ!」」
どうやら二人とも借り物競走の借り物として私を探しに来たようだ。二人の借り物カードを見ると、切島くんの方には『青い髪の女性』、てっちゃんの方には『幼馴染』と書かれていた。周りを見渡したけれど、確かにこんな青い髪色の人は自分以外にいないし、幼馴染に至ってはかなりの難易度だ。仕方ない、と私は観客席を立ち上がって急いでステージの方へ走った。ワンピースがヒラヒラして邪魔だけど、念のためスパッツを履いて来ていたから走ってもめくれる分には困らない。
フィールドに出るとすぐに右手を切島くん、左手をてっちゃんに掴まれて、ぐんっと身体を引っ張られた。普通の女の子なら足を縺れさせるとか、引き摺られるように走るとかするのだろうけど、生憎私はそんな可愛らしい女の子じゃない。二人よりも前に出て、逆に二人を引っ張るように走ってやった。目立ちたくはなかったけれど、実況のプレゼント・マイクから青い彗星だなんて揶揄されてとても恥ずかしい思いをした。
「つかさ!お前、こんな足速かったのか!?」
「飴宮!悪ィ、助かった!流石スポーツ科だな!」
「はぁ……目立ちたくないのに。私、上に戻るからね。二人とも、この後も頑張ってね。」
あまり人の目を浴びたくなかった私は早急にこの場を立ち去ろうとしたのだけれど、似た者同士のこの二人はこんな時も同じ爆弾を私に投げつけようとしてきた。
「なァ、つかさ、少年Rって……」
「て、ててて、てっちゃん!これ!葡萄キャンディ!あげるから食べて黙っといてくれる!?」
「お?おう、わかった!サンキュー!」
「ん?なぁ、飴宮、お前の知り合いって……」
「きっ、ききき、切島くん!これ!林檎キャンディ!あげるから食べて黙っといてくれる!?」
「お?おう、わかった!ありがとな!」
飴を二人の口に入れて口封じをしてホッと一息ついた瞬間、二人ともその場に倒れ込んでしまった。ハッとしてももう遅い、私は自分の個性を発動するための飴を二人の口に放り込んでしまったのだ。きっと今頃魔法の世界のような楽しい夢を満喫しているだろう。あたふたと困り果てていると、サイドテールの女の子がてっちゃんを、眼鏡をかけた男の子が切島くんを抱えて控え室へ運んでくれると助け舟を出してくれた。私がこそこそと観客席へ戻って腰をかけると、ちょうどバトルフィールドの準備が終わったようで、プレゼント・マイクの意気揚々とした実況と共に最終種目の火蓋が切られた。
闘いはほとんどが短期決戦でどんどん進んでいき、あっという間に7戦目、切島くんとてっちゃんの闘いが始まった。予想通り、彼等はお互いの身を硬くして拳と拳で語り合うといったような闘い方だ。真っ向勝負の殴り合い、思わず私も参加したくなるほどウズウズする。ああ、どっちが強いのだろう、勝った方と手合わせしてみたいとすら思うほどの熱い闘い。しかし激闘を制した者の存在はなく、両者ダウン、引き分けとなってしまったのだ。どうやらこの後簡単な勝負で決着をつけるらしい。次はあの宣誓少年と丸顔の女の子。恐らく彼は相手が女の子といえど手を抜くような男ではなかろう。案外、ああいう奴ほど相手の実力を認めて全力を出してくるものだ。
しばらく黙って観戦していたけれど、プロヒーローは何を見てんだか。丸顔の女の子の個性はきっと浮遊とか無重力とかそんな感じなのだろう、宣誓少年の頭上には無数の瓦礫の流星群。まぁきっと彼なら自慢の爆破で何とか防ぎきるのだろうが、なんて思っていたら案の定、私の予想通りの展開で。宣誓少年の勝利で一回戦を一通り終えて小休憩を挟んだところで、漢と漢の延長戦が始まった。勝負の内容は腕相撲。これは金属疲労が蓄積してそうなてっちゃんに分が悪い。葡萄じゃ鉄分が足りなかったか。腕相撲はあっという間に切島くんの勝利で決着がつき、二人は暑苦しく固い握手を交わしていた。
しばらくして二回戦目が始まった。わたしはてっちゃんを探して観客席を歩き回っていた。しかし、どの組もなんて激しい闘いだ、流石雄英体育祭、しかし私は足を止めずキョロキョロと辺りを見回しながら歩き続けた。やっとてっちゃんを見かけたところで走って駆け寄って行ったら、彼のクラスメイトが一つずつ位置をずれてくれて私に席を開けてくれた。
「てっちゃん、負けちゃったね。でも、すごくかっこよかったよ。」
「おう!真剣勝負だったからな、悔いはねェ!悔しいけどな!」
「今度私とも手合わせしてよ。久しぶりにてっちゃんと闘いたいな。」
「おう!いいぜ!けど、もう俺の方が強いぜ!」
「飴を食べれば誰にも負けないよ。もう誰にもね。」
「…………なァ、お前……!?うおおお!?」
「うわっ!?何これっ!」
突然フィールドから物凄い爆風が吹いてきた。どうやら寒暖差によって空気が膨張した結果のようだ。風がおさまった直後、一回戦で熱い闘いを繰り広げていた雀斑の少年が壁に叩きつけられて倒れ込んでしまっているのが見えた。どうやら勝利したのはアシンメトリーヘアの……障害物競走の、氷の男の子のようだ。
「は、激しいね……」
「あいつ、A組の推薦入学者だからな!俺もいつか闘ってみてーな!」
「てっちゃん、鉄なんだから低温脆性に気をつけなよ……」
「おう!よくわかんねーが、正面から殴って勝つ!」
「ははっ、てっちゃんらしいね。あっ、ほら、次、切島くんだよ。」
「ん?おお!うおー!切島ァー!頑張れよー!」
てっちゃんが叫んだと同時に宣誓少年対切島くんの熱い闘いの火蓋が落とされたのだった。
熱い闘い
「なぁ、つかさ!どっちが勝つと思う!?」
「うーん……勝ってほしいのは切島くん。けど、見た感じ相性的には宣誓……爆豪くんだっけ?彼だと思うよ。ああ見えて頭を使った対処もできるみたいだしね。」
「なァ、少年Rってアイツのことか?」
「……それさっきも言おうとしてたでしょ。彼の前で絶対その話しないでね。」
「おう!任せろ!」