キミとの出会い



俺の一日は毎朝決まった時刻に彼女を家まで迎えに行くことから始まる。学科が違ってあまり一緒にいられないからせめて登校は一緒にしようと入学初日に約束した。当初はお互い緊張してあまり喋ることができなかったが、今では全くそんなことはなく手まで繋いでいる始末。今日も彼女を迎えに行くとすでに家の外で俺を待ってくれていた。


「猿夫くん、おはよう!」

「真、おはよう。忘れ物ない?」

「うん、大丈夫!」

「そっか、じゃあ行こう。」

「うん!」


毎朝の決まった会話が終わると必ず真の方から俺の手をぎゅっと握ってくれる。手を繋いで一緒に登校するのは正直恥ずかしい気持ちもあるが、少しでも彼女に触れていたい気持ちの方が明らかに勝っているわけで。俺も小さく真の手を握り返すと彼女は嬉しそうにもう一度握り返してくれる。


その日の授業や部活の予定、友達がどうだこうだとか毎日いろんなことを話しながら学校へ向かう。真は一見大人しそうに見えるが、実際はかなり活発な方だ。そのため大体は真の話に俺が相槌を打つことになる。


「あっ、ごめんね、いつもわたしばっかり話しちゃって。」

「ううん、俺、真の話好きだから。もっと聞かせて?」

「ありがとう!……えっと、昨日の3限が体育だったんだけどね、それで……」

「うんうん。」


これも毎日の定型文になっている。話している時の真を見るのが好きだから何も謝られることはない。こうして話しているとあっという間に横断歩道に着き、信号が青になったらお互い名残惜しそうに手を離す。校舎に入るところまでは一緒に行って、別れの言葉をかけてからそれぞれ自分の教室に向かう、ここまでが毎朝の動きだ。そしてA組での騒がしくも楽しい日常が始まる。


俺はあまり目立つ方じゃないし自分からよく喋るってわけでもない、しかし個性的な人が多いこのA組の中ではこんな俺ですらもいじられる対象になるわけで。


「オイ尾白!オマエ今日も統司ちゃんと来てただろ!」

「おはよう峰田。うん、そうだけど。」

「クソオオオ!オイラなんか上鳴だぞ!上鳴!」

「お前それどーゆー意味だよ!」


今日も朝から峰田に真絡みのことでいじられる。これもいわゆるルーティンと化している。


「ほら、もうすぐ先生来るから席着きなよ。」

「クソォ!リア充だからって命令すんじゃねー!上鳴、オマエもなんとか言え!」

「お前こそ俺に命令すんなよ!」

「くくっ、朝からあんま笑かすなよ……」


峰田と上鳴の絡みは毎回面白く、笑いを堪えるほうが難しい。2人がギャーギャーと騒いでいると担任の相澤先生が予鈴と共に教室に入って来て、A組の日常が動き出す。


午前の授業をこなし、食堂で今日は砂藤と昼食を食べて教室に戻った。教室に入ると、黒板に大きく『自習』の文字。委員長曰く、午後からの授業の先生に急用が入って、今日は午後の授業が全て自習になってしまったんだとか。さて、どうしたものかと考え込んでいると、後ろの席の上鳴からとんとんと肩をたたかれた。


「なぁなぁ尾白。」

「ん?何?」

「お前さ、あんな可愛い子、どーやって落としたわけ?」

「何だよ突然。うーん……普通に友達になって、普通に告白しただけだよ。」


藪から棒とはまさにこのこと、突拍子もない質問に何と答えればいいのかわからない。こんな返答で上鳴が納得するはずもなく、いつどこで知り合ったのか、なんで好きになったのか、とか次々にまくしたててくる。そしていつの間にか俺達の近くに葉隠さんがやって来ていたようで。


「それ、私も超気になるー!」

「は、葉隠さんまで……」

「尾白くんの彼女ってどんな子なのー?」

「どんなって……目が綺麗で背が小さくて……とにかく可愛い子だよ。性格は明るくて優しくて……とにかく可愛い……うん、可愛い。」

「めっちゃ惚気るじゃん!」

「いや、それがマジで可愛いっつー言葉がピッタリなんだって!」

「そーなんだ!他にはー?上鳴くんも教えてー!」

「ん?そーだな……目がでかくて綺麗で、髪は茶色で、こう毛先がふわっとして……あ、あと髪に林檎の髪留め付けてることが多いな。」


上鳴は葉隠さんに真の外見を詳しく説明している。葉隠さんは、ちょっとD組に行って見てくる、と言って教室を飛び出していった。そして数分後、葉隠さんはとても楽しそうに俺と上鳴のところに戻ってきた。


「やばーい!あの子本当に尾白くんの彼女!?すっごく可愛かったー!」

「やっぱそう思うよな!?いや、マジであんな可愛い子どうやってお近づきになったんだよ〜!」

「……いや、本当に大したことはしてないはずなんだけど。」


真と出会ってから付き合うまでのことをぼんやり思い返してみたが、なるべくしてなったと言うか、特に駆け引きや作戦を練るようなことをした覚えはない。しかし、初めて彼女に告白した時のことを思い出すと自然と顔と尻尾に熱が集まるのを感じる。


「うわー!尻尾まで真っ赤じゃーん!可愛いねー!」

「教えてくれよ〜!参考にして俺も可愛い子と付き合いたい!なあ、頼むよ〜!」

「まぁ……別にいいけど。」


この2人に迫られてはもう話さざるを得ない。半ば諦めたような気持ちになりながらも、俺達の馴れ初めを話し始めた。





キミとの出会い




キミと出会ったあの日のおはなし





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