秋か……天高く馬肥ゆる秋とか食欲の秋なんて言うけれど、本当にその通りで食べ物を摘む手が全く止まらない。今日も美味しいご飯を食べておやつを摘んで部活をして……事件はお風呂上がりの脱衣所で起こった。
「い、いやあああああ!!」
「何っ!?どうしたの真!?」
「真ちゃんっ!?」
わたしの叫び声で親友が心配して慌てて駆け寄ってきた。わたしは震える手で体重計を指した。しかし震えるわたしをよそに二人はその数値を見てゲラゲラと笑い出した。
「真ちゃん軽すぎるよ!」
「本当!太ったってことかと思ったのに損した!」
「ふ、太ったよ!3キロも!あぁ〜!こんなんじゃ猿夫くんに嫌われちゃうよお!」
「……見た目は全然変わってなくない?」
「大丈夫だって!この体重、平均くらいじゃないの?」
二人は慰めてくれるけどやっぱりわたしも女の子だから体重はすごく気になってしまう。全くご飯を食べなくなったら体調を崩して周りの人に迷惑をかけちゃうから一先ずおやつを辞めて、部活がない日は運動をしようと思う。文化祭も近いし、あまり猿夫くんに会ってない今なら太ったことにも気づかれないはずだ。
けれど、そんな時に限ってたまたまお互いの都合がついて大好きな彼のお部屋に招待されてしまった。土曜日の夜だから彼のお部屋で勉強をして、いい時間になったから一緒にベッドに入って、おやすみのチューをして眠ろうと思ったのだけれど、彼に優しく抱きしめられて、ちゅっちゅと何度も触れるだけのキスをされた。久しぶりのふたりきりだからかとっても甘い雰囲気になってしまった。
「真……最近、文化祭の準備であんまり一緒にいられなくてごめんね……」
「う、ううん、わたしの方こそ、いろいろ忙しくてごめんね。」
「……疲れてる?まだ眠くない?」
「え?う、うん……クラスや部活の出し物はそんな大変じゃないし疲れてはないかな。どうしたの?」
真っ暗だったけど少し夜目に慣れていたから彼の目をまっすぐじーっと見つめてみた。すると、ちゅっと優しく触れるだけのキスをされた。
「……練習、しない?」
「うん?……え゛っ!?」
練習。そのワードでピンときた。こ、これは、え、え、エッチの、お誘いではなかろうか。といっても実際にそれをするってわけじゃなくて練習なんだけれど。
「嫌?」
「い、嫌じゃない、よ……」
「良かった……真、愛してるよ。」
「う、うん……わたしも、あいしてる、よ。」
愛してる。その言葉を皮切りにわたしと彼の愛の営みが始まった。実は彼とはなればなれになったあの日以来、素肌を見せるのは初めてだったりする。パジャマのボタンを外されて、キャミソールの中に手を入れられてさわさわ身体を撫でられるのが擽ったくて思わずふふっと笑みが溢れた。猿夫くんは、怖くない?とか、嫌だったらすぐ教えてねとか、何度も何度も優しい言葉をかけてくれた。
しばらく唇をすり合わせて舌をちょっとだけ絡ませる大人のキスをしながら身体を触られて、背中からぷつんと聞こえて下着の圧力が緩くなった。いい?って聞かれた時、雰囲気に流されたわたしは体重のことなんて全く頭になくて、こくんと首を縦に振った。彼は優しくわたしの下着とキャミソールをたくし上げて、ぷるんと揺れたわたしの胸を目にして一度だけ小さく喉を動かした。それから片手でふわっと胸を優しく触ってきたのだけれど。
「……あのさ。」
「うん……?」
「……胸、大きくなった?」
「……え゛っ!?」
「あっ!き、気にしてたらごめん!いや、あの、前に、さ、触った時よりも、その、大きくなってる気がして……」
ただでさえこの身長には大きくてコンプレックスに思っている胸がさらに大きくなってしまったというのか。なぜ太っても身長は伸びないのだろうか。悲しくて、恥ずかしくて、視界が不明瞭に、涙がじわじわと目に浮かんできた。
「ご、ごめん!本当にごめん!泣かせるつもりなんて……!」
「ううん、猿夫くんは何も悪くないの……」
猿夫くんは慌ててたくし上げたわたしの下着とキャミソールを下ろして、わたしを抱き起こして後頭部を優しく撫でてくれた。わたしもぎゅうっと彼の肩に両腕を回して、ぎゅーっと抱きしめあった。頭を撫でてもらったり背中をとんとんしてもらって少し落ち着いたから、小さくありがとうと声を漏らしたら彼はホッとしたように一息ついて、わたしの顔を見て言葉を発した。
「落ち着いた?傷つけちゃったよね……ごめん……本当にごめん。」
「……猿夫くんは、太ったわたしは嫌い?」
「……えっ?俺は真が太ってたとしても好きだよ。むしろ、もう少し太った方がいいんじゃない?細すぎて軽すぎて俺たまに心配になるよ。」
「あのね、実はね、3キロも太ったの……」
自分が太ったという事実を口にしたらまた悲しくなってきて、めそめそ泣き始めたら猿夫くんはわたしをお姫様抱っこして立ち上がった。突然どうしたんだろうかと目をぱちぱちさせて彼のお顔を見た。
「こんなに軽いんだから大丈夫だよ。それに、太ってても痩せてても真は可愛いし、俺、どんな真も大好きだよ。」
「まっ、猿夫くんっ……わたしもだいすきっ!」
「うわっ!うん……やっぱり可愛い。」
ぎゅっと彼の首に腕を回して抱きついたら小さな声で可愛いねと言われてぱっと腕を解いて両手を熱くなった頬に当てたら、もう一度やっぱり可愛いと言われてさらに頬が熱くなってしまった。
それからベッドにおろしてもらって、ふたりで横になってぎゅっと抱きしめ合った。もうおしまい?って聞いたら、続けていいの?って聞かれてしまった。だめって言ったら知ってたよってくつくつ笑われた。
「秋といえば食欲の秋って言うけど本当その通りだよねえ……ダイエットしたくてもなかなかうまくいかないよ……」
「ダイエットする必要ないと思うけどなァ。あ、でも、秋といえば……運動の秋とも言うじゃない?」
「そうなの。だからね、部活の後とか、何もない日は走ったり筋トレしたりを頑張りだしたところなの……」
「運動か……あっ、俺も付き合おうか?」
「えっ?……!?ま、ま、猿夫くんのばか!!え、え、えっち!!」
「えっ!?い、いや、違うって!ほら、走るとか筋トレとかなら俺もトレーニングになるし……!!」
「……本当?」
「真は目を見たらわかるでしょ……」
「……えへへ、いじわるしちゃった。」
にひっと笑ったら勘弁してくれって綺麗な金髪にくしゃりと片手を当てていた。でも、猿夫くんと一緒なら運動の秋を頑張れる気がすると思ったから、ふたりで一緒にいっぱいしようねって言ったら彼はやっぱり何かを勘違いして興奮したみたいで鼻血を出していた。
秋といえば
「猿夫くん!大丈夫!?なんでそこで鼻血出すの!?」
「いやいや!語弊がある言い方しちゃだめだって!今のはヤバかったって!」
「そ、そうなの?えっと、ふたりで一緒にいっぱい走ったり筋トレしたりしようねって言おうと思ったんだけど……」
「最初からそう言ってくれ……」