背伸びがしたい



「透ちゃん!待った?」

「全然!今来たところー!」

「よかったあ!それじゃ、行こう!」

「うんうん!どこから行こうー?」


彼女はA組の葉隠 透ちゃん。この前ある勘違いをしたことをきっかけに仲良くなった新しいお友達で、とても明るくて面白くて親切なひと。今日はそんな素敵な透ちゃんと初めて一緒に遊ぶ日で、わたしは何日も前からとても楽しみにしていた。どこに行こう、ということだけど今回わたしは目的のものが2つある。1つはいつものあの本だ。


「透ちゃん、本屋さんに行ってもいい?」

「もちろん!行こう行こう!」


すぐ斜め前にある本屋さんに入ったら、レジの近くの目立つところに目的の『今すぐ身長を伸ばす方法大全V』を見つけた。わたしは目の色を変えて本を手に取った。


「真ちゃん、その本好きなの?」

「うん……この本読んで少しでも身長伸ばしたくて……」

「そうなの?どうしてー?」

「えっと……あのね、今までは背の順で前の方にいるのが嫌だったからなんだけど……」

「うんうん!」

「ま、猿夫くんと、せ、背伸びして、えへへ……」

「……そういうこと!?かーわーいーいー!」


恥ずかしくて最後まで言えずに顔が熱くなってしまったのが恥ずかしくって顔を片手で隠しちゃった。透ちゃんはわたしにむぎゅって抱きついてきたのだけれど、感覚的になんとなく身長同じくらいかな?って思った。


本を買った後は雑貨屋さんに行って、可愛いものをたくさん見て回った。それからお昼ご飯を一緒に食べたんだけど、透ちゃんはご飯を食べる時も透明だから、食べ物が空中でどんどん消えていくのがとても不思議で何度も見てしまった。ご飯を食べた後は最近流行りの映画を見て、それからゲームセンターに行って、クレーンゲームやリズムゲーム、ボーリングをして遊んだ。


最後はわたしのもう1つの目的を果たすために靴屋さんに行った。もう高校生になったし、運動靴以外の可愛い靴が欲しいと思っていて、透ちゃんに一緒に選んで欲しいってお願いしたら彼女は快諾してくれた。


「この茶色の靴可愛いなあ……」

「本当だ!すごく可愛いね!女の子〜って感じで、真ちゃんに似合うよ!」


わたしが手に取ったのは少しヒールのある可愛い茶色の靴。試しに履いてみたんだけどヒールが細いからか不安定で歩きにくい感じがしてちょっと違うなあと思う。どうしようかと悩んでいたら、透ちゃんが別の靴を持ってきてくれた。


「真ちゃん!これはどう?細いヒールと違って安定してて背も高くなるし、とっても可愛いよ!」

「わあ……!すごい!可愛い〜!これ履いてみる!」


透ちゃんが持ってきてくれたのは黒色の厚底の靴だった。ヒールといっても細くなければわたしでも履けるかもしれないと思ってすぐに履いてみた。すると、視界がぐんと高くなって、とても背が高くなったような気がして胸がドキドキした。店内をぐるりと一周したら、とても足に馴染んでるような感じがした。


「わあ!真ちゃん!身長伸びたよー!靴似合ってるし超可愛いー!」

「えへへ……じゃあこれ買っちゃおうかな。」


うっかり靴を履いたままお会計に行ったら、店員さんからそのまま履いて行ってもいいと言われたからそうすることにした。ちなみにこの靴はマニッシュシューズというらしい。お会計を済ませて外に出たらぐんと視界が高くなっていたのが本当に嬉しくて、今日透ちゃんとここへ来て良かったなーって思った。


時間も時間だったから、待ち合わせの場所に戻ってから透ちゃんとバイバイした。家に帰ろうと思って1人で歩いていたら、ちょうど曲がり角のところで猿夫くんに会った。そういえば彼も今日お友達と遊びに行くって言っていた気がする。


「真も今帰り?」

「うん、そうだよ!」

「……あれ?なんかいつもより大きい?」

「そうなの!今日、透ちゃんと遊んでね、靴を買ったの!」


猿夫くんはわたしの足元をじっと見て、わたしのお顔を見るとニコッと笑ってくれた。


「そっか、可愛いね。すごく似合ってるよ。」

「ありがとう!嬉しい!……あっ、一緒に帰ってもいい?」

「もちろん。家まで送るよ、ほら。」


猿夫くんは大きな手を差し出してくれたから、いつものようにぎゅっと握った。わたし達はちょうど20センチの身長差だから頭ひとつ分離れてるんだけど、今日はいつもより猿夫くんのお顔が近くにあってすごくドキドキした。この靴がなくてもこのくらい身長があればなあって思ったから、家に帰ったら買った本をすぐに読もうと思う。


わたしの家まで着いて、猿夫くんとまた明日ねって言ってバイバイしようとしたんだけど、わたしは身長が高くなったらどうしてもしてみたいことがあったから大きな声で猿夫くんを呼び止めた。


「猿夫くんっ!!」

「ん?どうしたの?」


猿夫くんはすぐ振り返ってくれた。いつもだったらこんな時は屈んでくれるんだけど、今日はわたしが少し背が高くなってるから猿夫くんは目線だけ下にして屈むことはなくって。チャンスだと思ったわたしはそっと猿夫くんに近づいた。


「猿夫くん、いつも優しくしてくれてありがとう!」

「うん?急にどうしたの?」

「えへへ……猿夫くん、だいすき!」

「真っ!?お、俺も……んむっ……」


わたしは猿夫くんの首にするっと腕を回して大好きだと伝えた。猿夫くんは慌てふためいていたけど、そのまま背伸びをしてちゅっと音を立ててキスをした。そっと唇と腕を離したら、猿夫くんは目をぱちくりさせて固まっていた。


「……また明日ね!おやすみなさい!」

「……あっ、真、ちょっと待っ……」


ばたん


自分からしたくせに恥ずかしくなったわたしは捲し立てるように言葉を投げてすぐに家に入った。透ちゃんにちゃんと言えなかった身長を伸ばしたいと思ってた理由、それは背伸びをして猿夫くんとキスをすることだった。靴のおかげで背が高くなったことで、なんだか少し自分に自信が出たような気がしたから、やっぱり身長って大切だなって思った。それから、夜ご飯を食べてお風呂に入ったあと、わたしは寝る前まで今日買った本を真剣に読み耽ったのだった。





背伸びがしたい




「猿夫くん、おはよう!」

「お、おはよう。」

「……猿夫くん?大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ、ほら、行くよ。」

「……?うんっ!」


真って、俺と顔が近いときは積極的になるのかな……

俺も身長伸ばしたい……

いい加減耐えられないぞ……







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