私と付き合ってください




翌日、何事もなかったように学校へ行ったらH組のみんなから囲まれた。全員と満遍なく仲良しってわけでもないのに、中には泣いてくれる人や手を取って喜んでくれる人もいて、やっぱこの学校に来てよかったなぁなんて思った。特に明なんか涙と鼻水だらだらで花粉症かと思ったくらい。花粉症の薬を渡してあげたら、違います!と怒られて、クラスのみんなでゲラゲラ笑った。


先生方にもお騒がせしましたと挨拶しに行った。大好きなプレゼントマイク先生からは頭をわしわしと撫でられて頭の薔薇が一瞬で赤くなったのを驚かれた。ちなみにトゲやイバラは出なかったから、もう完全に自分の意思で突出できるみたいだ。





それから数日が経った。私が動かなくなってしまってからも日常は動いていたようで。初めは、取り残されていたような、まるで時間の淵を彷徨っているような感覚だったけどすぐに帳尻を合わせることができた。これも全て周りの暖かいサポートのおかげ。中でも一番世話になったのは私を目覚めさせてくれた、ヒーロー志望のアイツだろう。実はあれから今日までの水撒きもアイツが全部終わらせてくれてたみたいで、随分と楽をさせてもらった。けれども不思議なことに、あの日からもう何日も経つのに一度も顔を合わせていないのだ。何度もA組まで行ったのに避けられているのか全然会うことができなくて。水撒きの時に捕まえてやろうとも思ったけど何故かお父さんに家を出る時間は8時以降と決められていて。


そして今日は日曜日の朝ちょうど8時。私はお父さんに頼まれて、学校の私の花壇に新種の花のタネを巻いていた。


「はぁ……つまんないなぁ……」

「何がだよ。」

「爆豪くんに会えないんだよ……おかしいよなぁ、絶対避けられてるよなぁ……」

「あ?来てやってんだろうが。」

「は?…………うおおお!!爆豪くん!いつの間に!」

「痛ェ!!てめェわざとだろ!!」

「ぶっ、ウケる!お決まりじゃん!」


もう驚いたからってトゲもイバラも出ないんだけど、なんとなくイタズラしてみたくなって軽くトゲを飛ばしてみたら、案の定以前のように軽く怒鳴られた。やっぱトゲに警戒してるのか本気で怒鳴ってこないあたりタジタジのタジ豪くんって感じする。


「……ちょっと来い。」

「ん?なんかあんの?」

「……なけりゃ呼ばねェわ。」

「へーへー。素直じゃないねー。行けばいいんだろ?」


素直じゃないのは私も同じだけどね、なんて心の中で呟いて、黙って彼の後をついて行った。着いた場所は私の家……の広い裏庭。なんで爆豪くんがこんな場所知ってるんだろう。


「ちょっと後ろ向け。」

「え?何?なんかプレゼントでもくれるの?」

「いいから早よしろ!」

「わーっとるわ!」

「……真似すンな。」

「はいはい、ごめんって!何かなー何かなー。」


いつもの軽薄なやりとりができることが今では本当に嬉しいと思う。色んなことがあったけど本当に助かって良かった。でも、私どうやって助かったんだっけ……?


「おい。振り向け。」

「おっ!なんだろ……う……」

「ん。」

「えっ……これ…………」

「やる。」

「えっ、えっ?そ、それって……」

「……花言葉はてめェで調べろや、夏季チャン?」

「……花屋の娘で持ち花は薔薇だぞ!知らないわけないだろっ!」


私は爆豪くんが差し出した12本の真っ赤な薔薇の花束を受け取って、思いっきり抱きついてやった。離れろや!!なんて言うけれど、両腕で力一杯私のこと抱き締めてるあたり、やっぱ素直じゃないんだからって思って、ちょっと意地悪してトゲを出してやった。


「痛ェわバカ!!」

「離れろなんて言うからだろ!!」

「……一生離れんな。離れたら殺す。」

「てめェが離さなきゃいいんじゃねェのか、爆豪勝己。」

「命令すンな、真似すンな、離さねェわ、花矢夏季。」

「ぶっ、ウケる!!」

「ハッ、てめェは一生そーやってアホ面かましてろ!」


ポジティブに要約すると、一生俺のそばで笑ってろ、ってことでいいんだろうか。……それよりも。諦めかけていた恋が実ったというのに、知識欲というのは尽きることがなくて、私が気になっている最後の疑問を投げかけたい。


「あのさ、爆豪くん、私のことどうやって助けたん?」

「あ?……ンなの忘れたわ!!」

「はぁ!?ンなわけねェだろ!?教えろや!」

「死んでも言わねェ!!」

「教えろよー!!今後同じこと起きた時のために記録しとかなきゃいけないんだから!」


取っ組み合ってギャーギャー言い合ってたら、後ろからぽんっと頭を撫でられた。振り向くと優しい笑顔のお父さんがいた。


「バクゴーくん、夏季が石花した日からね、キミを助けるために毎日早朝からここで薔薇の接木を育ててたんだよ。僕にきつーい指導をされてね。でも助けた後も育て続けてたんだけど……そうかぁ、そういうわけだったかぁ……」

「あ゛!?おっさん、ちょっと待……」

「12本の赤い薔薇かぁ……夏季、どうするんだい?」

「え、しゃーないから付き合ってやるけど。」

「しゃーないって何だ!!ぶっ殺すぞオラァ!!」

「彼女に向かって殺すとか言うなや!!おらっ!喰らえ!!」

「痛ェェ!!おい!!イバラはやめろ!!」


お父さんはゲラゲラ声を上げて笑いながら、こんな娘だけどよろしく頼むよ、なんて言っていた。結局私の知りたかった疑問は最後までわからなかったけど、石花は解けたし、トゲもイバラも操れるようになったし、大好きな友達は愛する彼氏様に変わったんだし、終わり良ければ全てよしってことで今回の一件に幕を下ろすことにした。さ、今日もまた薬の研究で忙しくなるだろう。早く実験室に籠もって薔薇の処方箋ノートを書き殴らねば。





私と付き合ってください




どうやって助けただ?


……テメェから押し付けられた薔薇全部薬にしてもらっても効果がねェっつー結果しか得られんかった。だが、中でも一番多い回数で受け取らされたンはオレンジの薔薇だということに気がついた。


もう時間が残されてねェ中で、ヤケクソになってた俺はあろうことかオレンジの薔薇で作った薬を自分の口ン中に入れて、花矢に口移しで飲ませてやった。飲ませる前に汗だくの手で唇を触ったからか、軽く爆破が起こって薬が焦げて、苦ェわ痛ェわで最悪だった。


……まァ、助かったんだ、これ以上語る必要はねェだろ。コイツには一生教えてやんねェ。





もどる
lollipop