「さっちゃん!偶然!さ、探してたんだ!」
「偶然なのか探してたのかはっきりしなさいよ……」
「……さ、探してたっていうか、ここにいるって尾白から聞いたっていうか……」
上鳴君の顔色が妙に赤い、いや、赤すぎる。彼の個性は帯電だ。蓄電し過ぎて熱でも出たのだろうか。こういう時、漫画の世界なんかだったらさり気なく額に触ったりして、熱はないね、なんて言葉を交わしちゃったりするんだろうけれど生憎私にそれはできない。個性の問題もあるけれど、軽々しく異性の身体に触れるなんて以ての外だもの。
「さっちゃん?どしたん?ムズカシー顔しちゃって。」
「……気にしないで。それより私に何か用事?」
「あ、う、え、っと、そ、それ、は……」
何か用事かと尋ねると突然まごつきだしてしまった。左右を行ったり来たりしながらあーとかうーとか唸っている。ここにいるのを聞いてきた、ということは爆豪勝己の仕業だろう。彼の考えていることは私なんかじゃ理解不能だ。切島君はわかってた風だったけど、一体何が起こるんだろう。
「……あ、のさ……さっちゃんってさ、す、す、す……」
「す?」
「す、す、すいか!すいか、好き?」
「は?西瓜……ま、まぁ、どちらかと言えば好きね。」
「あ、じゃなくて……えっと、す、す、するめ!」
「は?スルメなんて滅多に食べないけど……まぁ、特段嫌いってわけでもないかな……」
彼のぶっ飛んだ発言は今に始まったことじゃないけれど、今日のは特に意味がわからない。それに雰囲気もおかしい気がする。いつもはへらっとした柔和でとっつきやすい雰囲気なのに、今日はやたらと高揚しているというか落ち着きのなさが浮き彫りになっているような感じ。目線をキョロキョロと泳がせているかと思ったら、ぎゅっと目を瞑って再びぱっと見開いた。一体どうしたというのか。
「……さっちゃん!す、す、す、好きな男いるってマジ!?」
「……はっ、はあぁ!?だっ、だだっ、誰がそんなこと……!!」
「……爆豪。」
あの非常識男子……言動の通り、かなり爆発的な思考をしているようだ。爆の字がぴったりだ。どうしよう。ここであなたのことが好きです、なんて言う勇気は私には無い。皆無だ。そんなことはない、なんて言い訳も通用しないだろう。どうすればここを切り抜けられるのだろう。しばらく私が口籠っていると、突然視界がフッと暗くなった。何事かと顔をあげれば上鳴君の顔がちょうど50センチほど先にあった。私の個性よ、なぜこんな時に働いてくれないのか。
「あの、さ……」
「何……?」
「……そんなに、好きなん?ソイツのこと。」
「ま、まぁ、そう、かも。」
「……どんなヤツ?」
「……勉強が苦手で、スケベで、すぐに半べそかいて、女の子に声かけまくってて、見てて不快でしょうもないだらしない男ね。」
「そ、それただの悪口じゃね!?」
「……おちゃらけてるようで周りのことちゃんと見てて明るい空気を作ってくれて、そのおかげか友達も多くて、笑顔が可愛らしい、素敵なヒーローのタマゴ……かも。」
上鳴君はかーっと顔を真っ赤にさせて、うーんうーんと唸り出した。ここまで言わせてくれたのだ。もうバレバレだろう。さっさと楽にしてくれないかしら。
「……い、一応、質問。」
「何かしら。」
「峰田、じゃないよね?」
「……逆に私が峰田君を好きだと言ったらどうするのよ。」
「ぜ、絶対ダメ!切島はともかく峰田には取られたくない!」
「……えっ?」
今のは都合の良い聞き間違いだろうか。取られたくないと言われたような気がする。上鳴君は目線を泳がせて口元を抑えている。
「……あ、のさ、えーっと……俺じゃ、ダメ?」
「…………」
「この前さ、切島とラインしてたっしょ?それで切島に色々話したらアイツさっちゃんのこと美人とか言うし、爆豪からはさっちゃんは切島に気があるんじゃないかとか言われるし……」
「つまり、どういうこと?」
私もそこまでバカじゃない。期待、していいんだよね?
「……俺、切島に負けねーように頑張るからさァ……だから、その……お、俺と、つ、つ、つ、付き合っちゃってみない?」
「……ノリが軽いのは嫌。」
「す、好きです!付き合ってください!」
「最初からそう言いなさいよ。」
「あ、相変わらずキビシー……」
上鳴君はがっくりと肩を落としてしまった。けれど、次の私の言葉を聞いた途端、彼はシャキッと真っ直ぐ立って、瞳をキラキラと輝かせた。
「……付き合っちゃってみようかしら。」
「……えっ!?えっ、ま、マジ?マジで!?」
「……だって、すき、だもん。」
「……えっ?」
「上鳴君のこと、すき、なのよ。」
「う、ウソ!?えっ、そ、そうなの!?……えっ!?じゃ、じゃあさっきのって俺のこと!?」
「そうよ。」
上鳴君は何度も本当!?と聞いてきた。気づけば彼と私の距離は50センチの距離も飛び越えておそらく20センチ、いや、手を握られたのでもう10センチといったところか。
「さっちゃん、あのさ、カレカノっつーことならさ、俺のこと、電気って呼ばね?つーか呼んでくんね?」
「で、んき、君。」
「そ、電気。」
「電気、君。」
「ん……幸……はなんかハズい……やっぱさっちゃんかな……」
「す、好きにすればいいわ。」
なんだか小っ恥ずかしくて手を握り合ったままお互いそっぽを向いてしまった。どうしよう、こんな時、どうすればいいんだろう。もやもやぐるぐるとパニックになっていると、突然教室のドアがガラッと開いた。立っていたのは芦戸さんと尾白君だった。咄嗟にパッと手を離してしまったけれど、すぐに上鳴……電気君に片手を握られてしまった。
「上鳴おっそ〜い!いつ言うのかなってハラハラしてたんだよ!?」
「しょーがねーじゃん!さっちゃん美人だから緊張しちゃうんだよ……」
「びっ、美人!?やめてよ恥ずかしい……」
「まぁまぁ、終わり良ければ全て良し、ってことでさ。良かったね、二人とも。」
「……芦戸さんも尾白君も気づいてたの?」
「見てればわかるよね?」
「ま、まァ、ね。」
私は顔を真っ赤にしてへにゃへにゃとしゃがみ込んでしまった。顔を赤くした時にぼふっと音が聞こえたのではなかろうか。伏せた顔を少しだけ上げてみると、いつのまにか私と同じくしゃがみ込んだ電気君とぱちりと目が合った。
「……俺のこと、好き?」
「……うん。」
「……マジ?」
「……うん。」
「……抱きしめてもいい?」
「……う、ん。」
「じゃ、記念すべき最初のハグを……って、おわっ!!」
「きゃあっ!!」
わずか10センチほどしか離れていない距離で手を伸ばされた途端、何故か電気君はバランスを崩して顔面から地面に激突した。驚いた私は尻もちをついてしまって、芦戸さんと尾白君の、あっと驚く声で慌てて上体を起こしたのだけれど……
「し……白のレース……」
「ッ……!ざけんなァッ!!」
ドゴォッ!!
「ぎゃあああっ!!顔面絶対床にめり込んだ!!」
「知るかっ!!」
ショートしてしまった時のようなだらしない表情で私のスカートの中をまじまじと見つめる電気君が目に入った瞬間、私は彼の頭を思い切り床に向かって押しつけた。冗談じゃない、どうしてこんなドスケベ男に惚れてしまったのか自分でも到底理解しきれない。
「ご、ゴメンナサイ……」
「……こちらこそごめんなさい、厄介な個性で。」
「い、いや、俺的にはオイシーっつーか何つーか……」
「……貴方って本当に嘘がつけない人よね。」
「まー上鳴だもんね。」
「うん、上鳴だもんね。」
「何ソレどーゆーこと!?」
「良い人、ってことよ。ほら、早く立ちなさい。」
いつまでも寝そべっている電気君に手を伸ばすと、彼はニヤッと笑って私の手を掴み立ち上がった。それを見た芦戸さんと尾白君は早く帰ろうと言いながら教室を先に出て行こうとした。着いて行こうとしたけれど、ぐいっと手が後ろに引っ張られて前に進めない。ちらっと振り返ると、満面の笑みを浮かべた電気君がいた。
「これからカレカノっつーことでよろしく!」
「……ヨロシクオネガイシマス。」
「な、なんで棒読みなの!?」
「……よろしく!ほら、二人を待たせるのは悪いから!」
これ以上二人でいるのが恥ずかしくて、私はぐいぐいと彼の手を引っ張って、急いで芦戸さんと尾白君の後を追いかけたのだった。
カレカノ始めました
「彼氏とか初めてだから……ごめんね、何か粗相があるかも……」
「大丈夫大丈夫!さっちゃんの個性は俺にとってはラッキーでハッピーだからさ!」
「なんてスケベな人なの……」
「俺なんかより峰田の方がスゲェって!」
「そ、そうなの!?」