キミと僕との絆



***



幼稚園の年中の頃、園内のわたしのクラス、りんご組の窓ガラスが派手に割れたことがあった。みんなが犯人の押し付け合いをしていたせいか、いつもニコニコしてて優しい先生はカンカンに怒っていて。わたしは大好きな先生のお手伝いをしようと思って個性を使って犯人探しをした。


「ね、まどガラス、わった?」


わたしの個性は、目を大きく開けて相手の目を見てお話することで、相手の言ってることが本当かどうかわかるから。


「んーん、わたしじゃないよ。」

「ううん、ぼくじゃないよ。」

「あたしじゃないもん!」

「……うん、そうだよね!」


そんな時だった。2人の男の子に髪の毛を引っ張られて、園庭の隅のウサギ小屋の陰に連れて行かれた。


「い、いたいよお!はなして!」

「おい!目玉オバケ!よけーなことすんな!」

「そうだよ!おれたちがやったのバレるだろ!」

「おまえ、みんなのことウソつきだと思ってるから個性つかってるんだろ!?」

「ちがうもん!」

「ともだちを信じないなんて悪いヤツだ!おまえが犯人になれよ!」

「う、う、うわあああああああん!!」


わたしの大きな泣き声に気付いたりんご組の先生は真っ赤な顔で走って来て、2人の男の子を叱りつけた。結局犯人はバレて、わたしは先生からよく頑張ったね、偉いねって言われたけど、男の子たちに、あいつはみんなをウソつきだと思ってるサイテーなやつだ、って噂を流された。だからわたしはなるべくこの個性を使わないで生きてきた。人のことを疑っているような人だと思われてみんなから嫌われるのが怖かったし、なにより人のことを疑うよりも信じていたいから。


そしてその翌日、わたしは家の近くのこの公園に1人で遊びに来ていた。ちなみに親友の女の子2人組は年長さんの時に仲良くなったからまだこの時は仲良しの決まったお友達はいなくって。でも、運悪く、公園にはあの2人組の男の子がいて。


「あっ!目玉オバケだ!!」

「こいつ!!」

「あっ!いたい!やめて!!」


2人がかりで髪の毛をぐいぐい引っ張られて大きな木の下に連れて行かれて、いつも髪を結んでいたお気に入りの赤いリボンが取られてしまった。


「かえして!」

「なんだよこんなもの!!」

「「せーの!!」」

「あっ!」


ぶちっ


赤いリボンは2つにちぎれてしまった。年中さんに上がった時にお母さんが買ってくれた大切な可愛いリボンが。なんだかわたしの心もちぎれてしまったような気がして、わたしは涙をぼろぼろこぼして大声で泣き喚いた。


「う、う、うわあああああああん!!」

「なんだよ!おまえが悪いんだぞ!」

「目玉オバケのくせに!!」

「うわあああああん!!だれかたすけてえ!!」





救けを求めたその時。





「やめろ!女の子をいじめるな!」





太陽の光が反射してキラキラ光る綺麗な金髪。
身体とほぼ同じくらいの長さの尻尾。
黄色いパーカーに青いズボンを着た男の子が、わたしを守るように手を広げて彼らの前に立ちはだかった。


「なんだよおまえ!やんのかよ!」

「女の子をいじめるなんてサイテーだ!」

「なんだこいつ!やっちまえ!」

「あっ!あぶない!」


びっくりして目を閉じてしまったけれど、2回大きな音がして、その後はシーンとしてて。目を開けると、腕組みをした尻尾の子と、へこんだ地面の後ろにしゃがみ込んだ2人組がいて。この子は尻尾で地面を叩いただけで、彼らを攻撃したわけじゃなかったみたい。彼らはベソをかきながら逃げて行った。尻尾の子は、大丈夫?どこか痛くない?と座り込んで泣いているわたしに手を伸ばしてくれた。


「ごめんね、おれがもっと早く来てたら、リボン、ちぎられずにすんだのに。」

「ううん、たすけてくれてありがとう、尻尾のヒーローくん。」

「ヒーロー……?」

「うん、おうじさまみたいでかっこよかったよ。尻尾のヒーローくん!」


わたしが涙を拭いてニッと笑うと、尻尾の子は顔と尻尾を赤くして小さく、ありがとう、と言ってくれた。救けてもらったのはわたしなんだけどなあ。それから、リボンを見てしょんぼりしているわたしに彼は、明日もここに来てくれる?と聞いてきたから、この公園で会う約束をした。





翌日、わたしが公園に行くと尻尾の子は先に来ていて。なんの用事かな、と思っていたら、彼はわたしに1つの箱を手渡した。


「これなーに?」

「あけて。」


彼の言う通りに箱を開けると、そこには鈴が付いた1本の黄色いリボンが入っていた。


「わあ!かわいい!」

「これ、あげるよ。きいろいし、それでかみのけむすんだら、あいつらおれのこと思い出してもうひっぱったりしてこないでしょ。」

「わあ……!ありがとう!わたし、たからものにする!」

「……ここ、とおくてなかなか来れないんだ。だから大きくなってまた会えたらそのリボンおれに見せて。」

「うん!わかった!やくそくだよ!」

「うん、やくそく。」





***



「ってはなし!絶対猿夫くんでしょ?」

「……なんかちょっと思い出した。俺、ここで目の大きな女の子と会ったことある。」

「だよね!うわあ、やっぱり猿夫くんだったんだあ!」


真は嬉しそうに両手を赤い頬に当てている。幼少期の自分がそんなキザったらしいことをしていたことが恥ずかしくて、俺まで顔と尻尾が赤くなっているのがわかる。


「猿夫くん、あの日なんでここにいたの?」

「確か母親と買い物帰りだったんだと思う。次の日は、ちょっと遠かったけど約束したから1人で来たと思う。でかくなった今じゃたいした距離じゃないけどね。」

「そうなんだあ……えへへ、わたし、幸せだなあ……あのヒーローが猿夫くんだったなんて……」


まさか彼女の黄色いリボンと鈴にそんな秘密があったなんて。というか俺はなんで忘れてたんだ、とただただ情けなく感じる。


「でも、お互い忘れちゃってたんだねえ。」

「……面目ない。」

「えへへ、大丈夫!だって、今いっしょにいるんだから!」

「……今だけじゃないよ。」

「えっ?」

「……ずっといっしょにいるよ。」

「ッ〜〜〜!!猿夫くんっ!!」


ごちっ


「痛っ!真、後ろに木あるから!頭打つから急に飛びつかない!」

「ごめんなさい……記憶失くしちゃったら困るから我慢する!」

「……何もないところだったら我慢しなくていいから。」

「ッ〜〜〜!!猿夫くんっ!!」


ごちっ


「あっ。」

「……くくっ、大丈夫だよ。ほら、本読むんでしょ?」

「……うん!」





キミと僕との絆




救けを呼ぶ声がして、気がついたら彼女の目の前に立っていた。


あの時泣いてた女の子の丸くて大きい綺麗な瞳に、子どもながら一目惚れしたのが俺の初恋。


恥ずかしくてそんなこと言えるわけがない。






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