どきどきの高校生活
今日は念願の雄英高校登校初日。今日の予定を全て終えて昇降口に行くとわたしの想い人……というか彼氏の尾白猿夫くんがいた。まだお付き合いして数日だから、お顔を見るだけでも恥ずかしくて、顔が沸騰したみたいに熱くなる。親友は二人とも既に部活見学に行っていて、わたしはひとりで帰ろうとしていたから、猿夫くんと一緒に帰りたいなあ、と思いながら靴を履き替えていたら、誰かに右肩をとんとんと叩かれて。くるりと振り返ったら今まさにわたしの頭を支配していた彼の姿が。


「尾白くっ……猿夫、くん。」

「統司さ……じゃなくて、真、今帰り?」

「うん、猿夫くん、も?」


喋るのは苦手じゃないはずなのに、彼の素敵な笑顔にどきどきして自然としどろもどろになってしまう。しかも最近下の名前で呼び合うようになったから、わたしはこのひととお付き合いしてるんだって意識してしまって、ますますどきどきしてしまう。


「うん、えーと、良かったら一緒に帰らない?」

「っ……!!」


うん!とか、ぜひ!とか、何か言いたかったけれど、あまりにも嬉しくてでも恥ずかしくてどきどきして言葉が出てこなくて、わたしはぶんぶんと首を縦にふった。猿夫くんはくつくつ笑いながら、ありがとう、と言ってくれた。ありがとうはわたしのほうだよ……


帰り道をゆっくり歩きながら猿夫くんとたくさんお話した。彼はA組なんだけど何故かクラスごと入学式に出席していなくて。話を聞くと、入学式やガイダンスをすっとばしていきなり個性把握テストが行われたとか……やっぱりヒーロー科はすごいなあ。私のクラス、普通科D組ではよくあるガイダンスと自己紹介が行われた。こうしてお互いのクラスの話をしていると今度は部活の話になった。


「真は何か部活に入るの?」

「うん、でもまだ何部にするか決めてないんだ。仲良しの二人の友達は演劇部と手芸部にするみたいなんだけど……」

「やっぱり文化部?」

「うん、そのつもり。」

「真は走るのが速いから運動部にすればいいのに。」

「うーん……諸事情で運動部には入りたくないんだ。それに、放課後が毎日部活で埋まっちゃうのも困っちゃう。」

「そうなんだ。じゃあ、部活があって遅くなる日は一緒に帰らない?俺、7限まであるし。」

「えっ!えっ、えっ、えっと……」

「ダメかな?」

「だっ、ダメじゃ、ないよ!いっ、一緒に、帰りたい、な……」


またしてもわたしはしどろもどろになってしまった。本当はすごく嬉しいんだけど、あまりにもどきどきして上手く言葉が出てこない。けれど彼が少し困った顔をしてしまったから、困らせたくないと思って、今度は首を横にぶんぶん振って、大きな声で返事をした。猿夫くんをチラッと横目で見たら、ほんのり顔が赤くなってて、すごく可愛いなって思った。


それからまた他愛もない会話をしながら歩いているとあっという間にお家に着いた。送ってもらったお礼を言って、それじゃあね、と言って背を向けた彼を見送ろうとぼーっと見つめていたら、彼は振り向いてこちらへ戻ってきた。何か忘れ物でもしたんだろうか。


「あのさ、真、朝はひとりで通学するの?」

「うん、親友は方向が違って自転車通学だし、まだ歩きのひと誰も知らないし……」

「……俺じゃダメかな。」

「うん?」

「朝……一緒に行かない?ほら、クラスも違うし、少しでも一緒にいたいっていうか……」


猿夫くんは照れているのか片手で赤くなった顔を隠していて、段々声が小さくなっていっている。このひとは本当にわたしのことを好きでいてくれてるんだっていうのがひしひしと伝わってくる。わたしはまたしてもどきどきして言葉が出てこなくって。


「えーと……ダメ、かな?」

「だっ、ダメじゃ、ないよ!いっ、一緒に、行きたい、な……」

「良かった。じゃあ、朝、迎えに来るよ。時間はまた後で連絡するね。」

「う、うん、待ってる、ね!」


猿夫くんはわたしがこんな風に吃ってしまっても全然怒らなくて、むしろニコニコしながら言葉をかけてくれた。手をひらひら振ってお別れして、今度こそ背を向けてまっすぐ歩いて行く猿夫くんをぼーっと眺めていたら、曲がり角のところでちらっと振り返ってくれた。手をぶんぶん振ったら小さくひらひら振り返してくれて、なんて優しいんだろうと甘い溜息を吐いてしまった。


お家に入って、今日もらったプリントや明日から必要な物をお母さんと一緒に確認した。必要なものを全部揃えて明日の準備を終えたらちょうど夕飯が出来上がった。お父さんはお仕事で遅くなるからお母さんと二人で先に夕飯を食べることにした。


「真、クラスはどうだった?友達はできた?」

「うん、三人みんな同じD組だし、新しい友達もできたよ!」

「そうなのね。じゃあ明日から一緒に行くお友達はいるの?」

「……え゛っ。」


質問の答えを考えた瞬間、動揺してしまって、かちゃんと音を立てて箸を落としてしまった。お母さんはどうしたの、と目をぱちぱちさせていて。わたしは照れた顔を見られたくなくて、箸を洗いながら返事をした。


「お父さんとお兄ちゃんには言わないでね……すきなひとと、学校、行くの……」

「え!?真、あなた男の子を好きになるの初めてじゃない?」

「うん……幼稚園の時から男の子は怖かったんだけど……ほら、受験の下見の時の……」

「あぁ、例の男の子ね!あら、彼と一緒に行くってことはあなた……」

「う、う、うん、お、おつ、お付き合い、してもらってる、の……」

「それはお父さん達には言えないわね。わかったわ、秘密にしておきましょ。」

「ありがとう!えへへ……明日から楽しみだな……」


お母さんの美味しい夕飯を食べ終わって、お風呂や予習を済ませて読書をしていたらスマホが震えた。メッセージは猿夫くんからでお迎えに来てくれる時間が書いてあった。わたしはあまりにも楽しみで目覚まし時計を今日よりも1時間早くセットしてベッドに入った。けれどもどきどきしすぎて全く眠れず、翌朝彼の前でとても大きな欠伸をして笑われてしまい、恥ずかしさのあまり持ち前の俊足でひとりで先に学校へ駆けて行ってしまった。





どきどきの高校生活





「あっ!真!?待って!?」

「は、は、は、恥ずかしいよお〜!!」

「ちょっと!!本当に足速すぎだって!!」


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