自分を大切に
「リゼ!またそんなに無茶をして……!」
「だって敵が飛び出してきたんだもん。それに勝ったんだからいいじゃん。」
「だってじゃありません!勝てばいいってものでもありません!まったくもう……」
みんなで休憩をとっている間、なんとなく私は身体を動かしたくて少しだけ森を探索することにした。しかし、奥の方まで歩いていくと、プリ系のモンスターがわんさか現れてしまって。けれどこの程度なら多少は怪我をするものの一人でも大丈夫だろうと思って、みんなを呼ぶことはせずに特に大怪我をすることもなく森を抜けてみんなの前に戻ってきた。けれど、どうやら細かい傷がたくさんあったみたいで、エステルが目を丸くして慌ててこちらに駆け寄ってきて、今に至るというわけだ。
「リゼは女の子なんだから……気をつけてください!」
「そうそう!せっかくの綺麗な肌を傷だらけにしちゃダメよ〜!」
「うわっ!レイヴン!?いつの間に……」
エステルにくどくどと叱られていると、いつの間にかレイヴンとフレンが近づいてきていたようで。
「おーおー、痛そうな傷ね。嬢ちゃん、ファーストエイドしてあげないの?」
「ダメです!これは戒めです!リゼがちゃんと自分を大切にしてくれるまでは回復術はかけてあげませんからね!」
「げっ!マジ!?えぇ……フレン、ファーストエイド……」
「あ、ああ……」
「フレン!」
「ぐっ……リゼ、ごめんね。そういうわけだから……」
何が、そういうわけだから、だ。このイエスマンめ、なんて思ったけれどそんなことを言ってしまっては二度とファーストエイドの恩恵を受けられなくなってしまう。仕方ない、しばらくは身の振り方に気を付けよう、なんて柄にもないことを思いながら手当てを終えてもらって、私はみんなと少し距離を置いた大きな岩に腰掛けて身体を休めることにした。腰のポーチに入っていたアップルグミをもぐもぐと食べていると、レイヴンがこちらに歩いてくるのが見えた。
「ん?なんか用事?」
「……また今回は随分と無茶したのね。」
レイヴンはひょいっと私の隣に腰掛けてきた。
「エステルもそう言ってた。けど、無茶なんかじゃないよ。普通に敵に囲まれて、普通に戦って、これだけ怪我をして帰ってきた。自分の実力だよ。」
「随分とストイックだこと……ま、生きてるに越したことはないわよね。」
「レイヴンが言うと本当に……でもさ、怪我せずに戦うのなんて難しすぎるよね……」
「一人で戦うからよ。みんなを呼べばいいじゃない。」
レイヴンにぽんっと背中を叩かれた。
「うーん、あの程度の敵でいいのかなぁ。」
「みんなを呼ぶのが忍びないならおっさんを呼びなさい!可愛い女の子のためなら例え火の中、水の中、山の中、森の中ってね!」
「……シュヴァーンって呼んだらシュヴァーンが来てくれるの?」
「えっ!?あ、あー、いや、ほら、それは……もう!おっさんを揶揄わないでちょーだい!」
「あははっ、ごめんってば!」
恥ずかしがるレイヴンにぐしゃぐしゃと頭を撫でられて、お互いクスクスと笑い合った。レイヴンとのこの距離感がとても好きだ。落ち込んでたら必ず励ましてくれるし、嬉しい時は必ず一緒に喜んでくれる。確かカロルも同じことを言っていたっけ。彼にとってはカロルも私も同じような、コドモ、なのかもしれない。もう少し彼が若ければ、あるいは、私が早く生まれていれば、この関係はもう少し違ったものになっていたのかな、なんて想像してみたけれど、やっぱり今のこの関係が一番好きだな、と改めて感じた。
あれから数日、今日はみんなでオルニオンへ足を運んだ。調達依頼をこなして目的のブツを渡したらアグエロンがまたしても次の依頼を投げてきて、生憎今持っていない素材があったためにエレアルーミン石英林とテムザ山へ行くことになってしまった。テムザか……レイヴンは大丈夫だろうか……
石英林ではクリスタルスピリッツとすぐに遭遇できたおかげで難なく水晶を獲得することができた。というわけで、今はテムザにいるのだが、みんなレイヴンを気にかけていてなかなか言葉を発しない。山特有の、少し空気が重いというか、張り詰めている感じもあって、口を開きづらいというのもあるが。しかし、そんな中でも我らの首領カロルは勇気凛々胸いっぱいと言わんばかりに先頭をずんずん歩いて行く。空気の重さに耐えきれなくなった私はすいすいと前に出てカロルの隣を並んで歩くことにした。
「カロル、疲れてない?大丈夫?」
「全然!へっちゃらだよ、それよりレイヴンは大丈夫かな?」
「おっさんだから疲れてヒーヒー言ってるかもね!」
「あはは!それもそうだけど……ほら、テムザってさ……」
「もちろん、わかってるよ。だからみんな静かなんだろうね……フレンなんて真面目だからあんな顔してさ、空気が痛くて嫌んなっちゃって。」
「ボクもそう思ってたよ……けどここはやっぱり仕方ないのかなぁ……」
結局カロルともレイヴンのことばかりを話してしまって。チラリと背後に目をやると、前を向いているみんなの中でレイヴンだけがぼーっと横を見ていた。けれど、その目は死人のような虚な目ではなく、光がはっきりと見て取れた。自分も早く仲間達のところへ、といった類の変なことは考えていないようでほっとしたのも束の間、突然カロルが大きな声で叫んだ。
「全員戦闘用意!ギガントモンスターだ!」
我先に、と背後から飛び出してきたのはユーリとジュディスだ。カロルと並ぶ彼等に続いて私も飛び出そうとしたのだけれど先日のエステルの言葉を思い出して一歩遅れてしまい、代わりにフレンが駆け抜けて行ってしまった。仕方ない、とリタやエステルと反対の位置に立って魔術で応戦することにした。二人ほどではないにしろ、私も多少術を扱うことができる。
この人数だ、負けるはずはない。大した怪我もなく無事に戦闘を終えることができた。けれど、目的の剛力玉を持っているのはこいつではない。先を急ぐぞ、とユーリが前を歩き出して、みんなもぞろぞろとそれに続き、私も皆を追おうとしたその時。先ほど倒したと思い込んでいたモンスターが最後の力を振り絞って、大きな腕を私に向かって振り下ろしてきたのだ。咄嗟に、彼の名前を叫ぼうとした、と同時に上からではなく横からの衝撃に襲われた。
「レイ……!!」
「リゼ危ない!!」
ずしん、と大きな地響きとともに、私の身体レイヴンに突き飛ばされて尻もちをついてしまった。一方のレイヴンは、とすぐに彼の方を見た途端血の気がさぁっと引いた。頭から血を流して倒れている彼がいて、私は大声でエステルを呼んだ。あれだけの地響きだ、私が呼ばずとも既にみんなこちらへ駆け寄ってきてくれていたのだが、私は気が気じゃなかった。なお、どうやらこれがこの巨大なモンスターの最期の一撃だったらしく、ぴくりとも動く様子はなかった。
暫くして、レイヴンは頭に包帯を巻いていつも通りの剽軽な態度でみんなの前にやってきた。フレンとエステル曰く、あのモンスターにやられたのではなく転んだ拍子に地面に落ちていた木片で頭の表面を少し切っていただけで大した傷ではなかったとのこと。本当に、本当に、良かった。このテムザではたとえちょっとした怪我でも命を奪われる気がしてならないのだ。
「良かった……生きてて、良かった……」
「ちょ、ちょっと!何も泣かなくても……!」
ボロボロと涙をこぼす私を見たレイヴンはとても慌てて私の前に走ってきた。
だって……だってここは、テムザだよ。レイヴンの……ダミュロンの仲間達が眠っているんだよ。連れて行かれるかも、なんて思ってしまうに決まってるじゃないか。レイヴンはもっと自分を大切にしてよ。
大声で泣き叫んでしまい、空気はさらに張り詰めたものになってしまった。やってしまった、みんな気を遣いこそすれ、決して口にはしなかったのに。ぐすぐすと泣きながらチラリとレイヴンの顔を見上げた。絶対、哀しそうな、切なそうな、そんな悲痛な苦悶の表情を浮かべていると思った、のに、何故か彼は赤い顔で口元を掌で覆っている。
「……こーやって本気で心配してくれる人がいるって、幸せなこと、よね。」
「……え?」
じいっと彼の顔を見上げると、彼は咳払いをして少し真面目な顔になって私の頭にふわりと優しく掌を置いた。
「生きてるからこそ、っていうか……リゼちゃんも同じよ。みんな本気で心配してんの。だから、無茶しないでちょーだい?」
「え、う、うん……」
「さっき、おっさんの名前、呼ぼうとしてくれてたでしょ?あれ、嬉しかったのよー。」
「あ、あれは……だって、呼べって言ってたから……」
「そーそー、ピンチの時はいつでも呼びなさい!お互い、心配してくれる人がたーくさんいるんだから!」
「……うん、もう無茶しない!」
ごしごしと涙を拭いて、生きてて良かった!と思い切りレイヴンに抱きついた。すると、彼は突然フラフラと揺れ出したと思ったら、私にずしっと体重をかけてきた。レイヴン?と呼び掛けても返事はなく、ちらりと顔色を伺うとその顔は真っ赤で戦闘不能状態のように気が抜けていたのだった。
「む、無茶してるのはどっちよ!?誰かー!!レイヴンが!!」
自分を大切に
「レ、レイヴン!!しっかりして!!」
「う、うぅん……」
「頭痛いの!?レイヴン!やだ!どうしよう!」
「……こりゃ恥ずかしくて気ィ失っただけだな。」
「本当、ウブね……放っといたらいずれ目を覚ますわよ。バウルを呼んで乗せておきましょう。」
「ある意味自分を大切にしてんのかね、あのおっさん……」
back
top