「ユキ、準備できたか?」
「うん!あとは、帽子、被るだけ!」
「そうか。外、寒ィから深く被れ。」
「うん!わかった!」
今日は実家にお出かけするらしい。実家というのはショートの本当のお家のことで、この寮という建物は学校に通う間だけの借り暮らしなんだとか。
ショートに連れられて車という乗り物に乗った。運転してくれてるのはショート達の担任のアイザワ先生だ。実家で美味しいご飯を食べさせてくれると聞いたから、私は先週の夜からとてもとても楽しみで。モモから可愛い服を借りて、轟さんのご実家で失礼の無いように、とマナーというしつけをしてもらった。モモと一緒に買いに行った手土産もきちんと持って来た。
ショートと車の中で昨日のご飯のことや最近読んだ本のことを話していたら実家に到着していた。ショートに手を引かれて大きなお家に足を踏み入れた。玄関を開けると驚きのあまり声が出なかった。私の姉さんに大変そっくりな美人な女の人が立っていたからだ。
「焦凍!おかえりなさい!それから、雪さん、いらっしゃい!」
「姉さん、ただいま……ユキ?」
ショートに名前を呼ばれてハッとした。モモの言っていたことを一回心の中で復唱して、ゆっくり大きな声ではっきりと喋った。
「……!!え、えーと……お、お邪魔いたします!こちら、大した物では、ございませんが、皆様で、お召し上がりください!」
「お、八百万に教わったのか。」
「うん、モモが、余所行きのマナーですわ!って言ってた。」
「そうか。でもそんな畏まんなくていいぞ。いつも通り話せ。」
「そう?」
「雪さん、私にも焦凍に話しかけるみたいに話していいからね。」
「そう?うん、わかった!」
驚きのあまりに頭が真っ白になってしまったが、なんとかモモに教わったご挨拶を最後まで喋ることができた。持って来たお菓子をショートの姉さんに手渡したら、どうやら彼女の好物だったようですごく綺麗な笑顔を見せてくれた。じーっと見ていたらやっぱり私の姉さんにそっくりで、少し嬉しくなってしまって思わず兎耳を帽子の中で振ってしまい、ぶわっと帽子が飛んでしまった。
「きゅ!ごめん!」
「わあ……!兎の個性なの?よく見たら目も赤いし前歯も……可愛い!」
ショートの姉さん……フユミという名前らしいが、彼女は私の兎耳をとても優しく撫でてくれた。ショートをチラッと見ると、姉さんには全部話してもいいか?と言われたので、いいよ!と返事をした。優しくて心温かなショートの姉さんなら信用に値する。ちなみにもう一人、ナツオという兄さんがいるらしいけれど、ナツオは学校の用事で今日は帰ってこないらしい。
畳の匂いが気持ち良い大きなお部屋に案内されて、私はモモに教わった通り正座で座った。けれど、フユミもショートも自分の部屋の様に寛ぐようにとのことで、私はいつものようにペタンと座った。ショートがフユミに私のことを話している間はワカメから借りたヒーロー図鑑を読んでいた。
「……っつーわけで、姉さん、ユキと仲良くしてやってくれ。」
「…………!!」
「……姉さん?」
「雪ちゃん!!」
「んぎゅう!?む、むぐ、苦しい。」
フユミは私が苦しくなるぐらいぎゅーっと抱き締めてきた。まるで姉さんに抱き締められている様でとても嬉しい気持ちになったけれど、如何せん首が締まる締まる。もしもウサギの姿だったら中身が飛び出しているぞ。
「フユミ、苦しいよ。」
「あっ!ご、ごめんね、なんだか妹が出来たみたいで嬉しくて……」
「……まァ、間違いじゃねェかもな。」
「きゅ?私、ショートとフユミの妹になるの?」
「いや、俺の妹にはなんねェ。けど姉さんの
「そうなの?フユミ、私の姉さんになるの?」
「ああ……どうだ?姉さんって呼べるか?」
私の姉さんはヒューマンラビットのグレーの毛並みの姉さんだけだ。フユミはショートの姉さんで私の姉さんではない。けれど、フユミはこんなにも私に親切にしてくれて可愛がってくれている。これもまた、恩返しになるのかもしれないと思うことにして、私は元気に返事をした。
「呼べるよ!フユミは、私の姉さんに似てる。とても優しくてあったかくて、いい匂い……私、フユ……姉ちゃん、ダイスキ!」
「姉ちゃん……!?う、嬉しい……!!」
姉さんは姉さんだけだから、フユミのことは姉ちゃんと呼ぶことにした。姉ちゃんとぎゅーっと抱きしめ合っていたらショートのお腹がぐーっと鳴った。そろそろご飯にしようか、と姉ちゃんが立ち上がってご飯の準備をしに行った。
待っている間はショートの家族の話を聞いた。一番上の兄さんのことはよくわからなかったけれど、お母さんとナツオとオヤジのことはよく聞いた。ショートはお母さんとナツオのことは好きだけど、オヤジはちょっと苦手という感じだった。お母さんは身体が強くないから今は病院にいて、ナツオは大学という学校に通っているらしい。それと、オヤジはエンデヴァーという名前らしいけれど、ショートがオヤジと呼んでいるので私もオヤジと呼ぶことにした。
姉ちゃんが美味しそうなご飯を沢山出してくれて、三人で一緒にたくさん話をしながら食べた。寮や学校のご飯も美味しいが、三人で一緒に食べるご飯は今まで食べたどのご飯よりも一番美味しいと感じた。
「姉ちゃんのご飯、美味しい!毎日食べたい!」
「わ、嬉しい!作り方教えてあげようか?」
「ああ、ユキ、習っといてくれ。」
「うん!姉ちゃんの美味しいご飯、私も作りたい!みんなと一緒に食べたい!」
「ああ、料理、上手くなったら毎日食わしてくれ。」
「うん!わかった!恩返しする!」
「……焦凍、結構ストレートなんだね。」
ショートはいつも思ったことはハッキリ言ってくれるから、姉ちゃんの発言は意外だった。いつも学校でのショートはこんな感じなのかと聞かれ、そうだよ!と答えたら目をまん丸にして驚いていた。モモやワカメと仲良しだよ!と教えてあげると、友達もいて楽しくやれてて良かったと涙ぐんで喜んでいた。ショートと同じで姉ちゃんもとても温かい心を持っているんだと思った。
ご飯を食べ終わった後は姉ちゃんが皿を洗うと言っていたから皿を拭くお手伝いをした。座ってていいよと言われたが、ご飯が美味しかった恩返しをしなければ一族の末代までの恥だ。二人で色んな話をしながら皿を洗い終えて、ショートのところに戻ろうとしたら姉ちゃんに静止された。
「ねぇ、雪ちゃん。」
「何?」
「……私や焦凍が家族になったら、嬉しい?」
「うん、嬉しいよ。私、ショートも姉ちゃんもダイスキだよ。」
「……ありがとう。雪ちゃんが家族になるの、楽しみにしてるね。」
姉ちゃんは私をぎゅーっと抱き締めてくれた。ショートに抱き締めてもらうのも心地良いけれど、姉ちゃんはまた別の心地良さがあって、思わず、きゅーん!と声を出して私も抱き締め返したのだった。
ショートの家族
「帰ったぞ……焦凍!?帰ってきていたのか!!」
ショートのオヤジが帰ってきた声がしたから姉ちゃんと一緒に居間に戻った。
「あ、お父さん、この子、真白 雪ちゃんっていってショートの……」
私はモモから習った初めましての挨拶を元気よく述べた。
「えーと、こんにちは!ショートにお世話になっております、真白、雪、と申します!」
「……学校の友達か?」
「イヤ…………カノジョだ。」
「かっ……!?」
「彼女です!!よろしくお願いします!!オヤジ!!」
「ぶっ……!!」
「オ、オヤジだと……!?」
ちゃんとモモの言う通りに挨拶をしたのに、姉ちゃんは吹き出して笑っていて、ショートもぷるぷる震えて笑いを堪えていた。オヤジの顔をじーっと見ていたけれど、オヤジはオヤジと呼ばれたのがショックだったのか、ぼーぜんと私を見つめて立ち竦んでいた。