重なる想いと
繋がる心



人生で2回目のラブホテル。緊張は計り知れない。心臓がどくどくと大きく早く動いているのがよくわかる。なんだかくらくらしてきた。まだ、お部屋のソファに座って手を繋いでいるだけなのに。ちらりと隣にいる大好きな彼に目をやると、どうやら彼はずっとわたしを見つめていたようで、瞬時にぱちりと目が合ってしまった。心臓が跳ねたようにどきりと高鳴ってぱっと目を逸らしてしまったら、彼がわたしの手を握る力が少しだけ強くなった。彼の手はとても汗ばんでいる。


「真、無理してない?大丈夫?」

「し、してないよ!緊張してるだけ!」

「そ、そっか……俺もめちゃくちゃ緊張してるよ……」

「あ……え、っと、わたし、お、お風呂、入りたい、な。」

「あ、俺、用意してくるよ。」


猿夫くんは立ち上がってお風呂場の方へ歩いて行った。少しぎくしゃくしている感じから、本当に彼も緊張しているのがよくわかる。大丈夫、きっと大丈夫。緊張しているのはわたしも彼も同じ。それに、先程お買い物をした時に彼の目を盗んで可愛い下着も買ったし、痛いのは怖いけど彼なら無理矢理なんてことは無いだろうし、何より彼を心の底から愛しているのだから。大丈夫。でも、もし、もしも、また、できなかったら……


「嫌われちゃう、かなあ……」

「そんなことあるわけないでしょ。」

「わあ!び、びっくりした……」


いつの間にか戻って来ていたようで、背後から彼の腕の中にふわっと閉じ込められてしまった。すごく温かくていい匂い。わたしの大好きな猿夫くん。彼はわたしの首元に顔を埋めてきた。さらさらの髪の毛がとても心地良い。


「俺の方こそ、嫌われてないかなってビクビクしてるよ……」

「そんなわけないよ……わたし、猿夫くんじゃなきゃいやだもん……」

「真……あんな酷いこと言って本当にごめんね……でも……それでも、俺のところに帰って来てくれて……本当にありがとう……」

「もう謝らないで……わたし、あなたといられるだけで幸せだから……」

「真……」

「猿夫くん……」


ゆっくり後ろに顔を向けると、お顔も尻尾も林檎みたいに真っ赤にして涙を流している彼がいた。わたしの顔もとても熱くて、自然と涙がこぼれ落ちた。彼の大きな左手がわたしの右頬にぴったりとくっつく。ひんやりした感覚がとても気持ち良くて、えへへ、と声を漏らした瞬間、彼の柔らかい唇がわたしのそれと重なった。また、涙味のキス。想いが重なる時はいつもこうだ。


ちゅっちゅと音を立てて何度も何度も唇を重ねていると、お風呂の用意が整ったようで機械音が鳴り響いた。最後にもう一度ちゅっと音を立てて唇を離した時にはお互いすっかり泣き止んでいて、目を泳がせている彼に、一緒に入る?と聞いてみたのだけれど、我慢できなくなるから!と両手を前に出されてしまった。思わず笑ってしまったら彼も照れたようにふにゃりと笑ってくれた。それからいつものようにじゃんけんで順番を決めた。最初に入るのはわたし。





ゆっくりお風呂を済ませて、ドライヤーで髪を乾かし終わったところで丁度彼もお風呂から出てきた。彼がわたしの隣に腰掛けて手を伸ばしてきたのだけれど、あっちを向いてとお願いして、ドライヤーをかけてあげた。邪魔にならないようにくたりと垂らされた尻尾がとても可愛らしい。髪の毛を乾かした後に、優しく丁寧に尻尾の毛先にもドライヤーをかけてあげている間、彼はとても嬉しそうな慈愛に満ちた表情でわたしを見つめてくれていた。嬉しくて恥ずかしくて、愛しくて恋しくて……そんな優しい気持ちでいっぱいになった。


ドライヤーを終えて、ふぅっと息を吐いて、猿夫くんをちらりと見上げてぱちりと目が合った瞬間、胸がきゅんとして堪らず両手を胸に当ててしまったらくつくつと笑われてしまった。それから彼に手を引かれて一緒に洗面所へ行って、寝る準備を済ませて、再び手を引かれて大きなベッドへ。とてもふかふかした可愛い薄桃色のベッド。備え付けのハート型のクッションもとても可愛くて思わずぎゅっと抱きしめてしまったのだけれど、猿夫くんはそんなわたしを後ろからぎゅうっと抱きしめてきた。


「……めちゃくちゃ緊張するね。」

「あ、う、うん……は、恥ずかしい……」

「うん……俺も恥ずかしいよ……」

「…………」


沈黙に支配されてしまった。やっぱり緊張は計り知れない。わたしはこれから、ついに、ついに彼に抱かれるのだ。女の子から、女になるのだ。またあの痛みに襲われるのかと思うと正直怖くて堪らない。だけど、様々な不安も心配も困難も全部全部、彼と一緒に乗り越えて、ふたりで一緒にここまでやってきたのだ。わたしの人生で初めて……人生で唯一愛した男の人と結ばれることにどうして恐怖心を抱こうか、いや、抱く必要などない。彼となら、彼とふたり一緒ならきっと大丈夫。だって、いつだってどこだって、どんな時だって、わたし達の想いは重なるのだから。心と心が、繋がり合っているのだから。


「あ、あの、さ……」

「う、うん?」

「えっと、ベッド、入ろっか?」

「そ、そう、だね、うん、入ろっ、か。」


ふたりでもぞもぞとベッドに潜り込んでじーっと見つめ合った。わたしも猿夫くんも林檎みたいに真っ赤な顔になっている。今、わたしたちの想いは重なっている。心と心が繋がっている。きっと、わたしも彼も、同じ気持ちでいるはずだ。わたしは、彼を幸せな気持ちにしてあげたい。彼の厚い胸板に頬を寄せて、ぎゅっと彼のバスローブを握ったと同時に、彼の逞しい尻尾に抱き寄せられた。彼のとても速い心臓の鼓動が聞こえる。彼への愛を伝えたくて口を開こうとしたら、先に彼の声が降ってきた。


「真、俺を選んでくれてありがとう……」

「……えっ?う、ううん、そんな……わたしの方こそ、選んでくれて……わたしの夢を、叶えてくれてありがとう……」

「真の夢……?」

「うん、小さい時に救けてくれたあの子みたいなかっこいいヒーローのお嫁さんになりたいなって……」

「そ、そうなの?」

「うん……わたし、猿夫くんと出会えてからずっとずっと幸せだよ。今も昔も、猿夫くんが、わたしの最高のヒーローなの……」

「そ、そう、なんだ……そっか……ありがとう……」


ぎゅうっと強く抱きしめ合って、じいっと見つめ合った。猿夫くんのお顔はとても真っ赤になっていて、恥ずかしそうにふにゃりと笑っていた。きっとわたしも真っ赤な顔をしているのだろう、彼と見つめ合った瞬間、同時に、林檎みたい、と呟き合ってしまったもの。


もう既に幸せでいっぱいだ。だって、心と心が繋がっているのだから。きっと、今日こそ、今日こそは、彼の腕の中で、わたしは、女の子から、女に、なる。彼は、男の子から、男に、なる。わたしの全てが、彼のものになる。猿夫くんの全てが、わたしのものになる。


「真……愛してるよ……」

「わたしも、あいしてる……」





いつもの合図、愛してるの言葉を皮切りに、わたしと猿夫くんの、初めての真の愛の営みが始まったのだった。





重なる想いと繋がる心




「ちゃんとできるかなあ……わたし、不安……」

「大丈夫、いつもみたいにさ、やめて欲しくなったらちゃんと教えてよ。真が怖くなるようなこと、絶対しないから。」

「う、うん、いつもみたいに……えへへ、猿夫くん、だいすき……」

「……!い、いつも通り可愛すぎ……」










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