プールに行こう
夏休みはわたしの入寮の都合だったり、ヒーロー科は仮免試験に向けての訓練があったりと中々お互いの都合が合わなくて。でも、その試験も先日無事に終えて、猿夫くんは見事ヒーロー活動許可仮免許証を取得して来た。慌ただしい日々にひとまず一息ついたところで、今日はわたしから誘って午後からふたりで大きな室内プールに遊びに来た。更衣室で着替えたら自販機の前に集合で、少し時間がかかって早足で向かったらやはり彼は待ってくれていて。


「猿夫くん!待たせてごめんなさい!」

「いや、全然待っ……て……」

「猿夫くん?」

「いや、あの……水着姿、すごく、その、綺麗というか……眩しいというか……か、可愛いです……」

「えっ、あっ、ありがとう……猿夫くんも、その、逞しいというか、男らしいというか……か、かっこいいです……」


お付き合いしてからもう半年近く経っているのにお互いの顔を見るだけで赤くなることが度々ある。けれど今日は初めて見るお互いの水着姿に得も言われぬときめきを覚えてしまって目を合わせることすらできなくて。夏休み前のある晩には、ほとんど真っ暗な状態とはいえお互いの身体を見て、触って、そのうえ、半裸で抱き合って眠ったなんて未だに信じられない。……猿夫くんの視線がわたしに釘付けなのが恥ずかしくて、彼の背後に回ってぎゅっと抱きついて自分の身体を見せないようにしたのだけれど。


「ま、猿夫くん!?大丈夫!?鳩尾に入ったりでもしちゃった!?」

「だ、大丈夫、ちょっと待って。」


わたしの抱擁の勢いが強くて手が鳩尾に入ってしまったんじゃなかろうかと心配になってしまったけどどうやらそうではないらしい。では体調が悪いのだろうか、彼は急にお腹のあたりを抑えてしゃがんでしまった。


「本当に大丈夫……?」

「う、うん、それより、真、これ羽織って……水につけてもいいからね。」

「うん、わかった。ありがとう。」


猿夫くんはお顔と尻尾を赤くしながら、パーカーを脱いで渡してくれた。わたしが今日着ている水着はパステルピンクのホルターネックのビキニで、ただでさえわたしの身体には大きく見える胸が強調されている。なぜわたしがこんな大胆な水着を着ているのか、というのも、彼に可愛いと思われたい一心に他ならない。親友に相談して太鼓判を押してもらったこの水着を着て来たら、案の定彼の視線はわたしに釘付けだった。けれどもこうして紳士的に接してくれる彼は本当に素敵なひとだと思う。


それからふたりで泳いだり、水を掛け合ったり、流れるプールやウォータースライダー、他にも水を使ったたくさんのアトラクションで遊び回った。深いプールにも入りたかったのだけれどわたしの身長では入るのが難しくて、浮き輪を借りようとしたのだけれど、猿夫くんに阻まれてしまった。


「浮き輪、使っちゃダメ?」

「うーん、今日は要らないかな。」

「でも、わたし足つかないよ……」

「俺が抱っこしてあげるから大丈夫。」

「えっ、そういうこと?……えっち。」

「ち、違うって!最近忙しくてあまり一緒にいれなかったし、学校だとみんなの目があるし……!」

「冗談だよ、わたしも猿夫くんに抱っこしてもらいたい!早く行こっ!」


猿夫くんの手を引いて深いプールにやって来た。彼は先にプールに入って、おいで、とわたしに両腕を広げてくれたから、彼の首に腕を回しながらそっと水に入った。足が全然つかなくて少し怖かったけど、すぐにお姫様抱っこをしてくれたから全然怖くなくなって。久々に彼の腕に抱かれたことに安心と喜びを覚えたわたしは彼にむぎゅーっと抱きついた。すると、お顔も尻尾も水の中なのに燃えてるのかってくらい真っ赤になっていてすごく可愛かった。


深いプールを歩いてもらっている時、視線をきょろきょろ動かしていたら観覧車が目に入った。プールに観覧車?と思って猿夫くんに言ってみたら、つい最近できたのをスマホで見たと教えてくれた。


「乗ってみる?」

「乗ってもいい?」


ふたり同時に同じことを質問してしまって、顔を見合わせてクスクス笑い合った。深いプールから出て、ふたりで手を繋いで観覧車まで歩いて行った。観覧車の中はちょうど座席のところまでお湯が入ってて、温泉みたいで気持ち良い。ちなみにこのお湯は前の人の使い回しとかではなく、ちゃんと監視員さんが丁寧にお湯を張り替えてくれているから安心して浸かることができる。


観覧車の規模は小さめだったから、お湯が冷めることなく下に戻ることができた。中からプールの景色を見ると、自分たちが今日すべてのアトラクションを回りきったことがわかった。つまりこの観覧車が最後のアトラクションなわけで。時計を見ると結構いい時間だったから観覧車から降りたらすぐシャワーに向かって、ゆっくり着替えて外に出た。今度は待たせることなく同時に出てくることができた。


「すごいね、今日1日で全部遊び尽くしちゃったね!猿夫くん、楽しかった?」

「もちろん、楽しかったよ。真は楽しかった?」

「うん!楽しかった!今度はお友達も誘ってみんなで来ようね!」

「あー……うん、そうだね。」

「……?だめ?」

「いや、そんなことないよ。次に行くのも楽しみにしてるよ。」

「うん!」


手を繋いで楽しくお話しながら寮に帰った。もう少しお喋りしたかったけど、髪が濡れてて風邪をひいてはいけないからと少し早めにお別れすることに。最後に、今度はお互いの友達も誘ってみんなでプールに行こうね、と声をかけたら、少しだけ困ったような笑顔でそうだねと返事をされたのが気になるけれど、楽しかったのなら良いかと気にしないことにした。





プールに行こう




やっぱり可愛い水着だと思う存分泳げなかったなあ。でも競泳用のやつだと身長と胸のせいでサイズが合わないしなあ……





友達誘うって、向こうは女の子だからいいかもしれないけど……男友達なんて誘ったらみんな真の水着姿に釘付けになってしまう……パーカー絶対俺が持参しよう……



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