もっと知りたい
わたしの身長は背伸びをしてやっと149センチと女子の中でも結構低い方で困る場面が多々あって。今日は図書室で一番上の棚にあるデッサンの本が読みたくて、台に乗って手を伸ばしたけれどギリギリ手が届かない。どうしようと小さく声を漏らしたら、わたしの読みたい本はスッと誰かに取られて、その本はそのままわたしに差し出された。


「こちらでよろしいですか?」

「わあ……あ、ありがとうございます……」

「いいえ、クラスメイトの大切な方をお助けできて何よりですわ。」

「あっ、え、えっと、確か、八百万さん……?」

「あら、ご存知ですの?」

「う、うん、いつも、猿夫くんがお世話になってます。」


わたしに本を渡してくれたのはA組の副委員長で成績学年トップの八百万さんだった。背が高くてすらっとしてて綺麗で美人で頭も良いなんてすごくすごく憧れちゃう。わたしは彼女に見惚れてぽーっとしてたのだけれど、何故か彼女もわたしの顔をじーっと見ていて。


「間違いだったらすみません、貴女、統司先生のお嬢さんでは……?」

「え、え?お母さんのこと知ってるの……?」

「もちろんですとも!私、統司先生の本は全て拝読済みで、講演会の参加経験もありますの!」

「そ、そうなんだ!嬉しいな……わたしもお母さんの本大好き!」

「実は私、前々から貴女のことが気になっていましたの!感激ですわ……!」


実はわたしのお母さんは科学者だったりする。大学で教鞭をとっていたり、高校や中学で学生向けの講演会を行ったりしていて、とても頭が良い。ちなみにその学力はお兄ちゃんにしっかり受け継がれている。わたしが理系の科目を苦手とするのはきっとお父さん由来なのだろう。お父さんは貿易会社の社長でよく外国に行くこともあってか英語が大の得意で、それはわたしにもしっかり受け継がれている。


わたしと八百万さんは図書館で本を借りてA組の寮の共同スペースでいろんなお話をした。彼女は本当に博識な人で、話を聞けば聞くほど楽しくなる。中でも一番驚いた話は、彼女の家で催されるパーティや会議にわたしのお父さんもよくお呼ばれされていたということだ。幼い頃は御息女を連れていた、という発言でどうやらわたし達は何度か顔を合わせたこともあったみたいだということが判明した。それもあってか、この短時間でわたし達はお互いを下の名前で呼び合うほど仲良しになっていた。百ちゃんとお話をしていると上の階から何人かの男の子が降りてきて、その中にはわたしの大好きな彼もいた。


「あれ、真?八百万と知り合いだったの?」

「さっき親切にしてくれたの!ね、百ちゃん!」

「はい、まさか尾白さんの恋人が統司先生と統司社長の御息女だったなんて……」

「先生?社長?え、何、真ちゃんってお嬢様なん?」

「そ、そんなんじゃないよ!た、多分。」

「どうなんだよ尾白、家とか行ったんだろ?」

「た、確かに大きな家に住んでた。それに真は所作も言葉遣いも上品だよな……お、俺、知らなかった……」


峰田くんに尋ねられた猿夫くんは尻尾がしゅんと垂れていて少し落ち込んでいるようだった。今まで家の話とかしなかったからかなあ。ソファに腰掛けている猿夫くんの隣にちょんと座って彼の手を握って、お話してなくてごめんね、と目を見て告げた。謝ることじゃないよ、と王子様の様に優しく微笑みながら言ってくれてわたしの顔は急激に熱くなってしまった。


「俺、大丈夫かな。良いとこ育ちとかじゃなくて本当普通の一般家庭なんだけど……」

「そんなん気にしてたらキリなくね?」

「今更だろ!灼熱地獄カップルめ!」

「そうですわ、愛に身分など関係ありませんわ!」

「み、身分って……みんな大げさだよ……」

「でも仕方ねーだろ、それ以前にこんなに可愛い統司が尾白と付き合ってんのが不思議でならねェ。」

「し、師匠!それは逆だよ!わ、わたしなんかがこんなにかっこいい猿夫くんにお付き合いしてもらってる方が不思議なんだよ!」


立ち上がって師匠に力強く訴えたら、悪い悪い、と言われてみんなからニコニコした顔で見られてなんだか恥ずかしくなって、猿夫くんの陰に隠れてぎゅうっと腕にしがみ付いた。すると尻尾で抱き寄せてくれたから、もっとぎゅうっとくっ付いた。


「お前、こんだけラブラブしといてよく言うぜ……」

「チクショー!やっぱ身分とか全く気にしてねーだろ!」

「いや、まぁ、好きだし……」

「けれども、真さん、よく御両親から入寮を許可していただけましたわね。尾白さんのこと、お伝えしてますの?」

「うん。お母さんには。あとはお兄ちゃんも東京にいて、猿夫くんのこと知ってるよ。お父さんには言えてないけど……」

「統司の母ちゃんは尾白のことなんて言ってんだ?」

「あ、それ気になる……」


師匠の問いかけでみんなの視線は一気にわたしに集まった。わたしは猿夫くんの腕を離して、手を軽く組んでうーんと考えながら説明した。


「お母さんは猿夫くんのこと、すきだと思うよ。わたしが初めてすきになって初めてお付き合いしたひとだし。男の子が苦手だったわたしがすきになったひとだから、本当に素敵なひとなのね、って。」

「統司ちゃんって男嫌いなのか?」

「えっと、幼稚園の時にね…………」


峰田くんの問いかけに、以前猿夫くんに話した秘密の黄色いリボンのことと、彼との馴れ初めをお話する形でお答えした。話し終わった時、猿夫くんは恥ずかしかったのか赤くなった尻尾を自分の身体に巻きつけて真っ赤なお顔になりながら身を小さくしていて、上鳴くんや峰田くんに突かれたり叩かれたりしていた。師匠は腕組みをしながら良い話だなぁ、なんて。百ちゃんに至っては目を輝かせて、まさに運命ですわ!とか言うもんだから、なんだかわたしも顔が熱くなって頬に両手を当ててぎゅうっと身を縮めてしまった。


その後はみんなで百ちゃんに宿題を教えてもらって、それぞれ解散したのだけれどわたしは猿夫くんにぎゅっと腕を握られて。ふたりで話せる?って言われたもんだから、彼のお部屋でお話することにした。林檎型のクッションをひいてもらって、わたしはそこに腰掛けた。彼はわたしを脚の間に入れて後ろからぎゅうっと抱きしめてくれた。余りにもぎゅうっと抱きしめてくるもんだからわたしも彼を抱きしめたくなってしまって、もぞもぞと後ろを向いて膝立ちになって、そっと優しく彼を抱きしめた。わたしの胸に頬擦りしてくる彼が可愛らしくて堪らない。


「俺、真のこともっと知りたい……」

「うん、何でも聞いて。」

「親のこと、お兄さんのこと、友達のこと、真の小学校や中学校のこと、何が好きで何が嫌いなのか、他にも色々……」

「うん、ひとつずつ、ね。あのね…………」


わたしは自分の家族のことや友達のこと、これまでの学生生活のこと、好きなものや嫌いなもの……彼の質問にひとつずつ丁寧に答えていった。どうして俺なんかのこと好きになってくれたの?って聞かれた時はうまく言葉にできなくて、わたしは彼の唇にちゅっとキスをして、わたしのヒーローだからだよ、としか言えなかった。でも実際、幼稚園の頃も中学の頃も救けてくれた彼に一目惚れしてるわけだからやっぱり理由なんて思いつかない。逆にわたしも同じ質問をしてみた。


「そ、それは……目が綺麗とか、仕草や外見、中身も可愛いってのももちろんあるけど、やっぱり優しいところとか、真っ赤な顔の笑顔かな……あれを見て好きにならない方がおかしいよ。」

「も、もう!またそうやって……でも、お世辞でも猿夫くんに可愛いって言ってもらえるのはすごく嬉しいな……」

「そういうところも可愛いよ……真、大好き……」

「えへへ、わたしもだいすきだよ。」


それからわたし達は何度も何度もキスをして、気がつけば彼のベッドの上で服を脱がされていた。彼と素肌をくっつけあって、たくさんお互いのことを質問し合いながら、いつもの様に優しくて甘いひと時を過ごした。





もっと知りたい




「猿夫くん、今日はいっぱいお話したね。」

「うん、真のことたくさん知れてよかった。」

「えへへ……他に聞きたいこと、ある?」

「……真の気持ち良いところももっと知りたい。」

「ばっ、ばか!えっち!最低!そんなの知らなくていいよ!」

「いいよ、自分で探るから。」

「あっ!い、いきなりは……ひゃんっ!」

「真、愛してるよ。」
 



back
top