幸多かれ




今日は朝っぱらからババアがガミガミうっせェから予定よりもかなり早く家を出た。こんな早ェ時間に学校に行ってやる事なんざ何もねェが、家にいるよか幾分マシだと思って足を進める。


学校に着いたものの、まだ早すぎて昇降口に鍵がかかってて入れねェ。クソが。じっとしててもしゃーねーから敷地内をテキトーに彷徨くことにした。テキトーに彷徨いていると、A組のある校舎からかなり離れた植え込みの中に一本だけ白い薔薇が生えてんのが見えた、しかもその薔薇は足でも生えてんのか自由に動いてやがる。気味悪ィ。正体を確かめてやろうと思って近寄ってみると、足の生えた薔薇じゃなくて頭に薔薇を生やした女が土を弄っていた。


「……オイ。」

「わっ!……痛ッ!」


ただ声をかけただけなのに、女は過剰に驚いた。しかも痛ェとか抜かしやがる。よく見ると雄英の制服を着ているがこんな奴は見たことねェ。一体コイツは何者なんだ。


「……キミ、雄英高校の生徒?」

「あ?見りゃわかんだろ。」

「あ、ごめんね。私、個性の都合で少し休んでて、昨日初めて登校して来たんだ。」

「……そーかよ。つーか何が痛ェんだ。」

「あ、えっと、私、見た目通り薔薇の個性なんだけど、遺伝的に個性が強いみたいで驚いたら身体からトゲが出ちゃうの。あんまりひどく驚いたらトゲだけじゃなくてイバラも出て来ちゃって、イバラの時はすっごく痛くて……」


つまりコイツは俺が急に声をかけたもんだから驚いてイバラを出しちまったっつーわけだ。クソどーでもいいが、一応ヒーロー目指してんのに他人に、しかも女に怪我をさせちまったときたら良い気はしねェ。だが謝るなんざ真っ平御免だ。ふと女の後ろに置いてあったカゴに目を遣ると、袋に入った土と幾つかの煉瓦、花の種とスコップが入っていた。


「てめ……アンタ、ここで何しとんだ。」


驚いたらまたイバラやらトゲやら何やら出されて勝手に怪我されっから、言葉遣い一つにも気を配らんといかんのが非常にメンドクセー。


「ここに花壇を作って、花を育てて欲しいって頼まれたの。」

「誰にだよ。」

「保健室の修繕寺先生だよ。」

「……誰だ?」

「リカバリーガール、って呼ばれてた。」

「あぁ……本名初めて聞いたわ。」


リカバリーガールに名前なんかあったんか、と少し驚きを露わにしてしまった。しかし花を育てて何か意味あんのか、よーわからんが驚かして怪我させちまった謎の罪悪感みてェなのはここで消しときてェ。女に借りを作るなんざ俺のプライドが許さねェ、そう思った俺は鞄を置き、カゴからスコップを取り女の隣に腰掛けた。


「手伝ってくれるの?」

「……それ、俺のせいだろ。」

「イバラ?ああ、気にしないでよ。私がコントロールできないのが悪いんだし。」

「そーかよ。まあなんでもええわ。とっとと終わらすぞ。」

「ありがとう!キミ、優しいんだね!」

「……ンなこたねェよ。」


そんなことを言われたのは人生でも数えるほどしかねェ。それも最後に言われた記憶があるのは餓鬼ン頃。A組の奴に聞いても俺のことを優しいなんて言う奴ァまずいねェ。変な奴だと思いながらコイツの指示通りに花壇の整備を進める。


「あ、私、花矢 夏季っていうんだ。キミの名前、教えてよ。」

「……爆豪 勝己。」

「なんか強そうだね。」

「……強そうじゃねェ。強ェんだよ。」

「わ、頼もしい。」


どうもコイツの前では調子が狂う。言葉遣いやら態度やら何やら気を配らんといかんからだろうが。多分コイツが普段の俺を知ったら全身からイバラを突き出してショックで死ぬンじゃねェのか、なんてグロテスクなシーンを想像してしまった。しばらく黙って土弄りを進めていたが、グロい想像を取り払うためにテキトーに話しかけることにした。


「アンタ、普通科か?」

「んーん、私、サポート科。」

「何作っとんだ。」

「私、頭の薔薇で色んな薬作れるんだ。解熱剤とか、毒とか、なんか色々。あと、頭の薔薇から取れた種を植えて育てた薔薇も薬に使えるんだよ。」

「中々やるじゃねェか。」

「へへ、ありがとう。キミも具合悪くなったら私んとこ来なよ。薬、分けてあげるから。」

「……おう。」


薬が作れる、だからリカバリーガールに頼まれ事をされたっつーわけか。会話を終えたと同時に花壇はほぼ完成していた。女……花矢は腕時計を見てギョッとした顔をして、指からトゲが2,3個突き出ていた。なるほど、これがその個性のトゲか。コイツはいそいそと荷物をリュックに詰め、俺に礼を告げるとリュックから小さなオレンジの薔薇を一本出して押し付けてきた。


「優しくてあったかいキミにぴったりのプレゼントさ!花言葉は自分で調べてみて!じゃ、また会おう!バイバーイ!」


花矢は得意気にそう捲し立てると、リュックを肩に掛けて走って行った。時計を見るともう8時20分。ショートホームルームまであと5分しかないことに気付いた俺は早足でA組の教室に向かったのだった。





幸多かれ




「おーっす爆豪!ん?花なんか持ってどうしたんだよ?」

「……拾った。」

「そんなオレンジのやつ道端に落ちてんのか!?」

「朝っぱらからうるせェわ!死ね!」







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