温かい心のあなたに
出会えた喜び




今日も自然と目が覚めちまった。相変わらず朝っぱらからババアがガミガミうるせェ。こんな家にいるよかアイツと土弄りでもした方がマシかと思って目を擦りながら昨日と同じ時間に家を出た。だが、例の花壇にアイツの姿はなかった。確かに今日も来いとは言われてねェがいささか自分勝手すぎやしねェかと思うと自然と舌打ちが出た。どうせ開いてねェだろうが昇降口に行くかと眠い目を擦りながら後ろを振り向くと目の前にアイツの白い薔薇があった。


「うおお!?」

「うわっ!?あっ!!」

「痛ェ!!いンなら声かけろや!」

「ごめん!いや、声かけようとしたら振り向かれて……」


この薔薇女マジでふざけンな!!驚かされるとトゲだのイバラだの飛び出す、とか言っときながらてめェが驚かしても結局出すんじゃねェか!!おかげで眠気も一気に覚めたわ!!


「いやぁ、爆豪くんがおっきい声出すから私もびっくりしちゃってさぁ。ま、ここはお互い痛み分け、って事で。」

「明らかに俺の方が痛ェ思いしとるわ……」

「ぶっ、ウケる。」

「…………」

「おっ、同じ轍は踏まない、ってね。さっすが爆豪くんだ!」

「はよ昨日の薬出せ……」

「ああ!ごめんごめん!……ところで、爆豪くんってさ、元々声大きい感じ?」


そうだわやっと気付いたかこの薔薇女!!てめェがトゲだのなんだの出すから気ィ遣ってやってんだよ!!とかなんとか言っちまいてェけど、どうやらコイツはちょっとした怒鳴り声にもビクッと反応しちまうヤツらしい。これ以上生傷増やして薬塗ってを繰り返すのは御免だ。ここは我慢だ。


「……多分な。花矢の前では一応気ィつけとる。」

「……ふーん、なんで?私のこと好きになっちゃったとか?」

「はァ?トゲだのイバラだの出されて痛ェ思いすンのが嫌なだけだわ。」

「へぇ〜、ま、そーゆーことでも良いけどさ!」


何勝手に勘違いしてニヤニヤしとんだ気持ち悪ィ。バカか。自惚れも大概にしとけ。大体、声のデカさだけじゃなくて言葉遣いにも気を遣っとるわ。オマエだのてめェだの言ってっと凄味が増すだけだからな。やっぱコイツといんのは調子が狂ってどうも俺が俺らしくいられねェ。


「……つーか今日は何もしないんか。」

「あ、今日は水を撒くだけだったからもう終わったんだ。昨日言い忘れてたね、ごめんごめん!」

「ンだよそれ。無駄足じゃねーか。」

「ンなことねーよ。」

「……真似すンじゃねェ。」

「ぶっ、ウケる。ツッコミ上手いよね爆豪くん。」


ピンクがかった頭の白薔薇を揺らしてケタケタ笑ってやがる。今日も朝からどっと疲れたわ。


「はー、面白っ。よし!今日も早起きして来てくれた優しいキミにはコイツを……ん?足りないな……」

「……何がだ。」

「いやー、これじゃ意味が変わるんだよ。あ、そうだ。」


ジョキッ。


…………は?コイツ、頭の白薔薇切りやがった!!


「お、おい!大丈、痛ェ!!」

「あ、ごめん!」


このクソ薔薇女!!こちとら柄にもねェ心配してやってンのにまたトゲ出しやがった!!マジで面倒くせェ!!





結局また薬を出されて、煙と共に傷は完全に塞がった。何度見てもコレだけはスゲェと思っちまう。先刻の頭の薔薇を切った件だが、どうやら頭の薔薇については痛覚が通ってないらしく、切り落としても何ら問題はないらしい。根さえ残っていればまた生えてくるとのことだが、逆に根が残らねェ状況を想像すると思わず身震いしちまった。グロすぎンだろーが。
 

「よぉし!これで良き!うんうん、やっぱ私ってセンスあるねー!」

「…………マジか。」


バカかコイツ。今からこれ持って教室上がれっつーんか。これっつーのは4本の赤い薔薇と1本の白薔薇でハート型を模した小さな花束だ。こんなんアホ面やしょうゆ顔にでも見られてみろ、いい笑いモンじゃねーか。ふざけろ。こんなん受け取れっか。


「こんなん受け取……」

「へへっ、爆豪くんが今日も来てくれて嬉しいや!頭の薔薇を切って花束作ったことなんて今までないしさ、記念に受け取ってよ!」

「…………」


ハッキリ言って昨日も一昨日も薔薇を押し付けられたが特に何とも思わんかった。むしろ邪魔だの面倒くせェだの思ったぐれェだ。けど、なんとなく今日の花矢の薔薇は受け取らなきゃなんねェと思った。マジで俺らしくねェと自分でも思うが、コイツが頭の薔薇を切り取ってまでこの花束に意味付けた言葉が気になっちまう。あれこれ考えて受け取るかどうか躊躇していると、花矢は初めて見せる悲しげな表情で呟いた。


「あれ?いらない?困ったなー、でも他の人にあげるのは嫌だし……うーん、薬の材料にでも……」

「……受け取りゃいーんだろが。寄越せ。」

「おっ、やっぱ優しいね!あ、花言葉は自分で調べるんだよ!今日のはちょっと難しいぞ!」

「ハッ、余裕だわ!」


今コイツの頭に薔薇が生えていればきっとピンクになってんだろうな、なんて柄にもねェこと思っちまった。誤魔化すように時計を見れば、もう教室へ向かわなければならない時間になってやがったもんで、俺は花束を片手に花矢に背を向けた。





温かい心のあなたに出会えた喜び




「何なんだよこれは!!」

「うおっ、どうした爆豪!!」

「クソが!!わかんねェ!!あの薔薇女何組だ!!」

「薔薇女ァ?ああ、あんときの女子か……」

「色なんか本数なんか形なんかサッパリだわ!!」

「……おめェ、薔薇博士にでもなんのか?」





「うーん、あれは流石に難しかったかなあ。」

「花矢さん、廊下で花矢さんのこと探してる人がいるよ。」

「え?誰だろ…………あっ!!」






もどる
lollipop