考えればわかる
春休み初日のこと。冬はインターンがあったり、つい先日まで期末試験もあったりと、なんだかんだで彼と長く一緒にいられる時間がなかなかとれなかった。わたしがとても寂しがっているのをわかってくれていた彼は、今日と明日はずーっと一緒にいようねと前からお約束してくれていて、今日は久々に彼とお外でデートをすることに。


親友に髪の毛を綺麗に結ってもらい、軽くお化粧を施してもらって、ゆったりめの白いトップスにピンクの花柄のミニスカート、青いジージャンを羽織って、早く彼に会いたくてA組の寮まで足を運ぼうとD組の寮を出たら、外にはソワソワした様子の大好きな彼がいた。


「猿夫くんっ!待ってくれてたんだあ……嬉しいっ!」

「真っ、早かっ……た……」

「……?どうしたの?」

「あっ、い、いや、今日も、その、か、可愛いね……き、気絶しそうなくらい……」

「やっ、やだもう!褒めても何も出ないよ!」


もう一年も付き合っているのに、いつまでも付き合いたての初々しいカップルのような反応だから困ってしまう。熱くなった顔に両手を当てて下を向いていると、外に出てきたD組の人達から、またやってるとか、相変わらずだねとか、学内一のラブラブカップルだとか茶化されたのがとても恥ずかしくて、わたしは彼の手を引いて一目散に校外へと走った。ちなみに外出届は昨日から出しているから大丈夫。


「えっと、あのお店にお昼食べに行きたいんだっけ?」

「うん、あのお店はケーキだけじゃなくてランチもとっても美味しいの。今日はジェノベーゼパスタとフルーツタルトのセット食べるんだ!」

「あ、そのパスタ聞いたことないかも。俺も同じのにしようかな。」

「うん、オススメだよ!」


ふたりで指を絡めて手を繋いで長い距離を歩くのは少し久しぶりだからとてもどきどきする。たくさんお話しながら、わたしのお気に入りのお店へと向かった。久々に来店しても店員さんはわたしのことをよく覚えてくれていた。わたし達はお揃いのメニューを注文して、まずジェノベーゼパスタを一緒に食べた。猿夫くんは緑色のパスタにとても興味津々で、お口にもあったみたいですごく美味しいと言ってくれて安心した。その後、彼と初めて来た時に親切にしてくれた店員さんがタルトをお出ししてくれたのだけれど、サービスだよってわたしと彼のお皿にマカロンをふたつずつ添えてくれた。


ふたりで一緒に美味しいタルトとマカロンを平らげた。やっぱりここのスイーツは最高に美味しいけれど、師匠のスイーツも負けてないなあなんて思ったり。お会計ではやっぱり彼が自分が出すってきかなくて。お言葉に甘えたけれど、お店を出た後で周りに誰もいないことを確認して、わたしは彼の袖をくいくいっと引っ張った。


「あ、手繋ごうか。」

「えっと、あのね、その前にね、お耳、貸してほしいの。」

「うん?何かな?」


背が低いわたしのために彼が少し屈んでくれたから、わたしは彼のお顔に手を添えて唇にちゅっとキスをした。


「えへへ、ケーキごちそうさまでした!ありがとう!」

「こ、こちらこそ、ご馳走様です……」


彼がお顔も尻尾も真っ赤にして照れていたから、可愛いと言ってクスクス笑ってしまったら、拗ねてしまったのかぷいっとそっぽを向いて歩き出してしまった。けれどわたしの手をしっかり握ってくれているし、歩く速度もわたしに合わせてくれているのがとても優しいなあって胸がキュンとしてしまう。もっと彼に甘えたいと思って、手を繋いだまま反対の手も添えて彼の腕にぎゅうっと絡みついたら、彼は小さく溜息を吐いてしまった。嫌だったのかな……


「嫌じゃないよ、可愛いすぎて困るなって思っただけ。」

「えっ……?」

「今、嫌だったのかな、なんて思ったでしょ?」

「う、うん、なんで……」

「考えればわかるって。嫌なわけないからさ、遠慮しないでいいよ。俺も嬉しいから……」

「う、うん!嬉しいっ!」


わたしがニッと笑ったら彼も目を細めてニコッと笑ってくれた。それからまたたくさんお話をしながら街中まで移動して、ゲームセンターで猿のぬいぐるみをとったりいろんなゲームで遊んだり、本屋さんでおすすめの本を教えあったり、雑貨屋さんや文房具屋さんで必要な物を買ったりした。あっという間に楽しい時間は過ぎてしまって、日が少し傾いてきた。アイスを食べて帰ろうかってことになって、お昼のお礼に今度はわたしが出してもいい?って聞いたら、お言葉に甘えます、と優しく微笑んでくれた。わたしの気持ちを汲んでくれて、こうして譲歩してくれるところもとても優しいなあとキュンキュンしてしまう。


「あれ?今日は林檎アイスにしないの?」

「うん、わたしもバナナアイス食べてみたいなあって。」

「あ、俺も林檎アイス食べてみたいかも。」

「えへへ、今日も同じだね。」

「うん、同じだね。」


店員さんに注文して、ふたりで顔を見合わせて笑ってたら、元気な男性の店員さんからアイスが溶けちゃいそうなくらいアツアツだね!なんて揶揄われてしまった。恥ずかしくて頬に両手を当てたら、猿夫くんからも店員さんからも林檎みたいだねなんて言われて余計に恥ずかしくなってしまった。


お会計を済ませてアイスを受け取って、席についてスプーンでアイスをぱくぱく食べた。バナナアイスは甘くてすごく美味しい。けれど、少しだけ林檎の酸味が恋しくなった。そんな時、彼がわたしの口元に林檎アイスをのせた自分のスプーンを差し出してきた。


「林檎アイス、食べたいって思ってたでしょ。」

「えっ!?な、なんで!?」

「くくっ、わかるって言ったでしょ。」

「猿夫くん、以心伝心の個性だったの……?」

「考えればわかるってば。ほら、口開けて。」

「あ、あーん……えへへ、美味しいっ!」

「ん、良かった。俺も美味しいよ。」

「あ、林檎アイスの方が好きなの?」


俺も美味しいよ、なんて言うから林檎アイスのことだと思って聞いてみたのに、彼は一瞬動きが止まって、徐々に林檎みたいに真っ赤なお顔になってあーとかうーとか唸り出した。


「……?どうしたの?」

「いや、心の声が出そうになって……」

「えぇ!?教えてよ!」

「ダメ。恥ずかしいから。」

「…………わ……」

「うん?」

「わ、わたしの……え、笑顔が、美味しい、とか……?」


彼が考えそうなこと……と少し思考を巡らせて、冗談のつもりでぼそっと呟いたら、彼はガタッと立ち上がった。お顔はもちろん、尻尾の先っぽまでまるで燃えてるように真っ赤になっている。


「ッ…………!?」

「え!?そ、そうなの!?」

「な、な、なんで……!?」

「な、なんとなく、猿夫くんならそんなこと、考えちゃうかな、って……」

「……そ、そう、なんだ…………」

「え、えっ、と……」


猿夫くんは静かに席について、お互いすごく恥ずかしくなって無言でアイスを食べ続けてしまった。全部食べてからごみを捨てて、帰ろうかって言おうとしたら彼は無言でわたしの手を握って人通りの少ない道へゆっくり歩き出した。それから少し暗い所に入って、周りに人がいないことを確認した彼はわたしをぎゅっと抱きしめて、頬に手を添えてきた。ぴんときたわたしが軽く目を閉じると、唇にちゅっとキスをされた。


「アイスご馳走様でした、ありがとう。」

「わ、わたしの方こそ、ごちそうさまです……」

「くくっ、林檎みたい。ほら、帰ろう。」

「うん、帰る!」


猿夫くんと指を絡めてぎゅっと手を繋いで、今日のことを話したり、明日は何をしようかと予定を立てたり、たくさんたくさんお話しながら学校までの道をゆっくりゆっくり歩いて帰った。





考えればわかる




「真、夜は何したい?」

「うーん……あ、当ててみて。考えればわかるんでしょ?」


わたしはせっかく時間があるから百ちゃんや上鳴くんたちと一緒にゲームやトランプをして遊びたいなあなんて考えながら、彼をじーっと見上げていたのだけれど。


「…………エッチの練習?」

「……!?わ、わたし、そんなはしたないこと考えてないもん!ばか!えっち!最低!わたし、先に帰る!」

「じょ、冗談だって!ごめんって!わかった!真が風呂入ってる間にトランプ用意しとくから!」

「……!!うん!だいすき猿夫くんっ!」

「今日はお預けか……はぁ……」




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