運命のふたり
「統司!お前の目に一目惚れした!俺と……付き合ってくれ!」



***



放課後、学級委員長から、統司さん宛にヒーロー科の男子からだよ、と渡された手紙。差出人はわからない。男の子からの呼び出しなんて正直不安しかないけれど、もしこれがA組の人で猿夫くんに何かあったとかそういう話かと思ったらいてもたってもいられなくなって、わたしは呼び出された家庭科室の裏へと駆け足で行った。


しかしながら待っていたのは全然知らない男の子で、つり目で黒い短髪のいわゆるイケメンと呼ばれる部類の顔が整った感じの人。あの、と声をかけたらすぐにこちらへ近づいて来て、両手を握られて冒頭に至るわけだ。



***



「あっ、あの、ごめんなさい、わたし、貴方のことよく知らないし……」

「そ、そうだよな……俺は1年B組の回原。回原旋っていうんだ。」

「そ、そうなんだ。えっと、回原くん?ごめんなさい、わたし、すきなひとがいるの……」

「それって……か、彼氏、とか?」

「う、うん……」


好きな人、しかも彼氏がいると告げたら回原くんはわたしの手をパッと離して、マジかよ〜とか、こんだけ可愛けりゃそうだよな〜とか言いながら片脚を回したり腕を回したり。この人の個性なのだろうか、痛くないのかな、なんてぼーっとしてたら今度は両肩に手を置かれた。


「誰?普通科?」

「え?えっと、違うよ。ヒーロー科だよ。」

「ヒ、ヒーロー科!?まさか、B組の中にいるのか……!?」

「う、ううん。違うよ、A組だよ。」

「何ィ!?だっ、誰なんだ?轟か?それとも飯田?いや、切島とか!?」

「え、えっと、お、尾白、尾白猿夫くんです。」

「おっ、お、お、尾白ォ!?嘘だろ!?」


回原くんは両手で頭を抱えてしまった。彼氏が猿夫くんって言ったら毎回驚かれるのももう慣れたけどやっぱり釈然としない。きっとわたしがまだまだ素敵な彼に相応しくないってことだから、もっと可愛くなりたいなあとか、身長伸ばしたいなあとか思うと胸がチクチクする。はあっと溜息を吐いたら回原くんはパッと顔をあげて、またわたしの手をとった。


「せ、せめて、友達になってくれないか?」

「えっ、と……」


正直、よく知らない男の子と関わるのは遠慮したい。けれどこの人は猿夫くんと同じヒーロー科だし、自分の気持ちを無理に押し付けるような人でもないみたいで、良い人のような気がする。わたしは、お友達なら、と首を縦に振ったら、まるで告白が成功したかのように彼は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。


回原くんと別れて教室に戻ったら、わたしがヒーロー科の男の子に告白されたという話でもちきりだった。どうやら先の告白は誰かに覗かれていたようで。猿夫くんに知られて何か誤解されたらどうしようと思ったから、先にラインで申告することにした。


猿夫くん、今忙しい?(・x・)?

いや、ちょうど課題が片付いたところ。

そっか。お疲れ様。あのね、回原旋くんってひと、知ってる?((・⊥・))?

知ってるよ。B組だね。彼がどうかした?

あのね、告白、されたの。あ、でも、ちゃんと猿夫くんとお付き合いしてるって言ったよ。





このメッセージを機に返事が来なくなった。どうしたんだろうと思って、しばらくしたら廊下からバタバタと音がして、ガラッとドアが開いた。するとそこには、もう冬も近く、だいぶ寒くなってきたというのに汗だくになった猿夫くんが立っていた。少し息切れしてるみたい。


「ま、猿夫くん、どうし……」

「真っ!」


彼はわたしを見るなり教室のど真ん中だというのに思いっきりわたしを抱きしめた。教室に残ってる人たちが騒ぎ出してしまってとても恥ずかしい。抱きしめ方でこれが本物の猿夫くんだとわかるから引き剥がすこともできなくて。優しく片手を頬に添えられて、何の合図かわかったわたしは小さな声で、みんなの前では恥ずかしいから今はダメだよ、と呟いた。彼は慌ててわたしから身体を離した。だけど釈然としていないようで。わたしの手をそっと握って、ちょっと来てくれる?と言うので頷いて、荷物を持って彼について行った。


彼の部屋までついて行って荷物を下ろしたら再びぎゅっと抱きしめられた。肩に腕を回してぎゅうっとしがみつくように抱き返したら何故か彼からお礼を言われた。しばらくして、彼はわたしから身体を離して、柔らかい林檎形のクッションに座るよう促してくれた。ちなみにこのクッションはわたしの部屋から持って来た物だったりする。


「回原くんとどこで知り合ったの?」

「今日、呼び出された時に初めて知ったよ。」

「そ、そうなの!?えっ、じゃあなんでだろう……」

「わかんないよ……でも、目に一目惚れしたって言ってた。あのひと、知らないんだけどなあ。」


猿夫くんとわたしは顔を合わせてうーんと考え合っていたのだけど、軽く溜息を吐かれて、どうしたの?って聞いたら彼はわたしの隣に座ってそっと頬に手を添えてきた。


「……真は俺のだ。」

「うん……わたしは猿夫くんのだよ……えへへ……嬉しいな……」

「回原くんには……いや、誰にも渡さないよ。」

「渡さないでね。わたしも猿夫くんがいい。」


どちらからともなくちゅっとキスをした。いつも触れるだけのキスをした後は目を合わせてニコッと笑ってくれるはずなんだけど、今日の猿夫くんはご機嫌斜めみたいで、まだ少しだけぶすっとしている。どうしたの?って聞いてみたら、片手で髪の毛をくしゃっと抑えてボソッと呟いた。


「一目惚れってさ、なんか、運命感じちゃって……」


このひとは何を言っているんだろうか。


「……それ、誰のこと言ってるの?」

「回原くんだよ……真は目も綺麗だけど心も綺麗だし、おまけに何をしてても可愛いし、はぁ……」


本当にわかってないのだろうか。


「……猿夫くんは、わたしになんて言って告白してくれたんだっけ。」

「え?初めて見たとき……から……」

「うん……わかった?」


猿夫くんは意味がわかったようで、林檎の様に、いや、まるで活火山が噴火したかの様な勢いでお顔も尻尾も真っ赤にして、尻尾を自分の身体に巻きつけて、片手で顔を隠してしまった。わたしはクスクス笑いながら言葉を続けた。


「わたしもね、初めて見たときから猿夫くんのことすきになっちゃった。小さい頃も、大きくなった今も、同じひとに一目惚れしちゃったの。」

「俺もです……」

「えへへ、一目惚れかあ……ねえ、こういうの、なんて言うんだっけ?」



「う、運命です……」





運命のふたり







次の日、猿夫くんはB組との合同戦闘訓練だったのだけれど、回原くんのドリル攻撃でかなり執拗に痛めつけられてしまったみたいで尻尾も身体も擦り傷だらけで帰って来た。ちょうど猿夫くんと話していたら回原くんにばったり会って、彼はわたし達に話しかけてきた。猿夫くんは普通に対応していたけれど、わたしは大人気なく、猿夫くんをいじめるひとはきらい!なんて言ってしまった。


「真、あれは訓練だから……」

「統司、待ってくれ!尾白はお前というものがありながらうちのクラスの女子を尻尾でぐるぐる巻きにした上に抱きついてたぞ!」

「ちょっ!?回原くん!?あれは……」

「訓練だから捕まえるのは仕方ないもん!それに、猿夫くんは運命のひとだから浮気なんてしないもん……浮気、しないよね……?」

「ッ……!したくないしできないよ……真しか好きになれないんだから……」

「……A組の峰田が言ってた灼熱地獄カップルってお前らのことだったのか。」




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