素直になれずに


私と心操の勉強会は思ったより捗って、勉強会から直近のテストではなんと数学で70点も取れてしまった。他教科もよくテストに出るところを教えられたのもあってか、そこそこ点数が伸びて担任が目を白黒させていた。失礼な。


「テスト、どうだったの。」

「……まあまあ。」


私は珍しく素直に自分の成績表を心操に手渡した。流石に教えてもらっておきながら毒を吐くほど性格が捻くれてはいない、と思いたい。心操は成績表をじっと眺めると満足気に口角を上げた。


「良かった。この調子なら雄英も手が届くだろ。」

「…………心操。」

「ん?」

「なんで、知ってたの。」

「何を?」

「私が!!私が、雄英、受けてみたいとか、思ってみた、こと……」


コイツ、絶対わかってるくせにわざと言わせようとしてくるのタチ悪いんだよ。でも、それにいつもみたいにやつ当たりするのはグッと堪えた。だって、一体どうして私が雄英に行きたいって思ってるのかがバレているのかが心底気になるもの。


「……ずっと俺のヒーローでいるって言ったの、乙樹だろ。」

「……は?」


コイツ、何言ってんの?私は自分の気持ちがバレんじゃないかとやきもきしてたのに、それがまるでバカみたいに思えた。


「だから、お前も雄英行くだろ。ずっと俺のヒーローでいるんだから。」

「ちょっと待って!!私、こんな脚で、もう戦えないんだよ!?それにそんな子どもの頃の……」

「別に戦いだけがヒーローじゃない。あと、子どもの頃の約束でも俺にとっては大事な約束だ。乙樹は違うのか?」

「は、はぁ!?わ、私は別に……」


何てことだ。この前の夢の通りじゃないか。コイツ、あんな子どもの頃の約束を信じてるのか。それに、あの約束の通りなら私は心操の…………!?いや、コイツがオールマイトより強くなるなんてそんなの宝クジ1等が2回連続で当たるくらい低い確率でしょ!無理無理無理!私は誤魔化すように心操にテキトーに質問をした。


「し、心操こそ、何で雄英受けるのよ!」

「……それはこの前言った。オールマイトより強いヒーローになるためだ。」


心操は首の後ろに手を当てて伏し目がちにそう呟いた、と思ったら、急に手を下ろしてまっすぐ私を見つめてきた。何、この雰囲気。


「乙樹。」

「な、な、何よ。」

「俺は、乙樹が好きだ。昔っから、お前だけが好きだ。大事な幼馴染としても、女としても。」

「は、はああああああ!?」


す、す、す、す、す、好き!?コイツが!?私を!?ちょっと待って、何をどうしたらそうなるのか。私は事故で脚を怪我してしまって以来、ヒーローになるチャンスが絶たれたと思ってずっとずっとずっと辛く強く当たって来たのに。でも、それでも確かに心操はずっと私に態度を変えずに接してくれていた。ちょっと考えればわかることだったのかもしれない。だから、私もずっと心操が好きだった、って言えば良かったのに、こんな時でも私の強がりは引っ込んでくれなくて。


「わ、わ、私は別に!何とも思ってないし!」


違う。


「大体こんな脚でヒーローなんて無理だよ!勝手に自分の願望押し付けないでよね!」


違う。止まれ。


「私、別に雄英なんか受けないし!!」





やってしまった。





「……そうか。悪かったな。」





ちがう、のに。





心操は苦虫を噛み潰したような顔をして私の前から立ち去った。やってしまった。今日ほど自分をバカだと思ったことはない。昔から恋焦がれていた心操から好きだって言ってもらえたのに、どうしてこんな時ですら私は素直になれないのか。ガゼルの個性と引き換えに天邪鬼なんて個性を授かってしまったのかとさえ思うほどに。





一緒に帰らない放課後は9年間の学校生活でも初めてで。今まで隣に心操がいるのは当たり前だと思っていた。私はこの状況を恐れて雄英を受けるんじゃなかったのか、自分にほとほと呆れ果てて、涙で視界が滲んできた。1人で寂しくとぼとぼ歩いているといつの間にか家の前に着いていた。きっと心操はもう勉強を教えてくれないだろうし、明日の朝も迎えに来てはくれまい。自分のバカさ加減が本当に許せない。こうなったら自分の力で雄英に受かって、きっと受かるであろう心操に今日のことを謝って、その時まで心操が私のことを好きでいてくれるかはわからないけど、私も心操のことがずっとずっと大好きだと伝えるしかない。そう決意した私は目に浮かんだ涙を拭って前を向いて家に入ったのだった。





隣の家の窓から見ていた心操には気付かずに。





翌朝、やはり心操はいつもの時間に迎えには来なかった。自分のせいだ、仕方ない、と割り切って私も1人で学校へ行った。同じクラスだから嫌でも顔を合わせるけど今日は一言も会話をしなかった。お互い以外の友達はもちろんいるから、お互いに孤立する、なんてことがなかったのは救いだった。ただ、今日は幼馴染と話をしないのか、と周りからお互い心配されたのは同じだった。放課後、心操は1番に教室を出て行った。私はというと今日からは自分で勉強をすると決めて、放課後は先生が鍵を閉めに来るまでずっと教室に残って自習を続けた。





そんな生活を送ってちょうど1ヶ月、ついに雄英高校の受験まで残すところあと1日。やれることはやった。担任からも、落ち着いていけばきっと大丈夫だと太鼓判を押してもらった。心操は……アイツはきっと大丈夫だ。昔からよく知っている、アイツならきっと。


なんとなく落ち着かなくて、気分転換にコンビニでスイーツでも買って食べようと思って財布を握って家を出たら、ちょうど心操がコンビニの袋を持って家の前に立っていた。耳と鼻の頭が赤くなっていて、だいぶ前からここにいたんじゃないかと思う。


「な、何よ……」

「ん。これ、お前に。」


心操が私に突き出したコンビニの袋の中を覗くと、まさに今買いに行こうとしていたスイーツ、他にも飴やチョコレートなど私の好物がどっさり入っていた。


「明日、頑張れよ。」


これまでの1ヶ月、全く会話もしなかったのに、突然以前のように接してきたことに呆気に取られて言葉が出なかった。心操は私に袋を握らせると満足気に口角を上げて、自分の家に帰って行った。私は誰もいなくなった家の前でぼそっと一言呟いてから家に入って明日の受験に備えたのだった。





素直になれずに




頑張らないわけないじゃない……あんたと同じ高校に行きたいんだもん……




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