キミの隣で



***



「………ってことで、俺と真は付き合うことになったんだ。」

「わー!すごく素敵な話!尾白くんいいねー!青春してるねー!」

「……何のドラマだよそれ!そんなの俺にはぜってー無理だわ!」


俺は真との出会いから付き合うまでのことを振り返りながら、かなり詳しく葉隠さんと上鳴に語ってしまったが2人は食い入るように話を聞いてくれた。そして俺が話し終わったところで5限の終了を知らせる予鈴が鳴った。話疲れて身体を思い切り伸ばしていると、爆豪がこちらにのしのしと歩いてやってきた。


「おい尻尾。てめェに客だ。」

「え、俺に?」

「……頭に林檎乗っけた女。」

「あ、わかった。ありがとう爆豪。」

「……爆豪、お前って結構気ぃ利くんだな。」

「ケッ、ドアの前に立たれてンのが邪魔なだけだわ!」


噂をすればなんとやらってやつだろうか、教室の後ろ側のドアに近づくと手を後ろに組んでもじもじしている真がいた。ちなみに頭に乗っている林檎というのはあの日俺がプレゼントした林檎の髪留めのこと。確かバレッタというらしい。


「真、どうしたの?」

「あっ、あのね……英語の教科書、貸してほしいの。」

「……くくっ、今朝忘れ物確認したよね?」

「ち、違うの!6限が急に英語になっちゃって!ほら、あの人も上鳴くんに教科書借りてる!」


教室の前側のドアを見ると、以前話したことのある男子が上鳴から英語の教科書を借りているのが見えた。なるほど、急に科目が変わってしまったのか。


「うん、わかった。ちょっと待ってて。」


俺は一旦自分の席に戻って英語の教科書を取り、ドアまで戻って真に手渡した。真は頬を赤くして、お礼を言うとD組の教室へ早足で戻って行った。





6限が終わると真は俯きながら教科書を返しに来た。なんでも自分のものと思い込んで教科書に蛍光ペンで線を引いてしまったとか。思わず笑ってしまったら、俺が怒っていないことに安心したようで彼女も花が咲いたように笑顔を見せた。こんなことで怒るわけないのに。


教科書を受け取ると、彼女はまた明日ね、と言って手を振って身を翻した。確か今日の放課後は親友と遊びに行くって今朝嬉しそうに話してたっけ。少し名残惜しいが俺も手を振って彼女を見送って教室に戻った。


7限を終えて帰る準備をしていると再び上鳴にとんとんと肩を叩かれた。


「おい尾白。今日は真ちゃんと一緒に帰らねえの?」

「うん。親友と遊びに行くんだって。」

「ふーん。でもさ、学科も違うんだから毎日一緒に帰りたいとか思わねえの?」


以前真からも似たようなことを聞かれたことがある。確かその時は、自分のやりたいことを我慢させるようなことはさせたくないとか、お互い自分を第一にありのままでいようとか、そんなことを話したはず。


「うーん、束縛したくないし、俺も真も自分の時間や友達は大切にしたいって思うタイプだし。」

「……俺もお前みたいになれば彼女できっかな。」

「上鳴には上鳴の良さがあるからさ、誰かの真似しなくて良いんじゃない?」

「……尾白!好きだ!」

「……ごめん、俺には真がいるから。」

「いや、そうじゃねーよ!!」

「くくっ……冗談だよ。」


話ついでに、一緒に帰ろーぜ、と誘ってくれたので今日は上鳴と一緒に帰ることにした。席が前後ということもあって俺と上鳴はそこそこ仲が良く、結構頻繁に一緒に帰っていたりする。


授業のことやお互いハマってるゲームのことなど他愛もない話をしながら歩き、途中の分かれ道で上鳴と別れ、それぞれの帰路に就いた。


こうして今日も俺の一日は終わる。可愛い彼女や楽しい仲間達と過ごすこの日常はこれからも変わらないだろうし、むしろこれからより楽しくなるだろう。明日も明後日もこれからも、真の隣で、そして頼れる仲間達と一緒に一人前のヒーロー目指して頑張ろう、と改めて決意した俺は歩みを進めたのだった。





しかし、まさかあんなことになるなんて俺は微塵も想像していなかった。





キミの隣で




ぶちっ

「ん?……あーっ!!」

「きゃっ!真、うっさい!」

「ご、ごめん!」

「真ちゃん?どうしたの?」

「靴紐切れちゃったあ……」






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