「真も帰り?えーと、これはね……」
放課後、部活が早く終わって昇降口で靴を履き替えていたらちょうどヒーロー科の人たちが授業を終えて昇降口にやって来た。自然と大好きな彼に目をやると所々煤けていた。話を聞くと、USJという訓練施設に
「痛くない?大丈夫?心配だよ……」
「ありがとう、このくらい平気だよ。それより、一緒に帰らない?」
「あっ、う、うん、ぜひ……」
猿夫くんが大丈夫って言うならそれを信じることにした。彼と一緒に昇降口を出ようとしたら、ヒーロー科のひと達からまじまじと見られて、猿夫くんはお友達から肘でぐりぐり突かれていたり、ラブラブ〜と茶化されたりしてすごく恥ずかしかった。わたしなんかがこんな素敵なひとと一緒にいていいのだろうかと不安になったけれど、横断歩道のところできゅっと手を握ってもらったらすっと不安はなくなった。
でも、やっぱり
「大丈夫?何か悩み事?」
「えっと……こ、ここじゃ言いにくいから、お家、入る?」
「……え゛っ!?い、いい、家に!?お、親とかいるんじゃないの……?」
雄英生が授業中に
「今日はお父さんは帰ってこないけど、お母さんならいるよ。入っても大丈夫だよ。」
「え、えっと、その、ご存知、なの?」
「一応……お母さんだけ知ってるよ。」
「そ、そうなんだ……だ、大丈夫なら、お、お邪魔しよう、かな。」
いつもとは逆で、猿夫くんの方がしどろもどろになっていた。わたしは彼の手を引いてお家に入って、お母さんを呼んだ。お母さんは奥からぱたぱたと出て来て、猿夫くんを見るなり両手を合わせて、まあ!あなたが噂の猿夫くんね!なんて。猿夫くんは林檎みたいに真っ赤になりながらお母さんに畏って挨拶をしていた。
「え、えっと、僕、尾白 猿夫といいます。真さんと、あ、いや、統司さんとは先月から、あの、お、お、お付き合いさせていただいて、あの……」
「そんなに畏まらなくて大丈夫よ!この子から毎日よーく聞いてるから!」
「おっ、お母さん!?やめてよ!恥ずかしいよ!」
「はいはい。あっ、どうぞ上がって。お茶、淹れてくるわ。」
「あっ、お、お構いなく!」
お母さんはニコニコしながら奥へ戻って行った。わたしと猿夫くんはとりあえず靴を脱いで、わたしの部屋へ一緒に行った。わたしのお家は結構大きいみたいで猿夫くんはびっくりしていた。たまにお手伝いさんを呼んだりすることもあるし、お父さんの仕事の都合で会議用の広いお部屋なんかもあったりするけどそれは黙っておこう。
どうぞ、とお部屋に招き入れたら、彼は落ち着かないみたいでキョロキョロソワソワしていた。黄色いクッションに座るよう促して、テーブルを挟んで向き合って座った。少し今日の日課のことやお友達のことを話していたら、お母さんがアップルティーとマドレーヌを持って来てくれた。ごゆっくり、と言ってお母さんはわたしにニコッと微笑んで出て行った。お茶に口をつけて、わたしは彼の目をじーっと見ながらゆっくり口を開いた。
「今日、
「あ、うん。」
「あのね、お話、聞いた時ね、すごく心配で、すごくどきどきして……怖くなかった……?」
「うーん、突然だったし、怖いとかより、闘わなきゃって気持ちの方が強かったかな。実際ヒーローになったらあんなの日常茶飯事になると思うし……ってのもどうかと思うけど。」
「猿夫くんに何かあったら、わたし……」
胸の前でぎゅっと手を握って、泣かないように話していたつもりなのに自然と涙がこぼれてしまった。涙はぽろぽろとこぼれて止まってくれない。ハンカチで目を抑えたら、猿夫くんはすっと立ち上がってわたしの隣に座って、そっと優しくわたしを抱きしめてくれた。男の子に、しかも好きなひとに抱きしめられるなんて初めてで、恥ずかしさのあまりに顔が沸騰したように急激に熱くなった。
「ま、ま、ま、猿夫くんっ!?え、えっと、あの……!」
「心配してくれてありがとう、真は本当に優しいね。」
「あ、あ、あ……う……」
彼の優しい匂いが肺いっぱいに入ってきて、呼吸をしてるだけなのにとてもクラクラしてしまう。彼の匂いが、体温が、とても心地良い。どきどきしすぎて思っていることを言葉にできない。そんなわたしをよそに彼は言葉を続ける。
「真を守れるような立派なヒーローになるためだから、怖がってなんかいられないよ。」
「で、でも……」
「俺が来たらみんなが安心できるような……真が安心して見ていられるような、立派なヒーローになるからさ。だから、俺のこと、見てて。」
「う、う、うん……わかった、見てる……」
そっと彼の背に腕を回して、少しだけ力を入れて抱きしめ返した。初めて彼と抱き合っている。お互いの心臓の鼓動がとても激しいのがわかる。それと、彼はすらっとしてる見た目の割にとても筋肉質な身体をしていることがわかった。なんて逞しくてかっこいいんだろうと安心感さえ覚えるほど。こんなに立派な身体をしているなら一人で
「ご、ご、ごめん!いきなりこんな……嫌じゃなかった!?ごめん!」
「だ、大丈夫、だよ……その、びっくりして、どきどきしたけど……全然、嫌じゃないよ……」
「そ、そっか。よ、良かった。」
彼は一番にわたしを気遣ってくれた。嫌なわけない、むしろもっと抱きしめていてほしかったとさえ思う。わたしは彼の体温と匂いが名残惜しくて、すすすっと彼に近寄った。
「……もう一回、ぎゅって、しよ?」
「えっ!?い、いいの?」
「うん……してほしい。」
「わかった…………真、好きだ……」
「うん……わ、わたしも、す、す、すき、だよ……」
「……俺、幸せ過ぎてどうにかなりそうだ。」
彼はわたしを脚の間にすっぽり納めてしまって、さっきよりも強くしっかりむぎゅっと抱きしめてくれた。わたしもそっと彼の背に腕を回して、ぎゅっと抱きしめ返したら、とても熱が入った低い声で好きだと言われた。どきどきしすぎて、しどろもどろになったけどわたしも彼が好きという想いを絞り出すことができた。
「ね、猿夫くん。」
「うん?」
「初めてハグしたね……わたし、すごく嬉しい……」
「あ、う、うん……俺も……」
しばらく抱きしめ合いながら、週末の予定や学校のこと、友達のことを話したりして、当初抱えてた
初めてのハグ
「猿夫くん。」
「うん?」
「これからも、そばで見てるから、だから、いっぱい、ぎゅって、してね……」
「ッ……!よ、喜んで……」