信頼




ノートをめくった花矢の頭の薔薇がドブの底みてェな色に変わった。一体なんだっつーんだと思いノートに目を遣ったが、そこにはとんでもねェ悍ましいことが書かれてやがった。





『黒→確実な即死』
『丼鼠色→目覚めない(つまり死)』
『紫紺→遅効性神経毒(やがて死)』
………………
………………


ーMEMOー
☆薔薇矢の悪い効果は私自身には効かない?→効果別:赤ノート参照。
☆トゲ、イバラ→特効薬なし?青ノート参照。
☆黄色+紫紺→毒耐性(3:7)、腐った物食べても平気になった。ウケる。
……………
……………





「ンだよコレ……」

「私の頭の薔薇って切って矢みたいに刺して薬の効果出せるんだけど、まさかそんな効果の薔薇があるなんてさ……」


俺が目を疑ったンは薔薇の色の効果よりも一番下のメモだった。


「花矢、そのトゲは遺伝じゃねェのか。」

「……嘘ついててごめん。前にうちの薬を盗もうとしたバカなヤツらがいて。私、そいつらに連れ去られたんだ。所謂ユーカイってヤツ。」


花矢が肩を震わせて話し始めた。ここ2,3日の付き合いだが、コイツがこんな態度を表に出すのは初めて見た。


「……怖ェんだろ、無理すんな。」

「キミには、知っておいてもらいたい。」

「……話してェことだけ話せや。」

「やっぱ優しいなキミは。んじゃ、ちょっと長くなるけど聞いてやってよ。」





***



うちの家系、女の人だけみんな頭に花咲いてんだよ。ばーちゃんはコスモス、母さんはパンジー、私はバラで、妹はチューリップ。可愛いっしょ?そんで、高校入った直後くらいかな、うちの薬を狙って変な奴らが家に入って来たんだ。本当笑えないよね!父さんと母さんが私と妹を守るために戦ってくれたんだけど、もーぼっこぼこ!紫色の睡眠効果の花の矢は当たんないし、相手は集団だし!で、私は妹をこの部屋のクローゼットに閉じ込めて、この家の子どもは私だけだ!って言ったんだけど、スタンガンっての?ばちばちーって!私気絶しちゃってさ。


目が覚めたら身体が縮んで……なんてことはなくて、普通に縛られて変な廃墟?みたいなとこにいたよ。そこで何度も頭の薔薇切られて、何度も私にぶっ刺して来てさぁ!でも私に発現した効果はこのトゲとイバラ!もー最初は怖いし痛いしわけわかんないしで全身血だらけだよ!最悪!


そんでさ、私じゃ実験台にならんって思ったんだろうね、あろうことかソイツら仲間内で私の薔薇矢の効果試し始めてさ!基本的には薬だから、悪い効果は起こらないって思ったんだろうね。でも、毒で死人は出るわ、身体から薔薇やイバラが生えてきて全身の水分抜かれて死ぬやつが出るわ、しかも回復方法はわからないわで散々でさ。あ、よく見たらそいつら、ライバル製薬会社の研究員だったし、もう逮捕されて会社も倒産したよ!ザマァみろって感じ!


最終的にはプロヒーローが助けに来てくれたらしいんだけど全身トゲとイバラの怪我で血だらけで気絶してたらしくてあんま覚えてないんだよね。そんで、こんな性格なのもあって今じゃけろっとしてんだけど、散々自分の薔薇薬注入されてまるで呪いみたいにトゲとイバラの効果が残っちゃったわけ。今の私じゃせめて出さないよう常に気を張るくらいしか対策できなくて。だから驚いちゃったらあんな風に出ちゃうわけ。まったくメーワクな身体になっちまったもんだ!!そのノートはずっと作ってきたもんだけど、ここ数ヶ月はこのトゲとイバラの呪いを解くためのことばっかだよ。はい、終わり!長くなったけど聞いてくれてありがとね!





***



「っつーわけなンだよ。わーったか?」

「……こんな時にふざけてンじゃねェよ。」

「……暗いよりは明るい方が良くない?」


こいつの飄々とした底なしの明るさはそういうことだったのか、と合点がいった。だが、強がっている様子はなく、本当に生来から花矢 夏季という人間はこういうヤツなんだろう。


「休んどったつーのは、怪我が原因か?」

「んー、それもあるけどやっぱトゲとかイバラ出して人に迷惑かけたくないじゃん?ちょっとでもコントロールできるまでは登校はやめとこうと思いまして!」

「……納得した。」

「イバラ、痛かったでしょ!いやー、いつも悪いね!」

「……気にすンな。痛ェ!!」

「きゅ、急に頭なんか撫でるからだろ!?」


クソが!!ちょっと優しくしてやったらコレだ!!ちょっとでも慰めてやろうかと思ってやった俺がバカだったわ!!……つーか何で俺が慰めてやんなきゃなんねェんだ。


「キミってさー、損な性格してるよね。」

「あ?何の話だ。」

「キミ、学校で何したの?なんか私と距離近いのも、花矢の薬を利用するためじゃないのかーとか、弱みでも握られてんじゃないのかーとか、あっ、でもキミなんだか私にタジタジしてるし私の方が立場上なのかな。」

「あぁ!?ナメて……!!ッ痛ェ!!!」

「私も痛いよ!突然大きな声出すなってば!!学習しようぜ、爆豪勝己。」

「ッ……花矢が……言うな。」

「ぶっ、ウケる。」


いつの間にか頭の薔薇はあんな汚ねぇドブ色から爽やかな黄色に変わってやがった。つまりコイツのトゲやイバラは先天的なモンじゃなくて、散々な目に合って生まれた副産物ってワケか。話は聞いたしとっとと帰るかと思い、花矢が淹れた温くなった茶を飲み干して立ち上がると、コイツは窓際に置いてあった鉢植えの薔薇を切り取って、机の上にあった包装紙とリボンを手際よく巻いて、薔薇を俺に押し付けた。


「……またオレンジかよ。」

「キミにぴったりの色じゃん!あ、花言葉は……」

「……信頼。」

「うおっ!やるね!」

「ッぶねェ!トゲ気を付けろ!」

「よく避けたね……むむ、二重の意味でやるなぁ爆豪勝己!」





信頼




キミなら話してもいいやって思えたのはさ、きっとキミのこと信頼してるからなんだよ!



***



信頼か……ハッ、悪くねェ






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