お誕生日おめでとう
「はあ……どうしよう……」

「ん?真、どうしたの?」

「何か悩み事?」


体育祭も終わり、慌ただしい4月はあっという間に過ぎ去った。もう5月に入って何日か経っており、今日は連休のとある一日。わたしは親友達と街に遊びに来ていた。今はカフェで優雅にケーキと紅茶をいただいている。ちなみに5月といえば28日は恋焦がれる彼の誕生日なわけで。そう、つまりわたしは誕生日プレゼントに何をあげるかという悩みを抱えているのだ。


「あのね、月末あたり、猿夫くんのお誕生日なの。」

「ああ、それで。プレゼントに悩んでんだ?」

「うん……」

「うーん、真ちゃんがくれた物なら何でも喜ぶと思うよ。彼、真ちゃんにメロメロだし……」

「め、めろめろ……は、恥ずかしいっ……」

「あんたもじゅーぶんメロメロだこと……」


メロメロ、なんて言われてしまって、あんな素敵な人がわたしなんかを好きでいてくれてるんだと思うと顔がとても熱くなってしまった。二人はニヤニヤしてわたしをじーっと見ている。


「首にリボンでも巻いて私がプレゼントですって言えば?」

「だ、だ、ダメ!そんなのダメだよお!」

「じゃあキスでもしてあげれば?」

「キッ……!?む、無理無理無理!まだ、そんなの……恥ずかしい……」

「うーん、服とかは?」

「え、えっと、それは考えたけど、尻尾があるからテキトーに選べないの……」


二人に相談してみたけれど結局答えは出なくて。カフェを出て、何かインスピレーションを受けられないかとしばらくウインドウショッピングに勤しむことにした。三人でいろんなお店に入って、いろんなものを買ったり見たりと買い物を楽しんだ。そして最後に雑貨屋さんに入ることになった。雑貨屋さんの中は女の子らしいファンシーなコーナーだけでなく、スポーツ用品コーナーや男の人用の服のコーナーもあった。わたしは二人に一言添えて、男の子用の品物を見て回った。わたしは彼からとても可愛い林檎のバレッタをもらったことがあるけれど、彼もこんな風にわたしのことでいっぱいになりながら選んでくれたのかと思うと恥ずかしくて、嬉しくてたまらない。


彼のことで頭をいっぱいにしながらぼーっと商品を眺めていたら、ふと目に留まった物があった。彼の綺麗な金髪と同じ色のスポーツタオルと格闘技用の黒いグローブが隣同士で並んでいた。格闘技といえば武術が好きでトレーニングを趣味としている彼にぴったりだ。それに確か彼は近接戦闘型だって言ってたっけ。わたしはその二つをそっと手に取って、ラッピング材も一緒にお会計を済ませた。


親友達に無事にプレゼントを買ったことを伝えて、夕飯前に解散した。家に帰ってからは夕飯やお風呂を急いで済ませてプレゼントにラッピングを施した。手先があまり器用じゃないからスマホで何度もラッピングの動画を見ながら、タオルとグローブをそれぞれ透明袋に入れて、パステルイエローの包装紙で綺麗に包んで赤いリボンをかけた。後は誕生日に渡すだけだ。





それから数日経ち、彼の誕生日の前日になっていた。猿夫くんと手を繋いで学校へ行って、帰りも昇降口で待ち合わせして手を繋いで帰った。いつも通りお家まで送ってくれたのだけれど、彼はじーっと熱っぽい目でわたしを見つめたままその場を動こうとしない。実は先日ここでわたしが彼の頬にキスをして以来、稀に頬へのキスを要求されるときがある。要求といっても言葉には出さず無言の要求なのだけれど。だけど流石にお外では恥ずかしくて。ちらっと時計を見たらまだそんなに遅くない時間だったから、一緒に宿題でもする?と声をかけて部屋に上がってもらうことにした。


一緒に宿題を片付けて、チラッと彼の顔を見たら彼の視線はわたしの勉強机に釘付けになっていた。そこにはわたしがラッピングしたプレゼントが置かれていて。本当は明日渡そうと思っていたけど、せっかくだからと思ってわたしは立ち上がってプレゼントを手に取って猿夫くんにずいっと差し出した。


「え?これって……」

「明日、お誕生日でしょ?」

「あっ……そ、そっか。俺、てっきり真が誰か男子からプレゼントもらったのかなって……」

「えへへ、猿夫くんへのプレゼントだよ。1日早いけど……猿夫くん、お誕生日おめでとう。うまれてきてくれてありがとう、だいすきだよ。」

「真……ありがとう、俺、すごく嬉しいよ……」


彼は少し涙目になりながら、でも笑顔でプレゼントを受け取ってくれた。一旦プレゼントを置いた彼は膝立ちになってわたしをぎゅっと抱きしめた。わたしも彼の背にそっと腕を回してぎゅうっと抱きしめ返した。しばらくぎゅーっと抱きしめ合って、自然に身体を離して目をぱちっと合わせたら彼はとても嬉しそうに微笑んでくれた。もっと彼に喜んでもらいたいと思ったわたしは一歩前に出てそっと呟いた。


「猿夫くん、明日はお誕生日だから……特別、だよ。」

「えっ?」


わたしは彼の両肩に手を置いて、顔を近づけた。頬ではないけれど唇でもない、ちょうど唇の真横にそっと口付けた。ちゅっと音がして恥ずかしくなったわたしは熱くなった頬に両手を当ててぎゅっと目を瞑った。その瞬間すぐに彼に思いきり抱き寄せられて片手をぐいっと外されて、今度は彼から同じ場所に口付けをされた。


「まっ…………」

「……特別、なんでしょ?だから、俺も、してよかった……よね?」

「う、う、う、うん…………」


お互い真っ赤な顔を見合わせてじーっと見つめあっていたら同時に、林檎みたいだねと言ってしまってクスクス笑い合った。それから彼はプレゼントをチラチラと見ていたから、どうぞと言ったら綺麗にかけたラッピングをとても丁寧に解いてくれた。ふわふわのタオルとかたいグローブをそれぞれひとつずつ手にとって、目を輝かせてまじまじと見つめて、わぁ……と声を漏らす彼はまるで子どものようで笑顔がとても可愛らしくて、思わずわたしも満面の笑みを浮かべてしまった。


「本当にありがとう。大事に使うよ。」

「うん!喜んでくれて良かった!」

「……最高すぎない?」

「うん?」

「だってさ……」





お誕生日おめでとう




「好きな女の子から誕生日を祝ってもらって、プレゼントまでもらって、そのうえキスまでしてもらえて、しかも好きな女の子の極上の笑顔が見られるなんて、最高だと思わない?」

「えっ……えっ、と……あ……う…………」

「ちょっとキザだったかな……でも、本音だし。ちゃっかり目大きくしてるからわかってるよね?」

「う、う、う、う、うん……え、えっと……お、お誕生日、お、おめでとう……す、すき、だよ……」

「ありがとう、俺も好きだよ。」



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