いつまでも
あなたと



「真、おはよう……」

「ん……おはよ……」


目が覚めたら、猿夫くんがとっても優しいお顔でわたしを見つめてくれていた。頭を撫でてもらっているのがとても心地良い。ピンクを基調とした可愛いお部屋……そっか、ここ、ラブホテルだ……わたし、昨日、ついに猿夫くんと……


「痛っ……!」

「えっ!?大丈夫!?」


身体を起こそうとしたら、下腹部にずきんと痛みが走った。当然だ、昨晩はあんなに痛かったんだもの。猿夫くんはお顔も尻尾も青ざめていてとても心配してくれている。


「だ、大丈夫……?」

「うん……起きようとしたら少し痛くて……ほら、はじめて、だったし……」

「あ……そ、そっか、そう、だよね、あんなに血も出てたし……あっ、ご、ごめん、デリカシーなくて……」

「ううん、大丈夫だよ。」

「頑張ってくれてありがとう……真、大好きだよ……」

「わたしも大好き……」


猿夫くんがとっても優しくそっと抱きしめてくれて、わたしも彼にぴとりと寄り添ったのだけれど……


「……きゃあっ!は、は、裸……!」

「……ごっ、ごめん!そ、その、俺もあの後すぐ寝ちゃって、さっき目が覚めたんだけど、真の寝顔が可愛くてついぼーっとしてて……」

「もう……またそんなお世辞ばっかり……」

「本当だって!目、見てたらわかるでしょ?」

「う……も、もう!ばか……は、恥ずかしいでしょ……」


猿夫くんはいつもいつでも真面目に恥ずかしいことを言ってくるから困っちゃう。彼の逞しい胸板に顔を寄せて、ぎゅっと強く抱きついたら優しく頭を撫でられた。


「俺、今人生最高に幸せかも……」

「いつもそう言ってるよ?」

「真と一緒にいるといつも幸せだからね……」

「もう……」

「真、ごめん……俺、余裕がなくて……いや、言い訳がましいことは言わない……傷つけて、怖がらせて……泣かせて……本当にごめん……でも、もう二度とあんな思いさせないって約束するから……」

「猿夫くん……」


猿夫くんのお顔を見ると、細い目には今にもこぼれ落ちそうなくらい涙が溜まっていた。いつもいつでも、どんな時でも、わたしのことを想ってくれている猿夫くん。優しくて強くてかっこよくて、真面目で誠実で努力家で……普通だと揶揄されるのがおかしいくらい、とっても素敵な……わたしの特別な……いちばん大切な人……好き、大好き……わたしの王子様……なんて彼への想いを胸の内で綴っていたら、彼の目からぽろりと涙がこぼれ落ちてしまった。


「……そんな風に思ってくれて……俺、嬉しいな……」

「……えっ?」

「ん……?」

「わ、わたし、い、今の……声に出てた?」

「うん……」

「…………」

「……真?」

「……は、恥ずかしいっ!!」


彼のお顔を見るのも自分の顔を見られるのも恥ずかしくて、彼の胸に顔をぎゅうっと押し付けた。クスクス笑いながら抱きしめ返してくれて、背中をとんとんと叩いてくれている。ああ、恥ずかしい……


「その林檎みたいな真っ赤な顔、本当可愛いよね。」

「か、からかわないで……」

「揶揄ってなんかないよ。本当に可愛いって思ってるよ。初めて見た時からずっとね。」

「あうぅ……」

「……もうちょっとしたら、朝ご飯食べて家に帰ろうか。」

「うん……」


ふたりで抱き合ったままのんびりと時間を過ごした。しばらく経つと、猿夫くんはゆっくり起き上がって服を着て、顔を洗ったり歯磨きを済ませて、朝ご飯を買うためにコンビニへ向かった。


わたしもゆっくり身体を起こしたのだけれどやっぱり下腹部はずきんと痛む。近くにあった下着を拾って、ソファに置いておいた荷物から自分の服を取って浴室へ向かった。シャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かしていると猿夫くんが帰ってきた。大丈夫!?どこか痛くない!?と言いながらあわあわと慌てる彼はやっぱりとても優しくて。大丈夫だよ、と笑ったら、彼も安心したみたいでふにゃりと笑っていた。


彼が買ってきてくれた朝ご飯を食べてからラブホテルを出た。わたしが歩くのもしんどそうだと思われたのか、彼はわたしをひょいっとお姫様抱っこして歩き始めた。恥ずかしいと伝えても、身体が心配だからと降ろしてはくれなくて。正直とても助かるのが本音だから、今日はお言葉に甘えることにした。


お家に帰ったらすぐにソファに降ろしてもらった。横になってて、とブランケットやクッションを用意してくれて、彼はずっとわたしのそばにいてくれた。手を握ってくれて、腰や背中を優しく撫でてくれて……ぽかぽか温かくてとても気持ちが良くなったわたしはすぐに寝落ちてしまった。





「ん……」

「起きた?」

「うん……お腹、空いた……」

「準備できてるよ。簡単なものだけど……」

「ありがとう……嬉しい……」


猿夫くんはひょいっとわたしを抱き上げて、リビングへ運んでくれた。椅子に座らせてもらって、彼が作ってくれた夕食をゆっくり食べた。たまごスープ、根菜の煮物、鯖の塩焼き、ご飯……猿夫くんが用意してくれたごはんはどれもすごく美味しかった。


夕食を食べてからはお風呂の用意までしてもらえて、わたしは温かい湯船に浸かりながらゆっくりお風呂を楽しんだ。猿夫くんがずっとわたしの身体に負担をかけまいと気を配ってくれたおかげか、だいぶ身体が楽になった気がする。お風呂をあがってすぐに寝る準備を済ませて、寝室のベッドの上で読書をしていたら猿夫くんが寝室へ入って来た。本を置いてぱっと顔を上げると、彼はとても心配そうな顔をしていた。


「真、大丈夫?どこか痛くない?」

「うん、もうだいぶ楽になったよ。明日は授業が休講になったって連絡もあったし、ゆっくりするから大丈夫だよ。」

「そっか……俺も明日休みたいな……」

「テイルマンがいないと困ってる人がもっと困っちゃう……」

「う……ちゃんと出勤するよ……」


しょんぼりしているのがすぐにわかる。だって尻尾がしゅんと垂れ下がっているんだもの。猿夫くん、可愛いなぁ……


「……明日、お仕事頑張れたらご褒美のチュー、してあげるね。」

「……明日も頑張るぞ!」

「えへへ、素敵!」


すぐ隣で横になった彼にぎゅっと抱きついて頬にちゅうっとキスをしたら、ふにゃりと優しく笑ってくれて、ぎゅうっと抱きしめ返された。優しくて温かくて、良い匂い。とても安心する。やっぱりわたしはこの人じゃなきゃダメなんだ。


「真、そろそろ寝ようか。」

「うん……」

「電気消すね。」

「うん、おやすみなさい……」


ベッドにころんと寝転がったら、尻尾で優しくぐっと腰を引き寄せられた。後頭部に手を添えられて、ちゅっと触れるだけのキスをされた。高校生の頃から変わらない、おやすみのキスの習慣。彼の優しさにとても安心する。先日の出来事の恐怖心や、彼に嫌われないかという不安感は一つ残らずかき消された。ぱちっと目を開けて彼のお顔を見ると、彼も目を開けたままで、とても穏やかに微笑んでいた。


「寝ないの?」

「寝るよ?真の可愛い寝顔を見てからね。」

「明日お仕事でしょ?早く寝ようよ……」

「んー……こんな風にのんびり一緒に過ごせるの久々な気がしてさ。色々、すれ違ってばっかりだったから……」

「うん……そうだね……」


そう、わたし達はすれ違ってばかりだった。でも、もう大丈夫。ふたりで一緒にいれば、手を繋げば、目を合わせれば、どんなことだって乗り越えられるのだから。更に向こうへプルスウルトラ。わたし達の母校、雄英高校で幾度となく聞いた力強い言葉。わたしの大好きな言葉だ。


「……更に向こうへプルスウルトラ、しちゃう?」

「うん?」

「……エッチ、する?」

「……!?い、いや、だ、だめっ!今日は寝よう!昨日あんなに痛がってたし、昨日の今日で、なんて俺が許したくない!」

「えへへ……猿夫くん、優しいね……」


ぎゅうっと抱きついたら、彼は小さな声で、参ったな、と呟いた。それからたくさん優しいキスをされた。わたしの大好きな猿夫くん。ちょっぴり過保護でヤキモチ妬きさんで、だけどとっても優しくてかっこよくて、わたしのいちばん大好きな人。ずっとずっといつまでもあなたと一緒にいたい。


「猿夫くん、だいすき……おやすみなさい……」

「おやすみ、また明日……」


もう一度、そっと優しく触れるだけのキスをして、彼と抱きしめ合って一緒に眠りについたのだった。





いつまでもあなたと




「すぅ……すぅ……」

「う……可愛い……」

「すぅ……猿夫くん……すぅ……」

「うん……?」

「すぅ……すぅ……だいすき……」

「……!俺も大好きだよ……一生大切にするからね……」










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