間接キス



今日は親友の二人が委員会と部活の話し合いが重なっちゃって一緒にお弁当を食べる人がいなくって。一人でも良かったんだけど、なんとなく猿夫くんにラインで連絡をしたら、食堂にいるから良ければおいでってお返事が来て、わたしはお弁当と紙パックのジュースを持って食堂へ。そこには猿夫くんの他に、師匠と峰田くんと透ちゃんがいた。


「真ちゃんが来るって聞いて私も一緒したくてー!ね、隣に来てよ!」

「透ちゃん!うん!透ちゃんの隣に座る!」


透ちゃんの隣でお弁当を食べて、みんなといろんなお話をした。ヒーロー基礎学の授業がどうだとか、クラスの誰が面白いとか、いろんなことを聞いたし、わたしもいろんなことを質問された。中でも峰田くんの質問はちょっと答えにくいものが多くて、困ってしまった。峰田くんのキャラだから全然嫌だとは思わないけど、みんなの前で聞かれると恥ずかしいことばかりで。猿夫くんが尻尾で峰田くんをぺしっと叩いていたのがちょっぴり面白かった。


お弁当を食べ終わって、紙パックのジュースにストローをさしてちゅーっと啜ってたら、師匠が突然大きな声で話しかけてきた。


「統司!それ、もしかして……!」

「さすが師匠!そう、期間限定、練乳苺ミルクスペシャルだよ!」

「うおお!すげェ!どこ行っても売り切れでよ、初めて見たぜ!」

「え?本当?良かったらひと口飲む?」

「えっ!?そりゃありがてェけど……」


師匠はちらっと猿夫くんを見た。猿夫くんは少しぶすっとした表情で師匠を見ていて、そんな顔の猿夫くんもかっこいいなあなんて思ったら顔に熱が集まってきた。目を大きく開けて猿夫くんを見つめていたらぱちっと目があって、柔らかく笑ってくれた。


「真、先に俺、飲んでもいい?」

「えっ、猿夫くんもコレ好きなの?」

「うーん、そういうわけじゃないんだけどね。ダメかな?」

「えーと……師匠は?いい?」

「俺はそいつを飲ませてもらえるなら何でもいいぞ。」

「うん、わかった。」


私は紙パックを猿夫くんに手渡した。猿夫くんは顔をすごく真っ赤にしてストローに口をつけて、ちゅっとジュースを飲んで、甘っ!って驚きながら口を離してた。驚く猿夫くんは可愛くてそれも好きだなあって思う。そのまま紙パックは師匠に回って、次にわたしが受け取ろうとしたら、また猿夫くんがぶすっとした顔になってて。どうしたの、って聞こうとしたら隣の透ちゃんがわたしにこそっと耳打ちした。


「尾白くん、真ちゃんと砂藤くんが間接キスしちゃうの嫌なんだね!可愛いね!」


間接キス。その言葉に得も言われぬ恥ずかしさを感じて、顔がぶわっと熱くなったのがわかってすぐに両手を頬に当てた。そっかあ、猿夫くん、やきもちやいてたんだ。それに、さっき、わたしと猿夫くん、間接キスしちゃったんだ……そう思ったら急に恥ずかしくなってきた。その上、いつも直接キスしてるんだって思ったらさらに顔が熱くなってなんだかクラクラしてきた。


「真?大丈夫?」

「統司ちゃん?」

「統司、熱でもあんのか?」


男の子たちに声をかけられても何も耳に入ってこなくて。


「あちゃー……ごめんね真ちゃん!」

「う、ううん、大丈夫。間接、キスかぁ……」


紙パックを手にぼーっとしていたら、透ちゃんに奪われてちゅっとひと口飲まれてしまった。それから、はい!と渡されて、猿夫くんの方を見ると苦笑いしてて、師匠は、葉隠は照れっつーもんは感じねぇんだな、なんて笑ってた。峰田くんはオイラも女子と間接キスしてェ!なんて言ってて、みんなしてぷっと吹き出した。



帰り道、猿夫くんと一緒にタピオカジュースを飲みに行った。猿夫くんはバナナ味、わたしはリンゴ味のジュースを飲んでいたんだけど、じーっと猿夫くんがわたしのジュースを見ているのに気がついた。


「リンゴ味、欲しいの?」

「あっ、うん……いや、えーと……」


顔を赤くして少し狼狽えている猿夫くんを見ていると今日の昼間のことを思い出した。もしかして、間接キス、したいって思ってるんだろうか。


「わたしもバナナ味飲みたいから、ひと口交換する?」

「……あ、うん、じゃあお願い。」


猿夫くんとお互いのジュースを交換して、ストローに口をつけてちゅーっと飲んでみた。バナナの優しい甘さがふわっと広がって、もちもちしたタピオカの濃い甘さが引き立つ。わたしは少し顔が熱くなったのを感じながら、猿夫くんの手にジュースを戻した。美味しいね、って言っても猿夫くんは何も言わないから、どうしたんだろうって思って顔をあげたら、そっと唇が重なった。唇を離した猿夫くんはにっこり笑ってこう言った。


「間接キスもいいけど、俺はこっちの方が好きみたい。」





間接キス




「猿夫くん、いきなりはずるいよ……」

「最近やられっぱなしだからね。たまにはいいでしょ?」





次の日、登校してたら昇降口のところで峰田くんが女子と間接キスしたいって騒いでて、ポニーテールの背の高い女の子に大砲で撃たれてたのが面白かった。けれども彼が最後に放った発言は衝撃的なものだった。


「クソォ!尾白なんか間接キスした後に直接キスしてやがったってのに!」

やだ、見られてたんだ…………恥ずかしさのあまりわたしは隣にいる猿夫くんをそのままに駆け出してその場から逃げてしまった。







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