無邪気




約束しちまったもんは仕方ねェ。今朝もやけに早ェ時間に学校に来た。当然昇降口の鍵は開いていないので例の花壇に足を運ぶ。近づいていくと植え込みの向こう側でまた白薔薇が動いてやがった。一体何時から学校におるんだ。とりあえず驚かさんように声かけてやっか。


「……よぉ、早ェな。」

「おお、爆豪くん!おっはよーう!いやー、こんな朝っぱらからご苦労!本当に来てくれるとはねー、やっぱキミはいいヤツだ!」

「うっ……!!……やめろや。」

「照れてんの?キミそんなナリして案外可愛いとこあんじゃん。はいコレ。さっさと終わらせよー。」


うるせェ!!思わず怒鳴っちまうとこだったろーが!!ンで朝っぱらからコイツはこんなやかましいンだ!!ガキみてーな高い声が頭にキンキン響きやがる。しかもこの俺に向かって可愛い、だァ!?マジでナメ腐っとる!!だが俺が最高潮にイライラしとんのもお構いなしに花矢はスコップと何かの球根を手渡してきた。何だよこれ、絶対ェ薔薇じゃねェだろ。


「……花矢、これ何だ。」

「おっ、やっと名前呼んでくれたね。これは球根だよ、見たことないの?」

「テメ……!……ンなこた、わーっとる。何の花か聞いとんだ。」

「ははっ、ごめんって。チューリップだよ!」


危ねェ。テメェなめとんのか!!球根くらい知っとるわ!!とか言っちまうとこだった。この薔薇女め。ンで俺がいちいち気ィ遣っとんだ。ムカつくから1,2発爆破でも起こしてェと思ったが、コイツにイバラだのトゲだの何だの出されっと面倒くせェ。クソが、厄介なヤツに関わっちまった。


昨日と同様、花矢の指示通りに花壇の整備を手伝ってやった。今まで自分でも気付かなかったが俺はこの土弄りの作業が案外嫌いじゃねェらしい、きっちり均等な間隔で球根を植えきったンはなかなか悪くねェなんて思っちまった。


「おい、終わったぞ。」

「お、ありがとう!うわっ!すっごい綺麗!爆豪くんって見かけによらず几帳面なんだね!」

「……そりゃどーも。」


コイツ喧嘩売ってんのか。口を開くたびナメた口利きやがる。だがふざけとるわけじゃなく、花矢 夏季という女は元々こういう性格なんだろう、とかなんとか考えとったら花壇の土がもぞもぞと動いてやがる。多分虫だろ。花矢もそれに気づいたようだが、次の瞬間、頭の薔薇が一瞬黒くなったかと思えばコイツはあり得ねェことをしやがった。


「うわーーーっ!!ムカデだ!!私ハチ以外の虫はダメなんだよ!!痛ててて!!助けて爆豪くん!!」

「ッ〜〜〜!!薔薇臭ェ!!痛ェ!!」


このクソ薔薇女!!ムカデに驚いて俺に抱きついてきた挙句トゲ、さらにはイバラまで出しやがった!!昨日の比じゃねェ!!ンだよコレは!!ンで俺がここまで我慢しなきゃなんねーんだ!!つーかはよ離せそんで離れろクソ薔薇女!!一瞬で怒りが爆発しそうだったがそれよりも痛みが半端じゃねェ。俺はイバラが絡みついた身体を極力小さく動かして、スコップでムカデを掬って花壇の外に投げてやった。


「頼む、から、離れて、くれ………」

「うおお……わ、悪いね、助かったよ。」

「俺は助かってねェよ……」

「ご、ごめんって!ちょい待って!薬出すよ!これ使ったら私の個性でできた傷はすぐ治るから!」


ようやく絡みつくイバラから解放された。なんつー恐ろしい女だ。どうやらコイツの態度にムシャクシャすることがあっても絶対ェ驚かすようなことはしちゃなんねェと身をもって実感した。花矢は腰のポーチを探って、目当てのモンを見つけたのか頭の薔薇が一瞬ピンクに変わった。ンで薔薇臭ェ塗り薬を俺の掌に置いた。直ぐ蓋を開けて左腕の傷に塗ると、煙を出してみるみる塞がっていく。気味悪ィが正直スゲェとは思う。


「ね!この薬すごいでしょ!治ってよかったね?」

「……元はと言えば花矢のせいじゃねェのか。」

「ぶっ!ウケる!」

「ウケんな!!」

「うわっ!」

「痛ェ!!」

「あっ、ごめん。」


笑い事じゃねェよ!!こちとらイバラに絡み付かれて痛ェわ薔薇臭ェわで散々だったわ!!オマケにちょっとデケェ声出しただけでまたトゲ出しやがった!!何なんだコイツの身体は!!


「いやー、悪いね爆豪くん。」

「…………」

「ん?怒ってる?ごめんね、悪気はないんだよ。その証にこいつをプレゼントさ!」


コイツの相手をしてっと疲れる。もうこんな面倒クセーことはヤメだとか思ったところで花矢は一本のオレンジの薔薇を押し付けて来た。


「コレ昨日ももらったぞ……」

「昨日のは幸多かれって意味であげたんだけど、効果なかったみたいだね。今日は種類も違うオレンジの薔薇だよ!あ、もうこんな時間だから私行くね!花言葉は自分で調べといてね!」


どう見ても同じだろーが、つーか幸多いどころかどう考えても不幸だろコレは。それと毎回花言葉を調べとけって言われんのもコイツに負けてるようで癪に触る。負けず嫌いな俺はくだらん花言葉の知識ですら負けたくねェと思っちまって早足で教室に戻ると真っ先にスマホで薔薇の花言葉を調べたのだった。





無邪気




「……悪気がねェのはわかっとるわ。」





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