小さくなっても



今日は日直だから猿夫くんとは別登校。朝早く学校に向かっていると懐かしい苑辺野中の制服を着た女の子が地面をキョロキョロしながらうろついていた。声をかけると、家の鍵を失くしたらしくって。しゃがんで一緒に探してあげたら鍵は少し離れたところですぐに見つかった。女の子は両手を握ってお礼を言ってくれたんだけど、突然わたしの目線はとっても低くなってしまって。


「あれ?周りが大きくなった?」

「あっ!す、すみません!私の個性、両手を握った相手を子どもにしちゃうんです!すぐ戻します!」


なるほど、わたしは子どもの姿になってしまったのか。彼女はもう一度両手を握ってくれたけど、わたしの身体は元に戻らなくて。


「あ……あれ?」

「うーん、戻らないねえ?」

「す、すみません!ど、どうしよう……」

「うーん、とりあえずお互い学校あるし、終わったらここで待ち合わせしない?わたしなら大丈夫だから!」

「す、すみません!必ず元に戻します!」


そして彼女と別れて学校に着いた。制服がぶかぶかでおさえていないとすぐ落ちちゃう。すぐに職員室に行って、担任の先生に事情を説明したら、結構あっさり受け入れてくれた。ちょうど出勤して来たプレゼントマイク先生からは可愛い可愛いとたくさん頭を撫でられて、演劇部の衣装箱に眠っていた幼稚園のスモック風の服を貸してくれた。今日は猿夫くんと帰る約束もしていないし、問題なく過ごせるだろうと思って普通に教室にいたんだけど、D組のみんなからも休み時間毎に可愛い可愛いとたくさん頭を撫でられてなんだか恥ずかしかった。


しかし困ったことが起きた。お昼休みのお弁当の時間、わたしはいつものお友達と楽しく食べていたんだけど、なんと教室の一番後ろに上鳴くんと猿夫くんが来ていて。小さくなっているのを知られるのがなんだが恥ずかしくて、ただでさえ小さい身体をさらに小さくしていたんだけど、さすがわたしの猿夫くん、顔色を変えてこっちに走ってきた。


「真!?どうしたのそれ!」

「えっと、今朝、こんなことがあって…………」


猿夫くんに事情を説明したら、ほっと安心したみたい。わたしが悪い人に襲われたんじゃなくて良かった、って。どこまでも優しい人で、もっともっと大好きになってしまう。頬が熱くなったから両手でおさえたんだけど、周りはシーンとしてしまって。どうしたんだろう、って思って猿夫くんを見上げたら、急に抱き上げられて、猿夫くんの胸のあたりにぎゅーっと押しつけられた。ちょっと苦しい。みんなはきゃーっとかひゅーひゅーとか騒がしくなっててちょっぴり恥ずかしかった。


猿夫くんはわたしを椅子にそっと座らせると、心配だから放課後は一緒に帰ろう、と言ってくれたから、首を縦に振った。それからバイバイして、午後の授業も乗り切った。体育がなくてよかった。そしていつもの時間に猿夫くんが迎えに来た。


「真、おいで。」

「うん?」

「抱っこしてあげるから。ほら、その身体じゃ歩くの大変でしょ?」

「……うんっ!」


猿夫くんがしゃがんで両手を広げてくれていたから思いっきり飛びついた。猿夫くんは優しく落とさないようにすごく気をつけて抱き上げてくれた。抱っこしてもらって学校を出ようとしてたら、ヒーロー科の人たちも出てきていて、師匠からは甘いお菓子をもらったり、ポニーテールの背の高い女の子からはたくさん頭を撫でられたりした。他にもたくさんの人から撫でられたり声をかけたりしてもらったけど多すぎて全部は覚えてない。


抱っこしてもらっている間は、猿夫くんの良い匂いが肺いっぱいに入ってくるのがすっごく心地良くて、小さいままでもいいなあなんて思ってしまった。


約束の場所に行くと今朝の女の子が青い顔をして待ってくれていた。顔を合わせたとたん何度も頭を下げて来て、全然気にしなくていいよって言ったらほっとしたように笑ってくれた。個性は問題なく使えるようになったとのことで、3人で大きな木の公園に行って、そこのお手洗いでスモックから制服に着替えた。それから木の下で彼女に両手を握ってもらうと自分の目線が少し高くなって、元に戻ったのがわかった。


「あのっ、今朝は本当にありがとうございました!それとすみませんでした!」

「ううん、小さくなったのも少し楽しかったから大丈夫だよ!」

「お気遣いありがとうございます!あの、私塾があるので失礼します!」

「うん、バイバイ!」


彼女は最後に頭を下げて走って行った。わたし達も帰ろっか、と隣を見上げたら、お顔と尻尾を赤くしてる猿夫くんがいた。


「猿夫くん?」

「ん……」

「大丈夫?」

「俺、ロリコンなのかな……」

「えっ!?そうなの!?」

「いや、大きい真のことすごく可愛いと思うしすごい好きなんだけど、小さい真も同じくらい可愛いなとか好きだなって思って……」

「そ、そ、そっかあ……」


可愛いとか好きとか、嬉しくなることをたくさん言ってくれるから私も顔が熱くなってきて両手で頬をおさえた。ちなみにいつも両手を当てちゃうのは真っ赤なのが恥ずかしいから隠したいのもあるけど、手が冷たくて気持ちいいからだったりする。ちらっと猿夫くんを見ると、手を伸ばしてくれて、帰ろうかって優しく笑ってくれたから、大きな手をぎゅっと握った。


次の日は珍しく猿夫くんが寝坊しちゃって、先に行ってて、って連絡が来てたから先に家を出た。途中で透ちゃんに会って、2人で楽しく話して学校に行った。実は昨日小さくなってたわたしを見かけたけど、D組の人に囲まれてて話しかけれなかったのが悔しいって嘆いていた。


学校に着いて朝の課題プリントを済ませて、ホームルームの前に急いで職員室に綺麗に洗ったスモックを返しに行った。プレゼントマイク先生が片腕に金髪の男の子を抱いていて、そのスモックをそのままその子に着せるって言ってた。先生はその場でその子の服を脱がせたんだけど、よく見たら尻尾が生えていた。





小さくなっても




「ま、ま、猿夫くん!?か……可愛いっ!!」

「朝寝坊して急いで学校に来てたら昨日の女の子にぶつかって……あとは察して。」

「……わ、わたしもロリコンかもしれない!」

「真!?」

「青春だねェ〜!それと、統司!そういうときはロリコンじゃなくてショタコンだぜ!」






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