レイヴンはいつも自分のことをおっさんって言って戯けている。けど、たまに自分のことを俺って言う時は大人の男の人の顔になって、いつもとのギャップにドキドキしてしまう。だから、今日のレイヴンは、って観察するのがここ最近の私の楽しみだったりする。もう辺りは暗くなり始めてて、川の側にいた私はキャンプ予定の場所に足を運んだ。焚き火のところでカロルが夕食を作ってくれているのが見えた。レイヴンはどこかなと目で探すと、カロルの近くの木に寄っかかっていた。


「ねぇねぇレイヴン!」

「ん?どったの少年、おっさんに何か用事?」

「見てよコレ!ボクが作ったんだ!」

「おーっ!こりゃ美味そう!へー、少年、腕上げたわねー!」


どうやら今日はおっさんモードみたい。カロルが作った夕食のマーボーカレーが入っているであろう鍋を覗き込んで、笑顔で褒めてあげてカロルの頭をわしわしと撫でている。まるで親子みたい。カロルは嬉しそうに料理を続けている。


ごはんができたよー!というカロルの声に、みんなも焚き火の周りに集まった。いただきますをしてカロルの力作のマーボーカレーをひとくち。すごい、今日のマーボーカレーはユーリが作ったものよりも美味しいと感じる。ちらっとレイヴンを見るとすごくニコニコしてて、可愛らしいなあって私まで微笑んでしまう。それからしばらくみんなで楽しく夕食を食べ進めていたら突然レイヴンがカロルにとんでもないことを言った。


「はー……美味しかった!おっさん、少年みたいな美味しいご飯作れるお嫁さん欲しかったわ!」

「はぁ!?褒められてるのは嬉しいけど、なんかヤダよボク!」

「おっさん、何も少年と結婚したいなんて言ってないわよ!」


みんなは大笑いしていたけど、私だけは真顔で、私も美味しいご飯を作ればレイヴンからあんな羨ましいことを言ってもらえる…!?なんて思っちゃって。その後、夕食の片付けをしていると、カロルが手伝いに来てくれてそのことを聞いてきた。


「ねぇリゼ。さっき一人だけ真顔だったのなんで?」

「えっ?うーん……カロルが羨ましかったからかな。」

「……えっ!?リゼってレイヴンのこと……!」

「声がデカいよ!……俺って言ってる時のレイヴンってかっこよくない?なんかドキドキしちゃって。」

「あー、それ、ボクもわかるかも。おっさんって言ってる時と俺って言ってる時全然違うよね。こう、雰囲気がさ……」

「そうそう!それでさ……!」


片付けをしながらカロルとレイヴンのカッコ良さについて熱く語った。いつもの可愛いおっさんモードも良いけど、やっぱちょっと物憂げで落ち着いた大人な感じの俺モードのレイヴンのギャップって最高だよねって内容の話をしたら、カロルもそう思うって笑ってくれた。


翌日、私はいつも通り、レイヴンを観察していたのだけれど、今日はなんだか様子がおかしい。やけに笑顔で自分のことを「俺」と言うのだ。おかしい、明らかにおかしい。おっさんモードなのに俺って言ってるなんて。私はレイヴンに近づいて話しかけたら、飛び上がるように驚かれた。


「リゼちゃん!おはよう!俺、今日も元気いっぱ〜い!」

「お、おはよう。うん、元気が一番だよね。」

「俺、今日の夕飯はサバみそがいいなー!ね、リゼちゃんもそう思わない?」

「え、う、うん。そうだね、サバみそ、美味しいよね。」


私が少し戸惑っていたからか、レイヴンは首を傾げた。そして思いもよらない質問をしてきた。


「リゼちゃん、俺、カッコよくない?」

「え?……うーん、今日のレイヴンは可愛い、かな。」

「うそーん!おっかしいなぁ……」


一体どうしたというのか、レイヴンは頭をかきながらちょっとごめんね〜なんて言って何処かへ歩いて行ってしまった。俺って言っててもおっさんモードな日もあるのか、とまた一つ勉強になった。


今夜は私が夕食当番で、レイヴンの好きなサバみそを作った。ジュディスに頼んで厳しく教えてもらったから、きっと美味しくできたはずだ。いただきますをしてサバみそを口へ運ぶみんなを恐る恐る見ていたら、みんな昨日のような笑顔を見せてくれた。


「すっごーい!ボク、こんなの作れないよ!」

「へぇ、やるじゃねーか。」


カロルとユーリが褒めてくれたけど、一番欲しい人からのコメントがなくて。私はチラッとそちらを見ると、寂しげな表情の彼と目があった。


「美味しく、ない?」

「……いや、美味しいよ。ただね、故郷の……お袋の味、ってんのかな、俺の母親が作ってくれた味と瓜二つで……」


これだ。俺モードのレイヴン。やっぱりかっこよくて、思わずじっと凝視してしまった。するとレイヴンはハッとした様子で慌てておっさんモードに戻った。


「いやー!ほんっと美味しいわ!俺、リゼちゃんみたいなお嫁さん欲しいわー!」

「……いいけど。」

「……やーだ、嬉し……ぶっ!?ゲホッ、ゴホッ!い、い、今なんてっ!?」

「レイヴンのお嫁さんになってあげてもいいよ。」


レイヴンは持ってた箸をぽろっと落とした。ユーリがごちそうさん、美味かったぜと言って立ち上がったのを皮切りにみんなご馳走様をして立ち上がって行って、私とレイヴンの二人きりになってしまった。


「あの……確認なんだけど、リゼちゃんって、俺って言うのが似合うかっこいい大人が好きって……」

「あ、聞いてたの?うん、レイヴンのことだよ。」

「な、な、何よそれぇ!おっさん、てっきり青年のことかと思って、柄にもなく意識して俺って言ってたのにー!」

「えっ、そうだったの?」


昨日の会話の後半だけを聞いていたんだな、と推測できる。私は昨日のカロルとの会話内容を教えて、おっさんモードと俺モードの話をしたらレイヴンは照れながら納得してくれた。けど、レイヴンが意識して俺って言ってたってことは、きっとレイヴンも、そういうことなわけで。


「…………レイヴン。」

「何?」

「ちゃんと、言ってよ。」

「えっ?お、俺………リゼちゃんのこと……っ…………」


レイヴンは真剣な、俺モードの顔で私に熱い眼差しを向けてくれた。そして…………






「…………愛してるぜぇーっ!!」

「それ、おっさんモードじゃん!」





可愛いおっさん




「……やっぱレイヴンは可愛い方が一番なのかも。」

「えっ!?なにそれ!おっさん、男としては複雑よー!」

「ギャップ萌えってやつだね、うん。」

「そんなぁー!かっこいいって思われたいのにー!」



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