どうしよう、どうしよう……
わたしは今、猿夫くんとベッドの上にいる。猿夫くんのお顔が真横にあって、尻尾と腕でがっちり抱きしめられて一向に抜け出せる気がしない。それに猿夫くんの寝息がお耳にかかって背中がぞくぞくする。顔がすごく熱いのに手でおさえることもできなくて、恥ずかしくて死んでしまいそう……
こんなことになった理由は1時間ほど前に遡る。
***
「……痛っ。」
「わ、猿夫くん!大丈夫!?」
「……寝てたみたいだ。」
わたしの部屋で一緒に宿題をしていたら、猿夫くんが突然机に頭をぶつけた。そういえばここ数日授業がハードで帰ったらすぐに寝ちゃうって言ってたっけ。猿夫くんの宿題をちらっと見たらもう終わりかけていた。
「猿夫くん、もうちょっとで終わる?」
「あ、うん、そうだね。」
「終わったら、ベッド使っていいよ?」
「えっ?」
「眠いでしょ?わたしもうちょっと時間かかるから、いいよ?」
「……いいの?」
「うん、いいよ!」
猿夫くんは宿題を終わらせるとおずおずとわたしのベッドに上がって、ころんと横になった。それからすぐに規則正しい寝息が聞こえた。すぅすぅと眠る猿夫くんがなんだか可愛らしくって、自然と顔が綻んでしまう。
数分経ってわたしも宿題を終えることができた。わたしは本棚に本を取りに行こうと立ち上がったのだけれど、後ろからぐいっと腕を引っ張られてバランスを崩してベッドに背中からダイブしてしまった。
「きゃっ!」
「真……どこにも……行かないで。」
「猿夫くん……?」
目をちょっとだけ開けてぼーっとしてる猿夫くんがわたしの顔をじいっと見ている。なーに?と言っても反応はない。わたしもしばらく猿夫くんを見ていたけど、彼の目はだんだん閉じていって再び規則正しい寝息を刻み始めた。わたしは本棚へ行くためにそっと離れようとしたんだけどいつのまにか腕だけじゃなくて脚も尻尾で掴まれていて。手を動かして尻尾を解いて、今度こそ本棚へ行こうとしたらさっきよりももっと強い力で抱きつかれてわたしの身体は猿夫くんと急接近した。いわゆる抱き枕状態。
***
猿夫くんの寝顔はとても可愛い。それにすごくあったかくていい匂いもする。わたしも猿夫くんを優しく抱きしめて、彼の身体へすりすりと身を寄せた。心地よい温度と匂いがすごく気持ち良くてなんだかわたしも眠く、なって、きた。
…………ちゅっ
ちゅ……ちゅっ……
……なんだか不思議な気持ち。頭がふわふわしてとろんとしたような感覚。わたし寝ちゃってたのかな、ゆっくり目を開けると、わたしは手首を猿夫くんに軽く掴まれていて、身体は尻尾で抱きしめられてて、目の前には猿夫くんのかっこいいお顔があった。そしてわたしはキスをされていると理解した。
「……んむっ!?んっ、んんっ、猿夫くっ、んむっ。」
「………んっ、んむ。」
ちゅっちゅっ……ちゅ……
いつもは触れたらすぐに離すのに、今日は1回のキスがとても長くてクラクラしちゃう。なんだかちょっぴり大人な感じがする。そっと猿夫くんのお顔を見ると彼の目は開いてない。もしかして、寝てる?何度も角度を変えて唇をすり合わせてくるキスを受け入れながら、どうしようかと思っていたら突然口の中に熱くてぬるっとしたものが入ってきた。
「んむっ!?んっ、んん〜〜〜!?」
「ん……んむぅ……」
ちゅるっ……ちゅ……
これは多分猿夫くんの舌だ。わたし、猿夫くんとベロチューしてるんだ。そう思ったらドキドキとクラクラが止まらなくなってなんだか気が遠くなってきた。息も苦しくって生理的な涙がつーっと流れてきて。それでも猿夫くんのちょっぴりえっちで大人なキスは止まらなかった。
「…………真?」
頭の中がふわふわしててすごく気持ち良い感じがして、猿夫くんに名前を呼んでもらってもぼーっとしてお返事ができなかった。猿夫くんは状況がわかったのか慌ててベッドから降りようとしたけど、落ちてしまったのか思い切り尻尾とお尻を床にぶつけていた。
「痛っ!真っ、ごめん!俺、なんてことを……!」
「……ましら、お、くん。」
「ほんっとにごめん。大丈夫?気持ち悪くない?」
「……うん、きもち、いい。」
顔も尻尾も真っ青だった猿夫くんは火がついたように真っ赤になってしまった。何度も頭を下げて謝っているけど頭がぼーっとする。わたしがはっきり意識を取り戻すまでしばらく時間がかかった。口端から涎を垂らしているのがわかったときはとっても恥ずかしくて思わず袖で拭ってしまった。そして今、猿夫くんはいわゆる土下座でわたしの前に鎮座している。
「本当に申し訳ございませんでした……」
「いっ、いいよ、大丈夫、ちょっとびっくりしたけど……」
「……夢かと思ってた。」
「えっ?」
「真がどこか遠くに行くような気がして……でも、真は優しく抱きしめてくれたんだ。それで、そばにいてくれてるって思ったら、俺、嬉しくて……夢だと思ってたから、欲求が止まらなくなって……」
「猿夫くん……?」
身体を起こした猿夫くんはゆっくりわたしの隣に座って、わたしの熱くなった頬にそっと触れた。
「……怖かったよね。ごめん。真を怖がらせたり泣かせたりしたくないのに……」
猿夫くんはいつだって優しくて、わたしの王子様で、ヒーローで。どんなときもわたしのことをいちばんに考えてくれる。でも、わたしは猿夫くんにたくさん我慢させちゃってるのかな、って思ったらちょっぴり胸が痛くなった。猿夫くんが泣きそうな困ったような顔をしていたから、彼の頬にそっとキスをしてみた。そしたら案の定、目をぱちくりさせている。
「怖くないよ。だいすきな猿夫くんといっしょだから。ただ、今度は、ちゃんと起きてるときにしてね。わたしばっかり恥ずかしいのは嫌だよ。」
「……嫌だって思った時は我慢せずちゃんと断ってほしい。怖がらせたくないから。」
「うん、わかった。だから、猿夫くんも我慢せず思ってることはちゃんと教えてね。ウソ、ついてもわかるからね!」
猿夫くんをしょんぼりさせたくなくって、わたしはニッと笑って猿夫くんの頬を両手で挟んでやった。そしたら猿夫くんもニコッと笑ってくれて、お互いに顔を近づけてちゅっと触れるだけのキスをした。やっぱりわたしはこういうキスの方が好きだなあって思って、大人のキスはちょっと練習が必要だなあって思った。猿夫くんの思っていることはなんだって叶えてあげたいから、小さな声で、またしようね、って言ってみたら、猿夫くんは赤くなりすぎてとうとう鼻血を出してしまった。
僕たちはまだ子どもで
「猿夫くん、大丈夫!?猿夫くん!?」
「こ、興奮して鼻血出すなんて初めてだ……」
「わああ!大変!し、しばらくチューしないでおこう!」
「えっ!?それはちょっと……!」