彼の家族
「お、お、お邪魔します……」

「あ、荷物預かるよ。」

「いらっしゃい!真ちゃん、久しぶりね!また会えて嬉しいわぁ!」

「は、はい、ご無沙汰してます。」

「真、先にリビング行っといて。」

「あ、う、うん。お、お邪魔します……」


大晦日。雄英は寮制の都合で帰省できないと思っていたけれど生徒達はプロヒーローの護衛付きで1日だけ実家への帰省が許された。わたしの両親とお兄ちゃんは九州の家にいて、1日なら移動だけで潰れちゃうし、わたしは寮でお留守番をしていようと思ったのだけれど、猿夫くんにお誘いされて彼の家へ一緒に帰ることになったというわけだ。彼の家でお母様の手料理をいただいて、今は彼の御両親と彼とわたしで炬燵に入ってテレビを見ながら軽くお話をしているところ。彼の家族はとても優しくて温かい。ちなみにお母様は何度かその御尊顔を拝見させていただいたことがあるけれどお父様とは初めてお会いする。


「すみません、こんな年末に……」

「いえいえ!ご家族は九州なんですって?年末に女の子一人きりじゃ寂しいでしょ?この子にしては気が利いて……」

「いいえ!お母様!猿夫くんはいつも優しくてかっこよくて……あっ、す、すみません、お話の途中なのに……」

「いいえ、息子のことそんな風に想ってくれておばさん嬉しいわ!」

「ありがとうございます……えへへ、猿夫くんはいつも親切で頼りになって、強くて誠実で、それからそれから……」

「真!それは言い過ぎだって……!」

「へぇ……真ちゃんの前でかっこいいところ見せようと必死なのね……」

「……猿夫、こんな綺麗で可愛らしいお嬢さんをいつどこで捕まえたんだ?」

「つ、捕まえたって人聞き悪いよ父さん……」


わたしと猿夫くんはお父様からふたりはどこでどうしてこんな関係になったのかと根掘り葉掘り聞かれてしまって、わたしはカチコチに固まってしどろもどろになってしまった。顔がだんだん熱くなってきて、チラッと彼を見上げたら、なんて可愛いんだ……と言われてしまって、火が出そうな顔を両手で覆ってしまった。それを見た彼の御両親は、こんな可愛らしいお嬢さんが猿夫のお嫁さんになってくれたら、なんて言っている。結局、質問は猿夫くんが全部答えてくれて、わたしは顔を真っ赤にしてうんうん頷いているだけだった。





お話もひと段落して、お風呂をお借りして、わたしは彼の部屋で寝ることになった。お母様がお布団を敷いてくださって、わたしは深々とお礼を申し上げた。


「お母様、今日はお世話になりました。お料理とても美味しくて、お風呂も気持ち良くて、お父様もお母様も猿夫くんもこんなに親切にしてくださって、至れり尽くせりで感謝の気持ちでいっぱいです。」

「ちょっと真ちゃん!そんな畏まらないでいいのよ!もっと気軽に、ね!ほら、普通に呼んでくれていいし敬語じゃなくてもいいから!」

「あっ、は、はい。えっと、お、おかあさん……えへへ……嬉しいな……」

「……ほんっと猿夫には勿体ない可愛らしいお嬢さんだこと。猿夫、真ちゃん泣かすんじゃないよ。」

「わ、わかってるよ!さっき父さんにも言われたよ……」


猿夫くんはおかあさんに揶揄われて尻尾をぶんぶん振っていた。本当は嬉しいんだな、とわかってしまってクスクス笑ったら、二人から可愛いと言われてしまってわたしは顔が急激に熱くなるのを感じた。お布団を綺麗に敷いていただいて、おかあさんにおやすみなさいのご挨拶をした。おかあさんは一旦お部屋を出た後、すぐにガチャっとドアを開けて一言残してすぐにドアは閉められた。


「猿夫、アンタ、真ちゃんが余りにも可愛いからって襲ったりすんじゃないよ!」

「ッ……!?!?バ、バカなこと言わないでくれよ!」


おかあさんが行ってしまって、シーンとしてちょっぴり気まずくなってしまった。チラッと彼を見ると、彼はベッドを見つめたまま林檎のように赤くなっていた。そういえばわたしはある夏の夜、ここで彼に、抱いて、なんてお願いをしたんだっけ……なんて想いを馳せていたら彼はハッとして、わたしの方を向いてしどろもどろになっていた。


「真、お、襲ったり、しないから、あ、あの……」


わたしはなんとなく彼の言いたい事が伝わって、ベッドに腰掛けた彼の隣にちょんと座って言葉を返した。


「お布団せっかく敷いてもらったのに?」

「う、まだ何も言ってないのに……」

「わかるよ。わたしも同じこと考えてたから。」

「えっ……?え、えっと、その、だ、抱きしめて、寝ても……」

「いいよ。わたしも、猿夫くんと一緒に寝たい。」


いつもベッドだし折角だからお布団でってことになって、猿夫くんと一緒にお布団に潜った。彼に腕枕をしてもらってぎゅーっと抱きしめあったら、彼の体温や匂いがとても心地良い。ただ、ベッドと違って床が固いからかな、腕枕が少しだけ痛く感じるけれど。それから尻尾でさらにぎゅっと抱き寄せられて、空いた方の手でたくさん頭を撫でてくれたり背中をとんとんと叩いてくれた。なんだか幼い頃家族にこうしてあやしてもらったことを思い出して、家族が恋しくなって彼の胸に頬擦りをすると、彼はゆっくり言葉を紡ぎ始めた。


「もうすぐ今年も終わりなんだな……」

「そうだねえ。いろんなことがあったねえ……」

「うん……俺、今年が人生で一番幸せかも。」

「そうなの?」

「うん。念願の雄英に受かったし、友達も沢山できて、切磋琢磨しながら確実に実力をつけて夢に近づいてる感じがする……それに、キミに、真に、出会えたこと。正確にはまた出会えたことなんだけど。」


彼の言葉に胸がきゅんとして、顔がすごく熱くなって、わたしは彼の胸にぎゅーっと顔を押し付けながらぼそぼそと、でもちゃんと聞こえるように言葉を返した。


「わたしも、同じ。幸せいっぱいな年だったなあ。来年も、一緒に楽しく過ごそうね。」

「うん、来年もその次も、ずっとずっと、よろしくお願いします。」

「うん、ずっとずっと、よろしくお願いします。猿夫くん、だいすき。」

「うん、俺も。真、大好き。」

「……猿夫くんのお父さんとお母さんも、すごく優しいね。わたし、二人のこともだいすき……」

「そう?それならよかった。いずれ真の親にもなることだし。」

「そ、そ、そ、そ、そ、それは……!も、もう!ばか!お、おやすみっ!」

「くくっ、今年も最後まで可愛いね。おやすみ、真。」

「もう……えへへ、おやすみなさい、猿夫くん。」


ふたりで小さく声を出して笑って、おやすみのチューをして、抱きしめあってすーっと眠りに落ちていく。こうして愛する彼と一緒に今年最後の夜と新年最初の朝を過ごすわたしは、きっと世界一幸せな女の子だと思う。抱きしめ合うわたし達の寝顔は幸せそうな笑顔だったとか。





彼の家族




「猿夫、そういえばアンタお迎えは……!?ちょ、ちょっと!猿夫!」

「うわっ!お、おはよう。……!?い、いや、これは違っ……」

「んぅ……おはよう、猿夫くん……」

「あ、真、お、おはよう。」

「昨日は……痛かったよ……」

「……えっ!?い、いや、真!?何言って……!?」

「すぅ…………」

「猿夫!アンタ、襲うなってあれ程……!」

「い、いや!本当に違うって!真、起きて!ちゃんと説明しよう!」


その後、しっかり目が覚めたわたしは猿夫くんを叱るおとうさんとおかあさんに、腕枕で首が痛かったということを必死に訴えて、なんとか彼への誤解を解く事ができたのだった。その後、お迎えに来たプレゼントマイク先生から大きな声でハッピーニューイヤーの言葉をもらって、わたしも笑顔で先生に挨拶を返した。




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