感謝




1限が終わった辺りから腹が痛ェ。というのもババアが早朝から激辛うどんなんか食わせっからに決まっとる。辛い物は好きだが、好きなのと身体が耐えれんのかどうかは別物ということだろう。午前中の授業はなんとか乗り切ることができたが、どーにも集中できんかった。クソが。


「爆豪、おめェ朝からずっと腹おさえてっけど大丈夫か?」

「うるせェわ!!てめェなんざに心配される必要はねェ!!」

「さてはおめェカルシウム足りてねーな?牛乳飲むか?」

「いらんわ!!ンなもん飲めるか!!」

「切島、よく今の爆豪に話しかけれるな……」

「全くだ。」


クソ髪が余計な世話焼いてくんのは今に始まったことじゃねェ、けど今はそれすらも煩わしく感じてしまう。日課が変わっちまったもんで昼休みが終わったら次は体育。この腹痛をどうやって回復するか食堂の机に突っ伏して必死に思考を巡らせていた時だった。人混みの中に一本白い薔薇が咲いてやがる奇妙な光景、あの薔薇女……確か、花矢、アイツが紙パックの茶を啜りながら歩いているのが見えた。花矢は俺の視線に気がついたのか、俺のすぐ目の前にやってきた。


「キミ、今朝の爆弾……いや、爆発くんだっけ?」

「あっ、おめェやめとけ!今コイツは……」

「……爆しかあっとらんぞ。」

「……!?ば、爆豪が怒鳴らないだと!?」

「なんだこの子……」



しょうゆ顔とアホ面がなんか余計なことをコソコソと話しとんのにムカついて、今すぐ爆破してやろうかと思ったがンなことしたらまたこの女に怪我させちまう。しゃーねーから我慢してやった。つーかコイツ確か薬屋みてーなこと言ってたな。


「あっ、そーだ、爆豪くんだ!爆豪くん!で、どーしたの?どっか痛いの?」

「……腹。」

「なんで痛いのかはわかる?」

「バ……母親が朝っぱらから激辛うどんなんか食わせっから……」

「おい、なんで爆豪のヤツ怒鳴らねェんだ?」

「お、俺に聞くなよ。」


「朝から激辛はキッツイな〜。んー、じゃあ胃腸薬がいいね。ちょっと待ってねー。」


花矢は腰に付けたポーチをゴソゴソと探り、黄色の丸薬が入った瓶と栄養剤みてェな大きさのボトルと小さなグラスを取り出した。手際良くグラスに水を注ぎ、瓶から丸薬を一粒取り出し、はい、あーんして、なんて言いやがる。ざけンな。クソ髪が、マジでやめとけ、なんてほざいてやがるが俺も同意見だ。


「ほら、口開けなよ。」

「おいおいマジかよ、何なんだよあの子!」

「度胸あんなー……」


「……自分で飲める。」

「そう?じゃ、これ置いとくよ?お大事にね。」

「おう……サンキュな。」

「サンキュー!?」

「嘘だろ!?あいつ礼なんか言えるのか!?」

「そこまで体調悪かったのかよ……」


「へへ、またいつでも!じゃ、またね爆豪くん!」

「ん……」


俺が花矢と話をしている間、しょうゆ顔、アホ面、クソ髪の三人がいちいち小声でなんか言っとったが全部筒抜けだ。アイツら後で爆殺の刑だわ。とりあえず花矢が置いてった薬と水を勢いよく口に放り込んだ。本当に効くんか、と半信半疑だったがその効果はすぐに思い知らされることになった。あんだけ胸糞悪ィと思った痛みがスッとなくなりやがった。確かにアイツが具合悪けりゃ自分とこ来いって言ってたのも納得できる。クソ、結局借りを作っちまった。そんなことを考えていたらアホ面が話しかけてきた。


「おい爆豪、腹の調子どうなん?」

「……ハッ!!最初っからこンくれー余裕だわ!!それよかてめェら散々好き勝手言ってくれたよなァ!?全ッ部聞こえとったわ!!」


俺は一応周りに花矢がいねェことを目で確認してからいつものように声を張り上げ、指先を擦って軽く爆発させた。


「うおおおお!?わ、悪かったって!おい切島!お前自分だけ硬化すんな!ズリィぞ!」

「悪りィ!怪我したくねェし!」

「つーか瀬呂は!?いねーんだけど!?」

「関係ねェ!!全員ぶっ殺す!!」


室内じゃなくテラス席だったため、俺は周りの影響を気にせずいつも通りアホ面に一撃をお見舞いしてやった。黒焦げになって、ウェイ、とかなんとか言ってやがる。意味わからん。クソ髪はまァ良いとして、しょうゆ顔は体育ン時にでも一撃ぶっ放してやるわ。





体育では先の思惑通りしょうゆ顔にも一撃くらわしてやった。ざまァねェ。7限も終わって、帰るために校舎の外に出たら花矢が門とは反対の方向に歩いていくのが見えた。そういやアイツ、薬を瓶ごと置いて行きやがった。面倒だが流石に返してやるかと思い後を追った。後ろから声をかけたらまた怪我させちまうから、早足で花矢の前に出た。


「おい。」

「あ、爆豪くん!お腹の調子はどう?」

「て……アンタの薬飲んでからは悪くねェ。」

「そっか!よかったね!」

「ん。」

「あ!それ持ってきてくれたんだ!ありがとう!」

「……アンタの頭んそれはどーなっとんだ。」


俺が薬瓶を手渡したらコイツの頭の薔薇が白からピンクに変色しやがった。一体コイツの身体の仕組みはどーなっとんだ。


「あ、これねー、私の気持ちで色が変わるみたいなの。今の色は多分嬉しいとか楽しいとかそんな感じ。」

「多分って何だよ。」

「自分じゃ見えないじゃん。」

「……ピンク。」

「ははっ、だと思った。あ、花言葉は自分で調べといてね。」


花矢はケタケタ笑ってやがる。なんつー中身のねェ会話だ。くだらねェと思って帰ろうと一歩足を前に出した時だった。


「爆豪くん、ちょっとお願いがあるんだが。」

「……聞くだけ聞いてやる。」

「明日の朝も花壇の整備するからさ、手伝って。」

「…………マジかよ。」


クソが。言葉が浮かばん。本当なら、てめェなめとんのか!!ンで俺がンなことしなきゃなんねーんだよ!!とか言いながら2,3発爆破しとるところだ。だがコイツの前でそんなことしてみろ、全身からイバラを出された凄惨な光景が拝めるだけだ。


「頼むよ。この花壇のこと知ってるの私と爆豪くんだけだしさ。タダとは言わないよ、爆豪くんが必要なときはうちの薬を無料で提供するし、今なら薔薇もプレゼントしちゃうよ!」

「……薬もらえンのは悪くねェ。」

「バ・ラ・も!プレゼントしちゃうよ!」

「……お、おう。」

「よかった!じゃ、また明日花壇に来てねー!」


自分の頼みを押し付けるとコイツは早足で校舎裏の方へ歩いて行った。あまりにも必死に薔薇を勧めてきやがるもんで思わずたじろいでしまった。ダセェ。しかしタダで薬もらえんのは悪くねェし、昼の借りも返さなきゃなんねェしで、しばらく付き合ってやるかと思う自分がいた。





感謝




「爆豪くん、照れてたなー。かーわいいっ。」





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