すれ違う想い



「はぁ!?まだヤってねーの!?」

「バカ上鳴!!声がデカい!!」


だが時既に遅しで。級友達がザワザワしながら集まってきた。あの爆豪と轟ですら目を丸くして驚いている。


「確かふたりってもうすぐ5年になるんだっけ……?」

「うん、まぁ……」

「5年も付き合って1回もヤらせてくんねーのか!?統司ちゃん、ガード固すぎだろ……いや、尾白の煩悩が足んねーのか?それとも……」

「峰田さん!!貴方って人は……サイッテーですわ!!」

「うおお!危ねぇ!」


あれこれ破廉恥な発言を繰り返す峰田に八百万また何か爆発物のようなものを出して投げていた。はぁっと俺がうなだれたところで、昔からよく話を聞いてくれたメンバーが俺を囲むように集まってくれた。上鳴、砂藤、葉隠さん、そして轟。


「いや、茶化す気はねェけどよ……その、なんでさせてくれねーんだ?統司も、尾白のこと好きなんだろ?」

「真ちゃん、初めてだから怖がってるとか?それとも尾白くんに甲斐性がないだけ?」

「……責任取れるまではしないって約束だから。」

「責任?何のだよ。」

「えっ、その……生娘を傷つける、というか、あと、に、妊娠とか……ほら、避妊しても100%じゃないって授業で習ったし……」


砂藤、葉隠さん、上鳴からこの他にも色々質問攻めに遭ってしまい、なんだかどっと疲れた。確かに俺達ももう二十歳だ。そろそろ、最後までしてもいい関係なのかもしれない。けれど、真は昔確かにこう言っていたのだ。


『そういうのは、結婚する人とだけがいいな。』


と。つまり、結婚しなければ彼女の最初の男にはなれないということ。そしてそれは、彼女の最後の男にもなれないという意味で。俺は真が笑ってそばにいてさえくれれば一生それができなくても構わないと思っていると彼女に伝えたことがある。彼女の笑顔が何より大事で、かけがえのない大切な宝物だからだ。けれどやっぱり心と身体全部で彼女と愛し合いたい気持ちも強い。気持ち良い云々は置いといて、ただ、彼女と心と身体全てで繋がりたい、それに尽きる。


「早く結婚すりゃいいんじゃねーのか?」

「それはそのために結婚するみたいで嫌だな……それに、真はまだ大学生だし、俺もまだ仕事が安定してないし……」

「……統司にはちゃんと伝えたのか?」

「えっ?」


高校生の頃と全く変わらず、轟が口を開いたらその場の全員が注目する。彼は特に気にしていない様子でそのまま言葉を続けた。


「お前の気持ち。統司にちゃんと伝えた方がいい。結婚、考えてんなら尚更。」

「で、でも何年後かわからないし……」

「わからなくても、伝えるのと伝えないのとじゃ全然違う。大学で別の男にとられるかもしんねェぞ。」


そこでハッとした。先週、真のバイト先に同じ大学の男が入ってきたとか。しかも心なしか、彼女は言葉の上ではそんなことはないと言っていたけれど、どこか気になる、そんな様子で。


もう5年も一緒にいるというのに俺はこんなにも余裕がない。それもそのはず、彼女は大学生になってからぐっと綺麗になった。元々見目形はもちろん、言動までも非常に可愛らしく、アイドルにスカウトされた経験もあるほどだ。だが、今の彼女の纏う雰囲気は、女の子というよりはもう大人の女性といった感じで。ただ、言動はまだまだ幼さを残していて、そのギャップがまた良いというか…………ともかく、轟の言う通り。伝えるのと伝えないのとじゃ全然違う。一度、俺の想いをきちんと伝えるべきなのかもしれない。


「ん?尾白、コレなんだ?」

「……あっ!?か、返して!」

「……ゆ、指輪ァ!?お前、童貞のくせにもう統司ちゃんと結婚すんのか!?」

「ち、違……わないけど、まだ違う!そ、それは婚約指輪だよ……まだ渡せてないけど……」


俺は峰田から林檎のように真っ赤な箱を引ったくって、自分の鞄の奥底へそっとしまった。そう、婚約指輪を持ち歩くほどに俺は真との関係で頭がいっぱいになっているのだ。結婚はまだ早いとわかってはいるものの、どうしても彼女を早く自分だけのものにしたくて堪らない。事務所の先輩と飲みに行った時に、早いとこプロポーズしちまえと言われて勢いで婚約指輪を買ったはいいものの、彼女に言えず仕舞いでもう3ヶ月が経っている、なんてこと周りの誰にも言えないが。


みんなに話を聞いてもらっていると、いつの間にやらお開きになっていて。ヒーロー科のみんなは二次会に行くと言っていて、俺は上鳴に引きずられるように連れられて二次会の会場となっている高級ホテルへ足を運んだ。


ホテルのエントランスで幹事が受付を済ませてくれている間、A組とB組のみんなと適当に話をしていたら、上の階から結婚式の二次会帰りの集団が降りてきた。紺色のドレスにベージュのボレロを羽織った小さな女性が美しい、とB組の円場がやたらと騒いでいる。チラッとその集団を見てみると、そこには紺色のドレスにベージュのボレロを羽織った真と高校時代からの親友、確か演劇部の活発な女子だったか……彼女が並んで歩いていた。耳を澄ますと二人の話が聞こえてきた。


「本当、綺麗だったね!次は真の結婚式だね!」

「えっ?えっと……わたし、今日みたいなのはしたくないなぁ……」

「はぁ!?なんで!?彼氏君となんかあったの!?」

「ち、違うよ、そんなんじゃなくて……えっと………………」

「うんうん。」

「それと…………」

「あー……まぁ、そりゃそーだね。確かに、私もそれは嫌かも。」


真の言葉はだんだん小さくなっていってよく聞き取れなかった。けれど、確実にわかったことがある。真は俺との結婚を嫌がっているということ…………


目頭が熱くなって、ほろ酔い状態だったのもすっかり醒めてしまった。もう二次会気分なんかじゃなくなってしまった俺は近くにいた切島に体調が悪いと告げて、さっさと彼等の前から姿を消した。あの場で泣かずにいる自信がなかったからだ。


長い距離を駆け抜けて、気付けば家に帰り着いていた。俺は婚約指輪の入った真っ赤な箱を乱暴に机の引き出しの奥に仕舞い込んだ。真は、俺のどこが嫌なんだろうか。真、真、といつも彼女を求めてしまうところだろうか、それとも、嫉妬深いところだろうか、あるいは俺が地味で朴訥でどうしようもなく平凡なことに飽きてしまったのだろうか…………


悪い方に悪い方にと考えているうちに、俺はいつの間にか微睡の中に落ちてしまっていた。





すれ違う想い




「えっと……わたし、結婚式するならふたりだけの、秘密の結婚式がいいの……それか、家族と親友を呼ぶだけの、小さい式がいいなって……」

「うんうん。」

「あと、今日、プロヒーローの女の子の結婚式だったからテレビの人がいたでしょ?わたし、恥ずかしくて嫌なの……」

「あー……まぁ、そりゃそーだね。確かに、私もそれは嫌かも。」 

「それに、わたしまだ学生だし……猿夫くんと結婚するのは当分先だよ。」

「相手は彼氏君で決定なんだ?」

「うん!黄色いリボンで結ばれた運命のひとだからね!えへへ、猿夫くんのお嫁さんかぁ……あぁ〜!!絶対世界で一番幸せだよ……あぁ〜!!」

「……あんた高1の頃から変わんないね。」





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