心操と私はママ同士も幼馴染だからお互いの家のことは筒抜けだ。だから私が本当は雄英に行きたいと思っていることはママにだって秘密。心操にバレるなんて絶対嫌だ。
担任の先生からは、苦手な科目を頑張ればまだ間に合うって言われてるけど、心操と同じ学校に行くために頑張る自分なんて認めたくない。この私が、内心では幼馴染の心操 人使のことが好きで好きでたまらないなんて、絶対に認めるわけにはいかないの。
昔っから腕っぷし……というよりは脚力の強かった私はいつも泣き虫で弱虫の心操のヒーローだった。どんなときもずっと一緒で、ずっと私が守ってあげるんだって思ってた。あの日、事故に遭うまでは。
………なんだか今日は過去に振り返ってばかりの気がして無性にイライラする。私は宿題もそのままに意識を手放した。
今朝はママよりも早く目が覚めて、宿題を済ませていないことを思い出して急いでそれを終わらせた。数学と国語以外。この2つが私の苦手な科目、結構致命的なんだよね。朝ごはんを食べて、身なりを整えて時計を見ると同時に家のチャイムが鳴った。時刻はいつも家を出る時間のちょうど30分前で。
「あら〜!人使くんおはよう!」
「オハヨウゴザイマス……」
「今日はずいぶん早いのね、だからあの子も早起きしてたのかしら?」
やばっ。
ママが余計なことを言っているのが聞こえて、慌てて玄関へ走った。
「ちょっとママ!余計なこと言わないでよね!」
「……ちゃんと起きてたんだ。」
「あんたが早く来るっつったんでしょーが!何なのよ!」
「ん、じゃ行くよ。」
そう言って心操はゆっくり背を向けて学校へと歩き出した。こんな時でも置いて行かれるのは悔しいと思って、ママに行ってきますを告げて早足で心操を追いかけた。
「なんで今日だけこんな早いわけ?」
「乙樹に勉強教えるため。」
「…………は?」
「今日だけじゃないから。今日から毎日。放課後も居残りするか、家に行くか選んで。」
「…………はぁ?」
今こいつ何つった?私に勉強を教える……?しかも今日だけじゃない……?まさか、そんなはずは。
「……どういうつもり?」
「…………別に。」
心臓の鼓動が、まるで聴診器でも当てているような大音量で聞こえる気がする。背中に汗がブワッと出てきて気持ち悪い。
「な、なんなのよ、はっきり言いなさいよ!」
「……乙樹、雄英行きたいんだろ。」
「な、な、な、な、な、何よそれ!意味わかんない!」
なんで。どうして。
「…………俺は、オールマイトよりも強いヒーローになるためには……雄英に行くしかない。」
「だからさっきから何の話よ!!」
「いいから、ほら、早く歩け。勉強時間が減る。」
「まだやるなんて言ってない!!」
「まだ、ってことはやるんだろ?」
「ッ〜〜〜!!心操のバカ!!もう知らんっ!」
これじゃまるで昨日の夢の通りじゃないか、あんな幼い頃の口約束なんか、いくらお互い覚えていても無効に決まってる。きっと心操は一緒に雄英受ける奴が誰もいないから、家も隣で長年付き合ってきたから、都合がいいから、私に声をかけてきたんだ、きっとそうに決まってる。
あの事故以来、私は心操にこんな風に強く当たるようになってしまった。今更、本当は心操とずっと一緒にいたいから私も雄英に行きたいだの、勉強を教えてほしいだの、心操のことが、好き、だの…………そんなの絶対絶対言えるわけがないじゃないか。
心操を置いて走ってしまい、先に学校に着いたものの結局行く先は同じ教室で。少し遅れてやって来た心操は自分の席に荷物を置くと、今日の数学の宿題を持って私の前の席に座った。
「な、何よ!」
「宿題。わかんなかったんだろ?教えてやるから早く出せ。」
「べ、別に教えてもらわなくたって……」
「乙樹。」
「何よ……」
「雄英に行きたくないのか?」
「……は?」
「個性は使ってない。正直に答えてくれ。」
何よそれ……そんなの、行きたいに決まってるじゃん……素直に言えればどんなに楽か。心操と、あんたとずっと一緒にいたいから、私も雄英を受けたい、って。言え、今ならまだ間に合うんだ、言えよ私!
「………………行きたい、わけじゃないけど、挑戦するだけしてみたい、とは思う。」
「それが聞ければ充分だ。やるって言った以上、本気でやってもらうからな、俺だって暇じゃないんだ。」
「わ、わ、わかったわよ…………」
いつのまにか弱虫は私になってしまっていて、結局本音を言えなかった。けれども、意地を張って行きたくないとか受けないとか言うことは避けられた。あまりにも真剣な様子だったから嘘をつくことだけはしたくなくて。でも、随分曖昧な答えを示してしまったにもかかわらず、目の前のコイツは満足気に口角を少しだけ上げていた。
誰もいない教室で心操は懇切丁寧に宿題を教えてくれた。赤点を取ったことのある私にでさえ一度や二度でわかるように指導できる心操の頭の良さには思わず舌を巻いてしまい、いつもの強がりが全然出せずに結局素直に全問教わって、さすがにお礼を言わなきゃとさえ思ってしまった始末。
「…………心操。」
「ん?どっかわかんない?」
「違う。……あ、ありが……とう。」
「……それはこっちのセリフ。」
「は?私、なんかしたっけ?」
「……わかんなくていい。」
「……意味わかんない。」
「……放課後は国語、朝は数学、このスタンスで進める。返事は?」
「ハイハイ、心操センセー。」
「ハイは一回。」
「……やっぱムカつく!」
渡りに船とはこのことだが、正直なんで心操がこんな世話焼いてくるのかはわからない。これを機に少しでも素直になれたらな、なんて普段の私には微塵も似つかわしくもないしおらしいことを思ってしまった。
似たり寄ったり
俺がお前と一緒にいたいから、同じ高校行くために頑張ってもらわなきゃ困るんだ