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「泣き虫ひとしー!弱虫ひとしー!」
「ばーかばーか!ウニあたまー!」
「うわああああん!!」
いつだってわたしはひとくんのヒーローだった。
「ひとくん!もう大丈夫!わたしが!来た!」
「うっ、ううっ、乙樹ちゃん……」
「うわー!ゴリラ女が来たぞー!」
「ゴリラじゃないもん!ガゼルだもん!」
ひとくんをいじめるやつはゆるさない。
だって、ひとくんのことがだいすきだから。
「うわああ!ゴリラのキックで木が折れた!」
「ゴリラだー!!逃げろー!!」
「ガゼルだよ!!それに……まったくもー……」
ひとくんはうるうるした目でわたしを見てる。もー!男の子なんだからしっかりしてよ!
「ひとくんも泣いてばっかいないの!」
「うっ、だって……」
「もー!しかたないなあ!わたしがずっとひとくんのヒーローでいてあげる!だからもう泣いちゃダメ!」
「それは……いやだ……」
「え!?どーして!?」
「ぼくが、乙樹ちゃんのヒーローになるから……」
「ほんとに?じゃあ、ひとくんがいつかオールマイトよりもうんと強いヒーローになったらひとくんのおよめさんになってあげる!」
「わかった……ぼく、がんばるから……」
***
…………何、今の。頭痛いし、身体も痛いし。
ああ、そうか。私、机で寝てたのか。外はもう日が暮れそうだ。……アイツめ、起こしてくれたっていいじゃんか。
私は小さく舌打ちを打って、鞄を肩に引っ掛け早足で教室を出た。下駄箱に着いたらアイツの頭が見えた。……まだいてくれたんだ。
「……乙樹、いつまで寝てんだよ。もうみんな帰ったぞ。」
「………心操、起こしてくれたっていいじゃんか!」
「起こしたけど起きなかったからここで待ってた。」
「待っててなんて頼んでないし!」
「別に。俺が待ちたかっただけ。ほら、早く靴履き替えて。」
「一緒に帰るなんて言ってない!」
「毎日一緒に帰ってるのに今更何言ってんだよ。」
「う、う、うるさい!!」
私と彼は幼い頃からずっとずっと一緒だった。隣の家で育ち、同じ幼稚園に通って、同じ小学校に通って、今では同じ中学校に通っている。昔はひとくん、なんて呼んじゃってたけど、同級生の男子にからかわれてからなんとなく心操って呼ぶようになっちゃって。でも、そんな心操といつも一緒にいられるのもあと少し。彼はあの雄英高校を受験するのだから。
……ヒーローになれるやつなんて選ばれたやつだけなんだよ。今だってろくにガゼルの個性を活かせなくなった私より弱いくせに。ヒーローなんて憧れちゃってバッカみたい。あんなのおっかけんの、いい加減辞めればいいのに。私がこうしてイライラしてんのもお構いなしに心操は話しかけてくる。
「乙樹、英語の宿題、覚えてる?」
「覚えてるよ、教科書の67ページでしょ。」
「じゃあ数学。」
「79ページ。答えは知らん。」
「宿題は覚えてるけどやるかどうかは別、と。」
「もーうるさい!わかんないんだからしかたないでしょ!ほら!家着いた!じゃあね!」
「……朝、30分早く迎えに行くから。」
「はぁ!?頼んでないし!てかなんで早く来るのさ、意味わかんない!」
「じゃ、また明日。」
「話は最後まで聞け!!」
心操は自分の用件だけ伝えると早々と自宅に入ってしまった。一体何なんだアイツは。昔は乙樹ちゃん乙樹ちゃんってわたしの後ろをついて回ってただけのくせに。いつの間にかわたしの前を歩くようになっていた。身長だってわたしの方が高かったのに、学年が大きくなるにつれてアイツはどんどん大きくなって、気づけばわたしの方がアイツを見上げるようになっていた。悔しい。
それにそれに、学業面だってそうだ。ヒーロー養成科なんてこのあたりにだってちらほらある。なのになんで雄英なんか。あそこは普通科だって偏差値が80近い超難関高校だ。わたしなんかの学力じゃ到底合格は厳しいだろう。心操の個性じゃ雄英の実技試験突破は困難でほぼ不合格は決まってるようなもの。だからアイツは雄英の普通科に行くんだよ、絶対そうだ。……頭はいいんだし。
「私だって……雄英、行きたいよ…………」
ぽつりと呟いた言葉は誰の耳に入ることもなく虚しく空に溶けてしまって、余計に悔しくなったからやつ当たる様に大きな音を立てて家に入った。
どんなときもずっと
これからもずっと一緒にいたい
ただそれだけ