すてっぷあっぷ
ハッと目が覚めたらわたしの髪を手で梳く猿夫くんがいた。ここは寮のわたしの部屋だ。きっと彼が運んでくれたのだろう。大丈夫?と声をかけられたわたしはボンッと音を立てたんじゃないかってくらい顔が急激に熱くなった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!多分これまでの17年間でいちばん恥ずかしい!赤ちゃんができたなんて妄想もいいところだ!勘違いも甚だしい!あまりの羞恥で目にじわじわと涙が溜まってきた。それを見た猿夫くんは慌ててわたしの背中や腰を撫で始めてくれた。


「どこか痛む!?大丈夫!?」

「う、ううん、違うの。は、恥ずかしくて……」

「そ、そっか。身体は?大丈夫?」

「うん、横になってたらちょっと楽かな……」


シーンとして気まずい。そりゃそうだ。彼の顔を見るのが恥ずかしくてぎゅうっと思い切り目を瞑っていたのだけれど、彼に小さく名前を呼ばれてそっと目を開いてみた。すると、今まで見たことがないくらい真っ赤になって真剣な顔をした彼がいた。


「真は……俺と、したい?」

「うん……?何を……?」

「……セックス。」


わたしはぴしっと固まってしまった。いつもは可愛らしく、エッチの練習しよっか、なんて照れ照れしながら言ってくるのに、こんな露骨に表現されるのは初めてで。きっと真面目な気持ちでお話がしたいのだろうと察したわたしはしどろもどろになりながら彼の気持ちに応えることにした。


「セッ……!?え、エッ……!?えっと、こ、高校生、だし、まだ早……」

「今すぐとかじゃなくて。俺と……セックス、したい?」

「え、っと…………う、うん……い、いつか、ま、猿夫くんと、したい……よ……?」

「そっか……良かった……」


彼がそっとわたしの熱い頬に触れたら、突然のことで身体がびくっと跳ねてしまった。なんでこんなことを聞くんだろう、と少し怖くなって、壁側にある大きな猿のぬいぐるみを手に取ってぎゅうっと力一杯抱きしめた。少しシーンとして間が開いたから、わたしは頬に置かれた猿夫くんの手を触って、指を絡めてきゅっと繋いだ。


「あ、あの、なんで……」

「ああ、急にごめんね。真は俺が練習したいなんて言ったから夜はいつも俺に付き合ってくれてるのかなって。本当に真もしたいと思ってくれてるのかな、って気になって。あ、疑ってるとかじゃないよ。俺、自分が好かれてるなぁってすごい思ってるよ。」

「え、えっと、も、もちろん、わたしも、したいなって思ってる、よ。」

「うん、知ってる。去年の夏、一生懸命話してくれたもんね。けど、確認したくて。」


猿夫くんはすごく切なそうな顔をしていて、わたしは胸がキュンとして、すぐにでも彼に抱きつきたくて、ゆっくりゆっくり起き上がった。彼はとても心配してくれて、逞しい腕でしっかりとわたしの身体を支えてくれた。ベッドに腰掛けて、じいっと彼を見つめてみる。目で、抱っこして、と訴える。すると想いが通じたのか、彼は胡座をかいて、どうぞと腕を広げてくれた。わたしはちょっと待っててね、と彼の後ろで部屋着に着替えてから、正面から彼に跨ってぎゅうーっと抱きついた。すると猿夫くんは小さく、うぐっ、と苦しそうな声を上げた。


「ご、ごめんなさい、重たかった……?」

「いや……真、お願いがあるんだ。」

「えっ、なに?」

「ココ、触ってみて。」

「えっ……え、えぇ!?こ、ココ、って……」

「ダメ?」

「う、う、ううん……わ、わかった。」


ココとは、猿夫くんの……男のひと特有のソレのことで。これまで何度か一糸纏わぬ生まれたままの姿で抱き合ったり触れ合ったりしたことはあるけれど、それは決まって必ず真っ暗な時。彼の筋肉質でガッチリした逞しい身体に抱かれている時はわたし自身も裸なわけで。しかも毎回、彼の愛撫で乱れてしまうから羞恥の気持ちでいっぱいになっていて、彼のソレを強く意識したことは皆無に等しかった。けれど、明るい時間にソレを意識させられるとやはりじいっと凝視してしまう。わたしは彼のズボンの上からそっとそこに触れてみた。……太くて、硬くて、ちょっと熱い気がする。


「嫌だったら触らなくていいからね、無理しないで。」

「う、ううん、大丈夫だよ。猿夫くんの、だから……」

「ありがとう、怖くない?大丈夫?」

「うん。猿夫くんは?痛かったり気持ち悪かったりしない?大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう。」


彼はわたしをぎゅっと抱きしめて、背中や腰をとんとん、さすさす、と優しく触ってくれている。なんて優しいんだろう……わたしはつんつんと触っていた彼のソレをなでなでしてみた。すると彼は、んんっ、とくぐもった声を出した。嫌だったのかなと慌てて手を退けたのだけれど、わたしの気持ちを察してくれた彼は、好きに触ってみていいよ、とわたしの手をもう一度そこに誘導した。つんつんしたり、なでなでしたり、軽くきゅっと握ってみたり。チラッと彼を見上げるととても熱っぽい目でわたしを見つめていた。


「次に練習するときにさ、俺のソレ……触ってくれる?」

「……えっ?」

「真には嘘つきたくないから、正直に言うね。」

「う、うん。」


こんな前置きをされたら目を大きく開ける必要なんてなかったのだけれど、わざわざ前置きをするということは婉曲的に目を開けろという合図だろう。わたしは目を大きく開けて、じいっと彼の目を見つめた。


「今日、赤ちゃんができたって言われたとき、正直焦った。セックスしたことないのに、って。責任取れるまで我慢しようって決めてたのに、真の心も身体も傷つけてしまったのかもしれない、って。」

「そ、そんなこと!あれはわたしの勝手な思い込みで……ご、ごめんね、猿夫くんを悩ませて困らせちゃって……」

「真はいつも優しいね。俺、好きだよ、真のこと。何よりも大事で、誰よりも愛してる。」

「そ、そんな……でも、嬉しい……」

「だから、ね。お互いの心と身体の準備ができたら……真と心も身体も愛し合いたい。でも、男は気持ち良くなって終わりかもしれないけど、女の子はそうじゃない。痛かったり怖かったり、その、妊娠とか、生理とか、色々リスクがあるよね。」

「う、うん……?」

「ごめん、言いたいことが上手くまとまってないね。要するに、俺は真を抱きたい。愛してるから、愛し合いたいから、愛のある優しいセックスがしたい。気持ち良くなりたいとかじゃなくて、ただ、心と身体、全部でキミと繋がりたい。」

「ま、しら、おくん……え、えっと……わたし……あの、その……」

「急にごめんね。大丈夫、いつも通り、返事はすぐじゃなくていいんだよ。それにやっぱ責任取れるようになってから、ってのが現実だし。でも、俺の気持ち、聞いといて欲しかったんだ。聞いてくれてありがとね。」


猿夫くんは自分の想いを捲し立てるようにぶつけてくれた。わたしはどぎまぎして何も言えなくて、ただ彼にぎゅうっと力一杯抱きついただけだった。それでもわたしの想いは伝わったのか、彼は満足気に微笑んでくれて、わたしの唇に優しくキスをしてくれた。彼の真摯な気持ちに応えたくて、わたしはありったけの勇気を振り絞って、彼の耳元でこう囁いた。


「す、すてっぷあっぷ、する?」

「……えっ?」

「い、いつも、気持ち良いコト、し、してもらって、ばっかりだから……」

「そ、それって……?」

「わ、わたしが、猿夫くんを、気持ち良く、し、してあげたい……だから、お、教えて?お、男のひとは、ど、どうしたら、気持ち良く、なるの?」

「……次の夜。」

「うん?」

「次の夜、色々教えてあげる。」

「う、うん!わたし、頑張る!」


猿夫くんに自分の気持ちが伝わったことが嬉しくて、両手を頬に当てて、思わずやったー!と言いながらにまーっと笑ってしまった。彼は目をぱちくりさせて、いつものようにくつくつ笑ってくれた。


「……笑ってくれて良かった。やっぱり真の笑顔は最高に可愛いね!」

「きゃんっ!ま、猿夫くんっ!く、苦しいよう!」

「ご、ごめん!可愛くてつい……」





すてっぷあっぷ




「で、でも、わたしにできるかな……」

「大丈夫、いてくれるだけで幸せだから。」

「わ、わたしも……猿夫くん、だいすき……」

「俺、本番までもつのかな……可愛すぎて、好きすぎて、襲ってしまわないか不安だ……」

「そ、そうならないように、す、すてっぷあっぷ、していこう?」

「……ステップアップするとそうなっちゃうかもしれないんだよ。」
 



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