「ユーリの髪って本当綺麗だよね〜。羨ましいよ。」

「そうか?リゼの髪の方が綺麗だろ。」

「いやいや!ユーリみたいな綺麗なストレート憧れるよ〜。」


まただ。ここ数日、リゼちゃんが毎朝青年の髪をいじっている。俺の髪は全然いじってくれないのに。俺だってさ、たまには子どもみたいなヤキモチ妬いちゃうわけよ。あんな風に和気藹々と毎朝をリゼちゃんと一緒に過ごしたいわけ。いい歳したおっさんが何言ってんの?って思われちゃうかもしれないのはわかってんだけど。はぁっとため息をついたら近くで本を読んでいた嬢ちゃんがこっちに近寄ってきた。


「レイヴン?何かお困りです?」

「いやね〜、大したことじゃないのよ。」

「私でよければお話聞きますよ?」

「アレよ、アレ。」


俺は肩を落として青年達を指を指した。すると嬢ちゃんは軽く掌を合わせて、ああ!と言った。察しが良くて助かるわ。


「レイヴンも髪を結んでくださいって頼んでみたらどうです?」

「リゼちゃん、サラサラの綺麗な髪が好きみたいだし、おっさんの髪なんか結んでくれないでしょ。」

「大丈夫ですよ!ほら、ユーリとは髪質が違って面白いとか思ってくれるかもしれません!」


青年の髪は女も羨むサラサラストレート。対する俺はといえばツンツンとしたクセのある髪、おまけに結んでも真っ直ぐ下を向いてくれない。確かに面白いと思われるかもしれないけど、好きかどうかは別問題でしょーよ。嬢ちゃんは顎に手を当てて首を捻って考えてくれているけど、特に何も浮かばないようで。考えても仕方ないかと諦めて、俺は嬢ちゃんに軽く礼を言ってその場を後にした。


リゼちゃん達から少し距離を取って、武器の手入れでもするかと川の側に腰を下ろした。武器を磨いたり試し撃ちをしたりしてしばらくするとジュディスちゃんがやって来た。


「レイヴン、エステルから聞いたわ。ヤキモチ妬いちゃったんですって?」

「……やーね、嬢ちゃんったら!俺様恥ずかしい!」


ふざけて両手で顔を隠して顔を左右に振ってみたら、ジュディスちゃんはクスクスと笑っていて。そして彼女は俺の後ろに腰かけて、突然俺の髪のゴムを解いて、髪がバサッと下りた。突然なーに?と言ってみても、少し待って、と言われただけで。ただ髪を触られるだけで会話もなけりゃ整えてくれる様子もない。そんな時だった。


「ジュディスいいなー!レイヴンの髪結んでるの?」


リゼちゃんが楽しそうに駆け寄って来た。目を細めて青年の方を見てみると、どうやら今度は嬢ちゃんが彼の髪をいじっているようだ。気がつくとリゼちゃんは俺の真横に座っていて、突然のことで何を言ったらいいかわからない。


「あ、えっと……」

「あら、リゼ、ちょうど良かった。レイヴンの髪を結んでいたゴムが切れちゃったみたいなの。あなた、彼の髪を結ぼうとしてたみたいだし持ってるでしょ?」

「うん、あるよ?」

「よかったらレイヴンの髪、結んであげてくれないかしら。私、不器用だから上手くできそうにないのよ。」

「ジュ、ジュディスちゃん!?ちょっと……」

「いいよ!」

「へっ?」

「じゃ、お二人でごゆっくり。」


突然のことで声にならない素っ頓狂な音を出してしまった。ジュディスちゃんは立ち上がると颯爽と身を翻して何処かへ行ってしまった。リゼちゃんは俺の後ろに座って、櫛で俺の髪を梳かし始めた。たまに櫛が引っかかって首がぐいっと後ろに下がるけど、リゼちゃんは髪が傷まない様、手を使って優しく梳かしてくれる。俺らしくもなくドギマギしちゃって何も言えないでいたらリゼちゃんがゆっくり口を開いてくれた。


「レイヴンの髪ってさー、私好きだな。」

「……へっ?どーして?ボサボサだし縛っても上向くし、扱いにくいだけよ?」

「そんなことないよ。ちゃんと梳かしたらサラサラしてるし、私、ユーリの髪よりもレイヴンの髪の方が触ってて楽しいよ。」

「そ、そう?じゃ、じゃー、これから毎朝、起きたらリゼちゃんに髪の毛整えてもらっちゃおっかなー……なーんて……」

「……いいよ。」

「……へっ!?」


冗談のつもりで言ったのにまさかの了承を得られた驚きで、先と同様、声にならない素っ頓狂な音を上げて勢いよく後ろを振り向いた。すると心なしか顔を赤くしたリゼちゃんが目を丸くしていた。


「い、いいの?おっさん、本気にしちゃうよ?」

「いっ、いいよ?レイヴンがよければ、だけど。」

「だ、大歓迎よ!いや〜、こーんな可愛い女の子に毎朝髪の毛整えてもらえるなんて、おっさん生きてて良かったぁ〜!」

「お、大袈裟だよ……」


嬉しさと恥ずかしさが合わさって自分でも何を言ってるのかわからなくなってしまった。顔を赤くしたリゼちゃんが、前を向いて、と続きを促したから、俺はもう一度前を向いて座り直した。髪をいじってもらってる間は、昨日の晩に食べたフレンちゃんお手製のハンバーグは珍しく美味しかったとか、リタっちから借りた本が面白かったとかいろんな話をして、気付いたら俺の髪は青年のような高い位置で綺麗に結ばれていた。


「あれっ、下の方じゃなくて上の方で縛ったの?」

「うん、梳かしたらサラサラになったし、せっかくだしいいかなって。すごく綺麗で、やっぱり好きだな。」


手鏡で見てみたけど、いつもと印象が違って少し新鮮な感じ。ま、好きな女の子に好きな様に髪をいじってもらえてるんだしこんなのもたまにはいいか、なんて思っちゃったりして。でもやっぱりなんかこそばゆくなっちゃって、明日もよろしく頼むわね〜って言って俺は立ち上がって少年のところに走って行っていつもの様にふざけて悪絡みをした。少年から、レイヴン顔赤いよ?なんて言われて少し焦っちゃって、ふと、明日から毎朝を彼女と過ごすのかって思ったらもっと顔が熱くなった様な気がした。





毎朝を君と




「あっ、リゼ!どうでした?」

「へへ、作戦成功!明日から毎朝、髪結ばせてくれるって!」

「おっ、よかったじゃねーか。んじゃ、もう俺はお役御免っつーわけだな?」

「ふふっ、あなた毎日ポニーテールにされて、街に行く度に男性から声をかけられてて面白かったのに。」

「嫌なこと思い出させんなよ……」



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