素直になりたくて


雄英高校受験はあっという間に終わった。受験当日の朝も別々に行って、校内で会うことはなかった。私は普通科を受験して、心操はヒーロー科を受験したみたいだけど、あの個性でどうやって実技試験に対応したのかはわからない。というのも、結局まだ心操と口を利けていないからだ。


実は今朝合否発表は終わっていて、私は普通科に見事合格した。名部中から電話で呼び出されて、担任の先生は涙しながら私の合格を祝ってくれた。この先生は頑張れば大丈夫だと背中を押してくれて、放課後も鍵閉めの時間を少しずらして私の質問に答えてくれたりとなんだかんだ世話を焼いてくれた。だから私もちょっぴり泣いてしまった。けど、同じクラスで同じ高校を受けたはずの心操はここにはいなかった。つまり合格者は私だけ、ということだろうか。先生に心操はどうなったのって聞く勇気はなくて。合格は喜ばしいことなのになんとなく前を向くことが出来なかった。


家に帰ったら心操ママがうちに来ていて、ママが今晩はご馳走にする、って2人でキッチンに立って張り切っていた。私だけ合格したのに何でって思ったけど、心操のことを気にかけているのを知られるのが何となく恥ずかしくて、ありがと、とだけ呟いて自分の部屋に戻った。


これで、高校から心操とは離れ離れ。私、なんのために雄英高校なんて受験したんだろう。心操はどこの高校に行くんだろう、私立なら今からでも二次募集とか……なんて考えていたらいつの間にか外は薄暗くなっていて、下からママが私を呼ぶ声が聞こえた。リビングに行くと心操ママと私のママ、それに何食わぬ顔をした心操がテーブルに着いていた。ちなみにパパ同士は今日は出張、こんな時までお揃いなのか。


「心操、あの、私……」

「ん、合格オメデトー。」

「あ、ありがと……えっと……」


まずい。言葉が出てこない。何と言ったらいいのか。チラッとママの方を見ると、あんたどうしたの?と言わんばかりに目を丸くして私を見ている。心操ママを見るとそれはそれは上機嫌でニコニコしてて。ひとまず明るい空気を壊したくなくて食卓に着いた。全員で手を合わせていただきますをして、幼稚園の頃から中学校を卒業するまでのいろんな思い出話に花を咲かせた。心操も口角を上げて話に参加していたから、私も少しは気が紛れた。最後にママが冷蔵庫からケーキを出してくれて、大きなプレートに書かれた文字を見て驚いた私は咀嚼していたローストビーフを吹き出すところだった。



『人使、乙樹、合格おめでとう!』



確かにそこには心操の名前があった。私は口の中のものをお茶で流し込み、心操を真っ直ぐ見てこう言った。


「あ、あ、あんた、落ちたんじゃ……」

「そんなこと言ってない。」

「あの個性でどうやって実技試験を……」

「……ヒーロー科は落ちたけど、普通科には受かってた。そんだけ。」

「…………は?」


つまり、残念ながらヒーロー科には落ちてしまったけど、普通科には合格した、ってこと?何よそれ、何よ、何よ!!


「し、し、心配してた私がバカみたいじゃない!」

「へぇ、心配してくれたんだ。そりゃ嬉しいね。」

「ば、バカにしないでよね!!」

「してねーよ、ほら、生クリーム溶けちまうぞ。せっかくおばさんが作ってくれたんだから残さず食べろ。」

「わ、わかったわよ!!」


さっきまでご馳走の味も曖昧だったのに、ママのケーキは本当に美味しいと感じた。何よ、早く言いなさいよ!バカ心操!ていうかママも知ってたなら早く教えてくれたって良かったのに!ケーキをむしゃむしゃ頬張っていると心操がじーっとこっちを見ているのに気付いた。


「何よ……」

「……乙樹はそーやってワーワー言ってる時が一番良いよ。」

「は?何の話よ。」

「別に。……4月からも同じ高校だからよろしくな。遅刻したくないし、朝は余裕もって準備しとけよ。」


……つまり、朝はまた一緒に行ってくれるってこと?私、あんなひどい態度とったのに?……謝りたい、今度こそ、素直になりたい。けれど、今は心操ママも私のママもいる。どうしようと思って何も言えずにいると、心操ママが、そうだ、と私と心操に一枚の紙切れを渡してきた。


「何これ。」

「何って、あなたと乙樹ちゃんへの合格祝いよ。受験勉強であなたたちロクに遊んでなかったでしょう?2人で遊びに行って来なさいな。」

「……だとさ。明日暇?」

「べ、別に予定はないけど……」

「んじゃ決まり。朝準備できたら迎えに来るから。」

「……寝坊すんじゃないわよ!」

「……どっちが。」


心操はまるで悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべている。正直私も少し口元に笑みが浮かんでいるのは否定できない。心操ママのくれた動物園のチケットを握り締めて、明日は絶対素直になろうと決めたのだった。





素直になりたくて




明日はちゃんと謝って、心操に、す、す、す、好きだって、伝えるんだ……



***



乙樹の考えてることなんてお見通しだよ。こっちは1ヶ月どころか10年も待ってやったんだ……明日、楽しみだな






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