待ってるね!


今日はショートと一緒にいない。というのも彼は用事でワカメ達と外出しているからだ。ついて行きたくて仕方なかったが、彼が困ったような顔をしたから、兎耳を垂らして、待ってるね!と言ったら、なるべく早く帰ると言ってくれた。というわけで、寮の一階でモモに借りた世界の紅茶図鑑を読んで大人しくショートの帰りを待っているのだ。



「なぁ真白、ちょっといいか?」

「きゅっ!誰!?」

「オイラだ!オイラ!」

「ブドウ!いいよ!なーに?」


図鑑を読んでいたら後ろからブドウに話しかけられた。後ろからだったから見えなくて驚いてしまった。ショートはミネタ、バクゴーはタマって呼んでるし、身体も小さいからもしかしたらブドウも何かに変身できるのかもしれないと少し親近感を持っているのは私だけの秘密だ。ブドウに何をしてるのかを聞かれたから、モモの図鑑を見ながらショートを待っているんだよ!と答えたら、ブドウはニヤニヤ笑いながら私にこんな質問をしてきた。


「真白、轟とはどこまでいったんだ?」

「えーと、蕎麦屋まで、行ったよ。あ、でもこの前は本屋にも行った。」

「そーじゃねー!例えばキスとか裸んなったりそーゆーのだよ!」

「キス?チューのこと?チューは毎日してるよ。裸はウサギのときはいつもみんなにも見せてるよ。」

「まっ、毎日だとォ!?ンのヤロー!親父のヘルフレイムなんかよりアツアツかよ……!」


ブドウの言うことはいつもよくわからない。そういえばモモがブドウの言うことはハレンチでフシダラでフケツだってよく怒っている。ブドウの言葉は難しい言葉だからどういう意味かをショートに尋ねたら、ユキは知らなくていいって言われたからそれ以上は追求しまいが。今日もブドウはよくわからないから、席を立ってモモのお部屋にでも行こうとしたけれど、ブドウの一言でぴたっと私の足は止まってしまった。


「なぁ、真白、お前、轟を悦ばせたいと思わないか?」

「きゅ!?ショートが喜ぶの!?喜ばせたい!恩返し!」

「お、おお、確かに恩返しか……?いやまぁ御奉仕とも言うし……よし、ちょっとこっち来い!」

「うん!ブドウ、優しいね!ダイスキ!」

「あのな……」





ブドウの有難い話を聞いていたらすっかり外は暗くなってしまっていた。私はブドウとバイバイして、モモとキョーカと一緒にご飯を食べてお風呂に入ってバイバイした。今は、ウサギではなく人間の雪の姿で、そしてショートのお部屋で彼の帰りを待っている。じーっと時計やドアを交互に見つめていたら、ちょうど8時にガチャッとドアが開いた。


「ショート!おかえり!待ってたよ!」

「おう、ただいま。ここにいたのか。ユキの部屋に行ったけどいなかったから風呂でも入ってんのかと思ってた。」

「ショートが帰ってくるの、ずーっと待ってた!」

「そうか、ありがとな。ほら、来い。」

「やったー!ショート!ダイスキ!」


ショートが軽く腕を広げてくれたから、走って行ってギューッと抱きついた。彼も私を抱き返してくれて温かい方の手で頭を撫でてくれた。しばらく抱き合っていたら、風呂に入ってきていいかと言われたので、ショートから離れて、待ってるね!と言ったらお礼を言われて頭をぽんぽんと触られた。





そして、ついにその時はやってきた。お風呂を済ませたショートと一緒に同じ布団に入った。暗いのが怖いから薄ら灯りをつけてくれるのがとても有難い。いつもは自分の部屋で寝てたけれど、付き合ってからはこうして一緒に寝ることがある。ショートは私をギューッと抱き締めて、あったけぇと呟いて、彼の唇を私の唇にちゅうっとくっつけた。布団の中でチューをした、つまり、ブドウが教えてくれた合図だ!


「ショート、寒い?」

「ん?まあ、少し。ユキも寒いなら暖房入れるか?」

「ショート、あっためてあげる!」

「ん?お、おい、何すんだ、ちょっと待て。」


私はショートのパジャマのボタンをプチプチと外して、素早く布団から抜け出すとくるっと二回宙返りをきめた。一度ウサギになって服を全部脱いで、もう一度人間になったら思惑通り裸になっていた。ショートはバッと起き上がると、顔を真っ赤にしてぎゅっと目を瞑った。私はショートに思いきり抱きついて、彼のパジャマを前開きにして中の服を捲り上げて、自分の素肌と彼の素肌をぴったりとくっつけあった。


「ねぇ!あったかい?嬉しい?」

「あ、ああ、あったけェし柔ら……じゃねェ、ユキ、ちょっと待て。」

「うん!待つ!どうしたの?」


ショートは毛布を手に取ると、前から私にばさっとかけて、毛布の上からギューッと抱き締めた。


「あのな、ユキ。女が男の前で簡単に服なんて脱ぐんじゃねェ。」

「え?……ごめんなさい。ショート、嫌だった?嬉しくない?」

「違ェ。なんつーか……そういうのは、もっと大人んなってからだ。」

「嫌だった?私のこと、嫌い?嬉しくない?」

「よく聞いてくれ。全然嫌じゃねェ。まだ早いだけだ。それに嫌いでもねェ、ちゃんと好きだから安心しろ。」

「私も!ダイスキ!じゃあ、待てばいい?いいよって言われたら脱げばいいの?そしたら喜んでくれるの?」

「いや、いつかそん時になったら、俺が脱がしてやるから。だから待ってろ、な?」

「わかった。で、ショート、喜ぶ?」

「あ、ああ……」

「きゅふふ!ショート、喜ぶ!私、待ってるね!」


それから私はいそいそと服を着て、ショートも綺麗にパジャマを着直して、もう一度二人一緒に布団の中に潜り込んだ。ショートが喜んでくれるならいくらだって待ちたいと思う。私はショートにもう一度、待ってるね!と言ってギューッと抱きついた。すると彼は私にこんな質問をしてきた。


「なぁ、ユキ。その、さっきの……誰かから聞いたのか?」

「うん!」

「誰から聞いた?あと、何を聞いた?」

「誰かは、言っちゃダメって言われたから、秘密だよ。聞いたのは、セッ……」

「わ、わかった!もういい!」

「きゅ!大きい声出すの、珍しいね!びっくり!」

「わ、わ、悪ィ。い、いいから、寝るぞ、ほら……おやすみ、ユキ。」

「うん、おやすみ、ショート。」


いつも通り、おやすみの挨拶をして、お互いの唇をちゅうっとくっつけて、ギューッと抱き締めあった。ショートの体温とふかふかの毛布がとても心地良くて、私はすぐに眠りに落ちてしまった。翌朝、起きたらショートはいなくて、パジャマのまま一階まで歩いて行ったら正座させられたA組の男の子達がいた。





待ってるね!




「ユキにあんなこと教えたやつは誰だ。」

「あんなこと……?轟と真白さん、なんかあったの?」

「……尾白、お前じゃねえな。」

「地獄の火炎とはまさにこのことか……轟、こんなときは氷のような冷静さも必要だぞ……」

「常闇、お前も違ェ。」


ショートは一人一人の前にしゃがんで目を合わせながら話しかけて温かい方の手をぼうっと燃やしている。最初はオジロ、次にトコヤミ……次はガタガタと震えているブドウの番だった。









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