秘密




「わざわざサポート科まで会いに来てくれたんだ?」

「……花言葉、調べてもわからんかった。」

「……なーんだ、そっちか。」

「あ?そっちってなんだよ。」

「べっつにぃ〜。」


結局いくら調べても答えがわからず花矢ンとこに来ちまった。俺がのこのこ姿を現したらこいつはいつものように飄々としてケタケタ笑うんだろうと思っていたが、予想に反して不服そうな顔をしてやがる。頭の薔薇に視線をやると一瞬青くなった気がしたがすぐに白に戻っていた。


「ンで、答えは何なんだ。」

「ンなこたどーでもいーんじゃねーのか。」

「……真似すんな。」

「ぶっ、ウケる。えっとね、温かい心のキミに出会えて嬉しい〜って感じの意味だよ。」

「……そんなん図鑑には載ってねェぞ。」

「おっ、勉強熱心だね。偉い偉い。まー、普通の図鑑には色と本数の組合せなんて複雑な情報載ってなさそうだよねー。」


あろうことか花矢は手を伸ばして、偉い偉いと俺の頭を撫でやがった。こんなナメたことされっと爆破の2,3発かましてやるとこだが、俺が答えを聞きに来ちまった立場上ンなこと出来ねェし、デケェ声出して驚かれでもしたらまた痛ェ思いするだけだ。気にくわねェがグッと我慢してやってっと、周りのモブ共がコソコソ何か言ってんのが聞こえた。


「お、おい、アレって体育祭優勝の爆豪だろ?花矢さんに頭撫でられてるよ……」

「アイツが怒鳴ってねーの初めて見たわ。」

「私も〜。てかあの2人どんな接点あんの?」

「あー、ほらアレじゃね、花矢の……」

「あぁ……夏季ちゃん、学校休んじゃってたし……」


確か一昨日の朝、個性の都合で学校休んでたとか何とか言ってやがったな。俺は花矢にアレって何だと聞こうとしたがコイツが一瞬メチャクチャ苦しそうなツラしたのが見えて憚られちまった。頭の薔薇は何と形容すれば良いのかわかんねェ、まるでドブの底みてェな色だった。何と声をかければいいのかわからなかったが、頭の薔薇は一瞬で黄色くなり、コイツはすぐにいつものようにケタケタ笑い出した。


「……何がおかしい。」

「いやぁ、爆豪くんって強いとか怖いとかそんな噂ばっかり聞いてたんだけど、私にはいっつもタジタジしてるってか優しいじゃん?今だって私のこと考えてくれたから何も言わなかったんでしょ?」

「ンな……」

「ンなこたねェよ、ってか。ぶっ、ウケる。」

「……チッ!真似すんなや!!」

「うおおっ!!痛っ!ぶはっ、ゴメン!」

「痛ェ!!!」


つい我慢出来ずに怒鳴っちまったら案の定コイツはイバラを出しちまって俺もコイツも痛ェ思いをした。さっき見せた苦悶の表情は何だったんだっつーぐれぇケタケタ笑ってやがる。


「ははっ、キミといると飽きないねえ。キミのこと、好きだわ〜。」

「…………は?」

「あのさ、キミの知りたいこと、教えてあげるよ。だから、ヒーロー科の授業が終わったら学校出て左に2,3分歩いたとこにある花屋に来なよ。『花矢薬花』って看板出てるからすぐわかると思うよ。」


いきなり何言ってんだこいつと思ったが、大抵他人のことは大して気にならねェこの俺が、こんなふざけた性格の花矢にあんなツラさせた事っつーのにやや興味を引かれたっつーのは事実で。しゃーねェからこいつのくだらねェ誘いに乗ってやることにした。


授業が終わると俺は早足で学校を後にした。柄にもなく急いじまってたもんだからか、何か察したアホ面が、どっか行くなら俺も付き合うぜ、なんて言ってきたのがうっぜェから1発爆破してやった。ざまァねェ。


2,3分歩いたところで確かに『花矢薬花』と書かれた看板のクソでけェ店に着いた。こんだけ学校に近けりゃあんな時間に学校にいやがんのも納得がいく。看板を見上げてっと店の奥からエプロンを着けた花矢が出てきた。


「おっす、未来のヒーロー!お疲れ!」

「……話、早よ済ませろや。」

「疲れてんのにわざわざ来てくれてありがとね!とりあえずあがんなよ!2階が家になっててさ、私の部屋、階段上がって1番奥の左のドア開けたところ!」

「ん……」


コイツの指示通りに歩を進めたが部屋の前で立ち止まった。あんなバカでも流石に女だ、勝手に部屋に入るっつーのは忍びねェ。待ってたら花矢はティーセットを持ってドタドタと慌ただしく階段を登ってきた。


「おっ、待っててくれたんだ、偉いねぇ。ほら、両手塞がってるから開けて開けて!」

「わーったよ。」

「へへっ、ありがとう!さっ、入って入って!何もない部屋だけど寛いでってよ!」

「……薔薇臭ェ。」

「キミ、案外失礼だな!」

「ケッ。」


部屋の中は薔薇のニオイがする以外はわりとシンプルだった。もっと薔薇薔薇っつー感じの部屋をイメージしとったが……イヤ、イメージなんかしてねェ。クソッ、コイツのこと考えとったなんか認めたかねェ。


「ま、テキトーに座ん……もう座ってんね。キミ、遠慮って言葉知ってる?」

「テメ……そっちが寛げっつったんだろが。」

「ぶっ、ウケる。あ、ローズティー淹れるからちょっと待っててね。」

「……おう。」


コイツが茶ァ沸かしとる間、暇だったんで、近くに置いてあった『薔薇の処方箋〜夏季〜』っつー手書きのノートを手にした。テキトーにページめくっとったら『黄色→胃腸薬』、『白→塗り薬』とか花の色、組合せの比率、効果、作り方やら他にもなんやら俺にゃサッパリわかんねェもんが綺麗にビッシリ書かれてやがった。一見こいつはノーテンキなやつだが、花と薬に関しちゃ得意気になんのも納得がいく。パラパラとページを進めてっと、いっちゃん最後のページの直前にでかでかと『危険』と書かれとった。めくろうとしたら茶を淹れ終わったであろう花矢にノートをさっと取り上げられちまって、その替わりに俺の手には薔薇の蕾を3本と開花したオレンジの薔薇が1本束ねられた小さな花束を持たされた。





秘密




「花言葉は、『あのことは永遠に秘密』とかそんな感じ。言うつもりなかったんだけど昼間あんなこと言われたし、その性分なら気になるっしょー?」

「……話したきゃ話せ。」

「素直じゃないんだからー。ま、キミにはコレで迷惑かけちゃってるし、話しとこーかなってね。」


そして花矢はノートの最後のページを広げた。






もどる
lollipop