「モモ!ツユチャン!美味しい!」
「お気に召した様で何よりですわ。」
「雪ちゃん、いつも同じ物ばかり食べているから気になっていたのよね。」
「私、嬉しい、ありがとう!」
昼休み、食堂に蕎麦を食べに行こうとしたらモモとツユチャンに声をかけられた。二人からいつも同じ物ばかり食べていると栄養が偏ると指摘されたため、今日は違うものを食べることにした。焼き魚は初めて食べたが、この魚は骨が柔らかくてそのまま口に入れても大丈夫なのがなんとも食べやすい。根菜の煮物も味がしっかり染み込んでて噛むたびに優しい味が口の中に広がる。学校の食堂がいつも人で溢れかえっている理由が分かった気がする。ご飯を食べ進めていたら後ろから誰かに頭をがしっと掴まれた。この温度、間違えるわけがない。
「ショート!」
「ユキ、探したぞ。」
「昼休み、食堂行くって、言ったよ。」
「……一緒に行くと思ってた。荷物整理して教室見渡したらお前いねェし焦った。」
「ごめん!モモとツユチャン、声、かけてくれたから、先に来た!……怒ってる?」
「怒ってねェ。俺も一緒に昼飯食っていいか?」
「うん!モモ、ツユチャン、いい?」
「もちろん、構いませんわ。」
「轟ちゃん、ここ、空いてるわ。」
「悪い。」
毎日みんなと話すから、私の喋りもだいぶ上手くなってきたと思う。勝手に食堂に移動したから怒られると思ったけど、ショートは優しい顔をしてくれた。ツユチャンが椅子を引いてあげて、彼は私の向かいに座って蕎麦を食べ始めた。彼はたまに別のものを食べているからか二人に注意されていなかった。
昼休みの後の授業ではモモから借りた本をずっと読んでいた。今日借りたのは、剽軽な薔薇の妖精が乱暴な男の子に助けてもらう話で、途中は悲しくて涙がぽろぽろ出て、休憩時間にショートが驚いて涙をハンカチで拭いてくれた。けど、最後はハッピーエンドで終わってとても面白かった。放課後、オチャコが面白そうな本を持っていて、読みたいと言ったらこれは下巻だから上巻から貸すと言ってくれた。ついでに一緒に寮に帰ろうとしたら、またショートに呼び止められた。
「ユキ、どこ行くんだ。」
「寮、帰る!オチャコ、一緒!」
「……俺も一緒に帰っていいか?」
「オチャコ、いい?」
「え、うん、ていうかいつも轟くんと二人で帰ってるよね?逆に私がいて大丈夫?」
「うん!オチャコもダイスキだから一緒行こ!」
こうして三人で帰寮して、私はオチャコから本を借りてショートの部屋に行って、宿題をする彼の横で読書に励んだ。しばらくすると夕飯の時間になったからショートと一緒に一階へ向かうことにした。今はウサギじゃなくて毛皮に覆われていないため、廊下に出ると少し寒くて抱きつきたくなったから、手を握った。けど今日はいつもと違ってショートにぎゅっと抱きしめられた。
「ショート?部屋の外は、手、握るんでしょ?」
「……誰もいねェときはこうしてもいいんだ。」
「そうなの?じゃあ私もっ!ショート、あったかい!ダイスキ!」
廊下の真ん中でぎゅーっと抱きしめ合っていたら、部屋から出てきたセロが私達を見てとても驚いていた。もしかして仲間に入りたいのだろうか。
「セロも一緒に抱っこする?」
「えっ!?イヤァ俺は別に……つーかお前らって付き合ってんの?」
「ショート?そうなの?」
「イヤ、そういうわけじゃねェけど……」
「けど?」
「……正直俺もよくわかんねェ。」
セロとショートの話は難しくて私もよくわからないけど、ショートが困った顔をしていたから、セロに向かって髪と耳の毛を逆立てて赤い目でキッと睨みつけた。悪かったって!と謝ってきて、ショートも私にやめるよう言ってきたからやめてやった。セロめ、心優しい寛大なショートに感謝するといい。
それから、セロとショートと一緒に食堂でご飯を食べていたら、トコヤミも降りてきて、林檎をくれた。その後、オジロと綺麗な瞳の女の子がやってきた。女の子に以前入り口のドアを開けてくれたお礼を言うと、ウサギさんは人間だったんだね、と驚いていた。女の子は私よりも小さくてすごく可愛らしい。正直オジロには勿体無いのではなかろうかと思うが、それは失礼だから黙っておこう。
女の子にお願いして林檎を切ってもらって食後にみんなで一緒に食べた。後で窓から夜空に月が出ているのを確認して、くるっと宙返りしてウサギに変身した。着ていた服がばさっと落ちたら全部ショートが拾い集めてくれた。
「わあ!可愛いっ!雪ちゃん、抱っこしてもいい?」
「いいよ!」
「ありがとう!えへへ、あったかいなあ……」
女の子は優しくぎゅーっと抱きしめてくれた。とてもいい匂いがして、大きな胸がふかふかであったかくて気持ちいい。その後、オジロの腕に移されたのだがすぐにショートにべりっと剥がされてしまった。オジロは女の子と顔を見合わせてクスクス笑っていた。やっぱりショートに抱っこしてもらうのが一番気持ちいいと思ってすりすり頬擦りをしたらショートは目を細めて少しだけ笑ってくれた。しかしそれを見たトコヤミが、セロと同様にショートを困らせる羽目になった。
「お前達は番なのか?」
「ツガイ?ツガイって、お父さんと、お母さんのこと?ショートは、お父さんじゃないよ。」
「あー……俗に言うカップルってやつだよ、ほら、さっき俺が聞いた付き合ってんの?ってやつと同じ意味。」
「それなら、さっき、ショートも、違うって、言ったよ。」
「……悪い、この後八百万とユキが風呂に入る約束してんの忘れてた。ユキ、戻るぞ。」
「えっ、でもモモは……」
「じゃ、みんなおやすみ。」
ショートは私の言葉を遮って、トコヤミ達に挨拶をして私を抱いたままさっさと部屋に戻ってしまった。モモとお風呂に入る約束をしてるのは明日なのに、一体どうしたというのか。
「ショート、どうしたの?モモと約束したのは、明日だよ?」
「…………知ってる。」
ショートは私を優しく、だけど強く抱きしめたまま顔を見せてくれなくて。困った私はもぞもぞとショートの腕から抜け出して、あっち向いてて!と言ってショートが背を向けたのを確認してから宙返りして再び人間に戻り、さっき着ていた服をもう一度着直した。
「ショート、最近、変だよ。私がウサギになったら、男の子に抱っこしてもらうの、嫌がってる。一昨日の夜、コーダが抱っこしてくれたときも、昨日の夜、ワカメが抱っこしてくれたときも、さっきのオジロのときも、ショートが私のこと、独り占めしてたよ。」
「……嫌か?」
「ううん、私、ショートが一番ダイスキだから、平気だよ。みんなも、怒ってなかったよ。」
「ウサギに……こんな感情持つの、やっぱ変だよな……」
「……こんな感情って?私、わからないよ。」
そう言うとショートは私の方に近づいて、ぎゅうっと抱きしめてきた。頭ひとつ分上にあるショートの顔を見上げたら、困ったような顔をしている。私が困らせてしまっているのかと思うとすごく辛くて苦しくなる。ショートには笑っててほしい。
「ユキ。」
「なに?」
「……もう少し、待っててくれ。はっきりしたら、ちゃんと説明する。」
「よくわかんないけど、ショートの言うこと、なんでも聞くよ。ダイスキだから。」
ショートが私を抱きしめる力が強くなって、少し痛かったから、痛いよ、と言うと、悪い、と謝ってくれて力を弱めてくれた。もう時計が9時を指していたから、自分のお部屋に帰るね、と言ってショートの部屋を後にした。何を待てばいいのかわからないけど、ショートが待てって言うならいいよって言われるまでちゃんと待とうと思う。人間の姿のまま自分の部屋に戻って、お風呂に行く途中でミナに会ったから、今日はミナにお風呂に入れてもらうことにした。
二人の関係
「ミナに頭洗ってもらうの、スキ!」
「私も雪の頭洗うの好き!髪の毛綺麗ー!轟にも洗ってもらってるの?」
「ショートは、ウサギのときだけだよ!」
「あ、それもそうかー。えっ、二人は付き合ってるの?」
「それ、セロとトコヤミも聞いてきた。でも、ショートが、違うって、言ってたから、違うと思うよ!」
「そうなのー?うーん、みんなてっきりそうだと思ってるみたいなんだけどなー。ま、いいか!ハイ、シャワーするよ!」
「うん!ミナ、ありがとう!」