友情、ではなく




爆豪くん、今日水撒いてくれるって言ってたけど一人で大丈夫だろうか。私の花壇以外の場所知ってんのかな。そんな心配があって、7時半くらいに学校に行ったんだけど、要らぬ心配だったみたいで。爆豪くんは大きなホースを持ってせっせと水やりをして回ってくれていた。ちょうど私の花壇のところで水やりをしていたから、いつもの仕返しにそーっと後ろから声をかけようとしたのだけれど。


「おは……」

「気付いとるわ。」

「うおっ!?やるね!さすがだよ爆豪勝己!それから、ちゃんと水撒きやってくれてありがとね!」

「ハッ、ンなもん楽勝だわ。」

「おっ、じゃあ毎日やるかい?」

「……クソ大変だったわ。」

「キミ案外ノリいいよね。」

「ケッ。」


なんだかんだでやっぱ良いやつだよなって思う。花言葉もちゃんと勉強してくれてるし、花のことを知ろうとしてくれるやつに悪いやつはいないよね、うん。そういえば、昨日薔薇をプレゼントできなかったから今日はちゃんと薔薇を持ってきた。今日はトゲのない黄色い薔薇。水撒きを終えて道具を綺麗に片付けてくれた爆豪くんに、お礼だよって差し出してみた。


「……何が気にくわねェんだ。」

「え?」

「嫉妬。」

「あっ、それも黄色の薔薇の花言葉だね。でも残念、今日のはもう一つヒントがあるだろ?」

「……トゲがねェ。」

「そういうこと!ふふん、薔薇ってのは咲き方、色、トゲ、いろんな条件で花言葉が変わるから面白いんだよなー。んじゃ、花言葉は自分で調べるんだよ!」

「……わかった。」


なんか昨日も今日もやけに大人しいな。またお腹でも痛いのか?黄色の胃腸薬を出してみたけど、いらねェ、って凄まれた。どうやら体調は悪くないらしい。そうこうしてると生徒達が来だしたから、私も爆豪くんもカバンを背負って昇降口へ向かった。靴を履き替えて、彼はA組へ、私はH組へと別れた。A組を通り過ぎる時に派手な爆発音が聞こえて思わずトゲを飛び散らしてしまった。そーっと覗いてみたら、前に食堂で爆豪くんがお腹を抑えてたときに一緒にいた金髪の男子が爆破の餌食になっていた。なんだアレ、ウケる。





それから3日経って、今日は金曜日。これまで特に何事もなく過ごした。ちなみに爆豪くんには会っていない。朝の水撒きも私がぱぱっと済ませてしまってその後は時間ギリギリまで家で店の手伝いしてるから、会えないのも無理はない。まあクラスが違うただの友達だし別に毎日会わなくても、って感じなんだけど。けれども、昼休みにいつも通りH組の教室で仲良しの発目明とお弁当を食べてたら突然後ろから名前を呼ばれた。


「花矢。」

「ん……うおっ!爆豪勝己!あっ、ごめん。」

「痛ェ!!名前呼んだだけで出すなや!!」


振り向いたら脳内の片隅にいたはずの爆豪勝己が目の前にいたもんだから驚いてトゲが出た。こないだ引っ叩いちまった日からイバラは絶対出さないように努力してる私偉いよね。しかしわざわざこんなとこまでなんの用事だろ。


「ごめんごめん。で、何か用事?」

「……英語。」

「……ワッツ……ハプン?」

「……そうじゃねェ。……英語の教科書貸せ。」

「それが友達に物を頼む態度か?」

「……貸して、くれ。」

「ハッ、まァええわ。持ってけや。」

「真似すんな。持ってくわ。」


なんでB組から借りないんだよ、友達いないのか?とか思ったけど流石にこれは爆破される気がして言わなかった。触らぬ神に祟りなし、ってか。とりあえず教科書を机から出して渡したら、満足そうにニヤッと笑って教室を出て行った。お弁当食べようと思って前を向いたら、明が目をキラキラさせて私を見ていた。


「驚いた!夏季さん、体育祭の優勝者と仲良しなんですか!?」

「え?……あぁ、そういえばそうみたいだね。仲良し……まあ、成り行きでかなぁ。」

「いいじゃないですか!あんなドッ強い人と仲良しなら、将来安泰、企業にアピールするチャンスも……!」

「明って本当計算高いよねー。そーゆーとこ、好きだけどさ、ウケる。」


よく見たら教室のみんながこっちを見てて。花矢と爆豪はどういう関係なんだ、薬を利用されてんじゃないのか、でも花矢の方が立場が上そうだとかぼそぼそ噂されてる。あいつ、トゲを恐れてんのか私の前じゃ大声出さないしタジタジしてるもんねー。でも、ある意味私も有名人だし、そのうえあいつと仲良くしてたらそりゃ注目も集まるわ、噂もされるわだなー、なんて思いながら紙パックの野菜ジュースをずぞぞーっと啜った。


午後の眠たーい授業もちゃんと起きて受けきった。偉すぎる。そして放課後、私は英語の教科書を貸したことを忘れて普通に家に帰っていた。宿題をやろうとした時に英語の教科書がないことに気付いて、学校まで取りに行こうと外に出たら爆豪くんにばったり会った。


「……ンで先に帰っとんだ。」

「は?一緒に帰りたかったの?」

「……コレだわ。」

「あぁ!貸してたねそういえば!いや、忘れたと思って取りに行こうとしてたんだわ!」

「バカか。」

「バカ豪に言われたかねェわ。」

「真似すんな。」


バカは否定しないのかよ。てか、一緒に帰りたかったのも否定しないのかよ。とりあえず教科書を受け取って、じゃあねと身を翻したら、突然腕を掴まれて手に何か握らされた。そして彼はぼそっと言葉を投げて、返事も待たずにのしのしと歩いて行った。


「明日からも水撒きしてやる。……遅れたらぶっ飛ばす。」





友情、ではなく




「へぇ!ミモザじゃん!良い香り!花言葉は友情、だっけ?あいつ西洋花が好きなのか?私詳しくないんだけどなー。」



***



チッ、忘れ物のフリなんざして英語を意識させようとしたが、あのバカ……薔薇女じゃ気付かねェか。



***



トゲのない薔薇の花言葉/黄色い薔薇の花言葉
友情


ミモザの花言葉は
友情


ミモザの英語の花言葉は
secret love (秘密の恋)






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