真は顔を林檎のように真っ赤にしながら俺の手を握って歩き出した。俺の聞き間違いじゃなければこう言ってくれたはずだ。抱かれたい、と。実はそういった考えが全く無かったかと言われれば嘘になる。愛しい彼女とそういうことをしたいと思うのは男の性ってヤツだろう。あの夜のことが昨日のことのように鮮明に思い出される。とても幸せなあの夜のこと。また……また、彼女と愛し合いたい。願わくば何度でも。
そんな期待の念を抱きながら彼女に手を引かれるがままに、美術館で様々な展示品を鑑賞した。トリックアート迷宮展では錯視を使った謎解きに挑戦したりフォトスポットで写真を撮ったりしながらゆっくりと迷宮展を楽しんだ。今は帰りのバスを待っている間にベンチに座って先程の写真を鑑賞しているところだ。
「きゃあ!このお写真すごい!わたしの方が猿夫くんより大きく見える!」
「本当だ……真は大きくても小さくてもとっても可愛いね。」
「あうぅ……またそんなこと言う……」
「事実だからね。あっ、この服、何色に見えた?俺は茶色と黒に見えたんだけど……」
「えっ?青と白じゃなかった?」
「えっ?……あ、あれ?今は青と白に見える……」
「わあ……錯視って面白い……」
錯視を使ったアトラクションやゲームも面白かったが、こんな風に後から気がつく謎が沢山あるのもまた面白い。真は、なんで?どうして?と気になったことをスマホのメモに書き込んで、後日調べてみると意気込んでいた。勤勉なところも彼女の良さの一つだ。良い子だね、と優しく頭を撫でれば、一瞬へらりと笑ったけれど、すぐにキリッとして、子どもじゃないもん!とそっぽを向いてしまった。
「そうだね、子どもじゃないもんね……」
「そうだよ!わたし、大人だもん!」
「うん、大人の女性だね。可愛くて綺麗で……んぶっ!」
「そ、それ以上喋っちゃだめ!すぐそんなこと言うんだから!恥ずかしい……」
真の小さな手のひらが俺の口に当てられた。彼女は照れてしまうからと俺の言葉をこうして遮ってしまうことがあるのだ。あわあわと慌てて、林檎のような真っ赤な顔で、だめ!と言われるとますます意地悪したくなってしまう俺は性格が悪いのかもしれない。今夜、布団の上でも沢山意地悪したい、なんて思ってしまったほどに。全く、頬が緩んで仕方ない……
「猿夫くん、バス来たよ!」
「……あ、う、うん!そ、そうだね!」
「何ニヤニヤしてるの?」
「な、何でもないよ!ほら、乗ろう!足元気をつけてね!」
「うん!」
真の白くて柔らかい小さな手を優しく握って一緒にバスに乗って隣同士に座ると、嬉しそうに俺の腕にぎゅっとしがみついてきた。どきっと胸が高鳴って、彼女のあまりの可愛さに溜息を漏らしたらパッと腕を離されてしまった。慌てて彼女の顔を見ると瞳がうるうると潤んでいた。だけど、肩を抱いてやればすぐに林檎のような真っ赤な顔になって嬉しそうに笑ってくれた。
旅館の部屋に戻ってひと段落して、一緒にお茶を飲んでいたら真が俺の隣に座ってきてぴとりと身体を寄せてきた。こんなに広い部屋でぽつんと寄り添いあっていることがとても贅沢なことに感じる。尻尾で彼女の肩を抱いて左手を彼女の右手と絡ませたら、彼女は小さく甘い溜息を吐いた。
「はぁ……」
「ん?どうしたの?」
「わたし、幸せ……」
「良かった……嬉しいよ……」
「……チュー、したい、な……」
「俺も……キス、していい……?」
「うん……」
真っ赤な顔で目を閉じている真は誰より何より可愛くて。頬に手を添えてそっと触れるだけのキスをした。しかしそれで終わるわけがない。何度か触れるだけのキスを繰り返したら、今度は長めに唇を重ねて、擦り合わせるようにキスをする。何度か繰り返したら、真が少し涙目になって、口が半開きになりはっはっと小さく呼吸を乱していた。唇を重ねて舌先を出せば、彼女は少し口を開けてくれる。ゆっくり彼女の口に舌を入れて、彼女の柔らかい舌先と触れ合った瞬間、彼女はぱっと俺から顔を離してしまった。
「嫌だった?」
「ううん……あのね、ぎゅって、してほしいの……」
「うん、おいで。」
「よいしょ……えへへ、だいすき……」
胡座をかいて、俺の下半身に彼女を跨らせて抱きしめあった。それからもう一度唇を重ねた。唇を擦り合わせて、もう一度彼女の口に舌を入れた。ぎゅっと強く抱き合いながら、ちゅくちゅくと音を立てて舌と舌を絡ませた。林檎っ面で、ん、んっ、と小さく声を漏らす真がたまらなく可愛くて仕方がない。熱が集まった下半身のソレはパンパンに膨らんでいて、真のお尻に当たってしまったら、彼女はズボンの上から俺のソレに手を這わせた。
「かちかち……」
「うん……真があまりにも可愛すぎて、ね……」
「……あ、あの……な、な、なめても、いい?」
「……えぇっ!?」
「ひっ!」
まさか真から舐めてもいいかなんて聞かれるとは思っていなかった俺は大きな声を出してしまった。彼女はびくっと肩を跳ねさせて、かたかたと震え出してしまった。両手で自分の服の胸のあたりをぎゅうっと強く掴んでいる。ひどく怯えている時の仕草だ。まずい、このままでは彼女が泣いてしまう。ぎゅっと強く身体を抱き寄せて、とんとんと優しく背中を叩いてやると彼女も俺の背に手をやってぎゅっと強くしがみつくように抱きついてきた。
「ごめんなさい……い、いや、だった……?」
「ち、違うよ、全然、嫌じゃないよ!」
「で、でも……」
「大きな声出してごめん、その、真からそんなこと言ってもらえると思ってなくて……だから興奮して……あ、で、でも、汚いから、せめて風呂に入ってから……」
「汚くないもん……」
うるうると潤んだ瞳を向けられてしまったら何も言えなくなってしまう。目に溜まった涙が今にもこぼれ落ちそうだ。正直、めちゃくちゃ舐めてもらいたいのが本心ではあるが、やはり衛生面は気になるわけで。どうすればわかってくれるだろうか。
「……俺も真の、その、同じところ、舐めたいんだけど……」
「……えっ!?」
「だめ?」
「だ、だめ……」
「どうして?」
「は、恥ずかしいよ、それに、き、汚いもん……」
「汚くないよ。」
「でも……あっ……」
頭の良い彼女はすぐに気がついてくれた。自分も同じ気持ちになったようだ。ぽっと頬を赤く染めて、両手をさっと両頬に当てている。
「……お風呂、いつ入る?」
「んー、夕食までもう少し時間あるし、今入っちゃおうか。」
「……一緒に入ってもいい?」
「えっ……真がいいなら俺はもちろん構わないけど……」
「お風呂とっても広いし、それに温泉……早く入りたい……えへへ……」
普段なら恥ずかしがって一緒に風呂に入ってくれることなど滅多にないけれど、今日は随分と積極的になってくれている。これが温泉効果か……そうと決まれば気が変わらないうちに彼女を抱きかかえて、尻尾で着替え類が入ったバッグを持って浴室へと向かった。
「気持ち良い……お湯がとろとろ……」
「うん……温泉っていいなぁ……ところで、真、それ何?」
「お風呂用の水着!」
俺の考えが甘かったのか、彼女はしっかりと備えていたようだった。白地に薄いピンクの水玉模様のなんとも可愛らしい水着を着用しているのだ。やや残念な気持ちであるのは否めないが、彼女の嬉しそうな笑顔を見たら何でも許せてしまう俺はなんて単純な男なのだろうか。
「きゃっ!猿夫くん、尻尾振っちゃだめだよ。お湯が目に入ったら痛くなっちゃう。」
「ごめんね、気をつけるよ。」
「うん、えへへ……猿夫くん、だいすき……」
「わっ……お、俺も大好き……」
真はまたしても俺の下半身に跨って、俺の首に腕を回してむぎゅっと抱きついてきた。俺も抱きしめ返したのだが、彼女の柔らかさや甘い香りにくらくらしてしまう。
「猿夫くん、どきどきしてる……」
「そりゃね……好きな女の子から抱きつかれて興奮しないわけないでしょ……」
「えへへ、わたしもどきどきしてるよ……」
「……身体、洗いっこしようか。」
「うん、いいよ。」
にっこりと微笑む彼女をひょいっと抱き上げて、身体を洗いっこするためにふたりで一緒に湯船から出た。まさか身体の洗いっこを了承してもらえると思っていなかった俺は温泉効果にしみじみと感謝したのだった。
温泉効果
「わあ…もうお肌がすべすべだよ……」
「温泉効果ってすごいなぁ……」
「あっ、猿夫くん、髪洗ってあげる!」
「あ、ありが……!?」
「どうしたの?」
「う、ううん!何でもないよ!」
髪を洗うと言ってくれて、てっきり後ろからだろうと顔を上げたら真の柔らかい大きな胸の谷間が目の前にあった。なんという絶景……温泉効果、最高だ……