嫉妬




秋のある日、そろそろ文化祭も近付いている。私達サポート科はいろんな出し物で大忙し。特に親友の明なんかガラクタから大発明まで可愛いベイビー達を大量生産して張り切っている。私はそんな明のお手伝いをしているけれど、今日はラボの点検日とかでパワーローダー先生から立ち入りを禁じられてしまっている。暇になってしまったから爆豪くんのドラム練習でも見ようかと思って来たのに気が散るからと追い出されてしまったわけで、今は上鳴くんのところにいる。


「はー、今日も追い出されちゃった。」

「練習してんの見られたくないんじゃね?恥ずかしいとかさ。」

「うーん……爆豪くんってさー、本当に私のこと好きなのかなー。」

「好きだから付き合ってんじゃねーの?嘘とかつく奴じゃねーし……」

「上鳴くんはチャラいからなー。好きじゃなくても付き合えそうだから説得力ないねー。」

「お、おい!そりゃひでェだろ!」

「あははは!ごめんごめんっ!」


おそらく黄色くなったであろう頭の薔薇を揺らしながらケタケタと笑っていたら切島くんと瀬呂くんがやってきた。確かこの二人はパフォーマンス係で楽器やダンスの練習はないんだっけ。先と同様の不満を彼らにも投げつけたけれど、やはり二人とも上鳴くんと同じ反応で。


「まぁ、最初は確かに意外っちゃ意外だったけど、花矢みたいなヤツじゃねーと爆豪とは付き合えねーよな。」

「瀬呂くん、それどういう意味!?」

「いやいや!ほら、普通の女子だとビビるか嫌がるかするだろ!あんな怒鳴り散らしてばっかだし……」

「そう?おかしいな、彼、私の前ではタジタジしてるってか、全然怒ったりしないけど……」


そう言ったら切島くんと瀬呂くんがゲンナリした顔で私を見てきた。なんだよ失礼だな、と思ったけれど、その理由はすぐ明らかになった。


「そりゃおめーがあんなもん飛ばすからだろ……」

「これのこと?えいっ!」

「うおおっ!危ねェ!俺じゃなかったら怪我してんぞ!」

「あははは!キミの個性と私の個性は相性が良いのかねー!」


やはりその理由はこのトゲのこと。結構勢い良く飛ばすから、血は出ないにしろチクッとした強い痛みがあるみたい。しかし切島くんに後ろから飛びついて全身からトゲを出しても、個性が硬化だから彼には全く通用しない。以前は驚けば無条件でトゲが出ていたけれど、今ではすっかり思い通りに抑制できたりする。切島くんはいつまでもトゲを出している私に、降りろよ!とぷんすかしながら言ってくる。


「キミが硬化を解けば痛みのあまりに振り落とせるのでは?」

「いやいや、女子にそんなひでェことできねーって!」

「あははは!ごめんごめん、降りるよ!次はこっちだ!」


ちょうど上鳴くんがギターを置いて休憩しようとしてたから、切島くんの背から降りて今度は上鳴くんの背に飛びついた。


「うわっ!!」

「うおお!痛ててて!」

「ご、ごめん!大丈夫か!?」

「キミも同族だったとは……」


上鳴くんは驚いたと同時に軽く放電してしまい、私はモロに電撃を浴びてしまった。自分が他人にいたずらをすることはあってもこんな風に返り討ちに遭うことは中々ないからちょっと楽しいとさえ思ってしまう。


「おらっ、仕返しだ!抱きつかせろよ!」

「ぎゃあああ!痛ててて!」

「なぁ、こんなとこ爆豪に見られたらどーすんの?流石のあいつも嫉妬すんじゃ?」

「彼はヤキモチなんか妬いてくんないから大丈……」


大丈夫。瀬呂くんに向かってそう答えようとした瞬間、後ろから爆音が聞こえてきた。上鳴くんの背に乗ったまま首だけで振り向くと、まるで悪鬼羅刹という様なご機嫌斜めな爆豪くんが立っていた。


「おい!アホ面テメェ!そいつから離れろや!」

「いやいや!どう見ても俺がしがみつかれてんじゃん!離れるのは花矢だろ!?」

「るせェ!早よしろ!」

「お、おい!花矢、降りろって!」

「…………爆豪くんさぁ、ヤキモチ妬いてたりする?」


その発言をした途端、部屋の空気はシーンと静まって、まるで時間が止まった様だった。爆豪くんは真っ赤な顔で怒っているのかぷるぷると震えていて、瀬呂くんと上鳴くんは顔を真っ青にしている。切島くんは爆豪落ち着け!と彼に近寄って行ったのだけれど、彼はそれを振り切って片手からバチバチ音を立てながらズンズンこちらへ近寄ってきた。そして私の頭をガシッと掴むと怖いとはまた別な真剣な顔で私の目を真っ直ぐ見つめてきた。


「花矢、そっから降りろ。」

「あ、う、うん……」


流石にふざけてはいけない雰囲気なのはわかる。私は彼の言うことに素直に従って上鳴くんの背からすぐに降りた。上鳴くんは、殺されるかと思った!なんて言いながら瀬呂くんの後ろに隠れてしまった。そんな彼らを他所に爆豪くんは再び言葉を繰り出した。


「お前は……」

「うん……?」


彼が珍しく小さな声で話すもんだから、私もちゃんと聞こうと珍しくしおらしくなったのだけれど、それはほんの束の間で。彼は再び悪鬼羅刹の様な顔になると、彼らの中ではいつも通りな、例の大声で怒鳴り散らし始めた。


「お前は俺の女だろうが!!この薔薇……馬鹿女!!」

「……はぁ!?キミにバカって言われたくないんだけど!?バカ豪勝己!」

「ンだとコラァ!!ぶっ殺されてェか!?」

「ひっどーい!彼女に向かって殺すとか!切島くんっ!ほら、盾になって!」

「お、おい!俺を前に出すなって!」


私が頭の薔薇を黄色くしてケタケタ笑いながら切島くんの後ろに隠れたら、爆豪くんはさらに大声で話聞いてんのか!って怒鳴ってきた。


「聞いてるよ。キミは私のことが大好きで、ヤキモチ妬いちゃうから他の男にくっつくな、ってことでしょ?」

「なっ……!?テメッ……!?」

「あははは!照れてる!かーわいいなぁ……あんまり意地悪するのもかわいそうだし、このくらいにしとくか!」


目を釣り上げて不機嫌そうな顔をしているくせに、その顔色は真っ赤で全然怖くなくて。むしろ可愛く見えてしまい、私は切島くんの側を離れて爆豪くんに正面から思いっきり抱きついた。もちろんトゲは出さずに。


「ハァ!?おい、離れろや!!」

「なんだよ、本当は嬉しいだろ?へへっ、私は爆豪勝己の女だからね。キミに抱きつくのはいいでしょ?」

「わ、わかりゃいーんだよ……」

「キミって私のこと本当に好きなんだね、私嬉しいや!」

「るせェ!自惚れんな馬鹿女!」

「はぁ!?ンなこと言っていーんか!?コイツ!こーだわ!」

「痛ェ!!やめろや!!」

「痛てて!!やめねェわ!!」


やっぱり彼にはコイツが一番だ、とイバラを出してべしべしと叩いてやった。まるで鞭を振るっているように見えたのだろうか、背後にいた三人が、猛獣使い、と小さな声で揶揄しているのが耳に入った。





嫉妬




「あ、ヤキモチ妬きのキミにコレあげるよ。」


私は腰のポーチから小さなハサミを出して、頭の薔薇を一本ちょきんと切り取って彼に差し出した。薔薇の色は黄色。


「花言葉はわかる?」

「黄色……ハァ!?なめとんのか!?」

「ぶっ!お似合いじゃん!あっはははは!」


黄色い薔薇の花言葉は嫉妬。






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