ふたりのこれから
「真、ハンカチ持った?」

「うん、あるよ。」

「受験票は?ペンケースは?忘れ物ない?」

「えへへ、もう1回一緒に見てくれる?」

「もちろん、えーと……」


明日は受験の日なのだけれど、猿夫くんはわたしよりもどきどきしてて物凄く心配してくれている。学力的には模試でも何度も上位に入っているし、余程のことがなければ大丈夫だろうとわたしはあまり緊張していなくて、もっと緊張感を持つべきだなんて言われたくらいだ。最終確認も終えて、あとは明日を待つだけ。彼は不安そうな顔から一変して真剣な顔つきになって、わたしと目を合わせるとふわりと柔らかく笑ってぎゅっとわたしを抱きしめてくれた。


「真ならきっと大丈夫、応援してるから。自分の力を出しきって、後悔のないように頑張るんだよ。」

「うん!ありがとう、精一杯頑張る!」

「うん、じゃ、俺、部屋に帰るね。おやすみ……」

「おやすみなさい……」


彼の手がそっとわたしの頬に添えられて、おやすみのチューをした。いつもよりだいぶ早い時間にお別れして、明日の予定をもう一度確認して、目覚ましをセットして早い時間にベッドに入った。





翌朝、予定通りの時間に起きて準備をして、制服の上から買ったばかりの白いピーコートを着て、いつも通りリュックを背負ってベルトをしめた。外に出ると制服姿の猿夫くんがちょうどお見送りに来てくれたところだった。いってきますのチューをして、わたしは受験先に向かった。





大学受験は今日1日で無事に終わった。幸い数学は比較的できる問題が多かったし、他の科目はいつも通りの力を発揮できた。学校に帰ったら正門のところで猿夫くんが待っていてくれて、お疲れ様!どうだった?と真剣に声をかけてきたから、しっかりやれた旨を伝えた。彼は自分のことのように喜んでくれて、ご褒美を用意してあるから、とお部屋に招待してくれた。


夕飯やお風呂を終えてから猿夫くんのお部屋に行くと、美味しそうなケーキと紅茶を出してくれた。師匠と百ちゃんからいただいたんだって。ふたりで美味しく平らげて、少し早いけど寝る支度を済ませてふたりで一緒に彼のベッドへ。受験が終わったからえっちなことをされちゃうのかな、と少しどきどきしていたけれど、ぱちっと目があったときに、疲れてるだろうから今日は何もしないよ、と言ってくれた。正直頭がぼーっとしてたからお預けで良かったとほっとしたのは秘密だ。





今朝もとても早い時間に目が覚めた。起き上がろうとしたけれど、猿夫くんとがっちり抱き合っているから動けない。彼はすぅすぅと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。あどけない寝顔……普段の男らしくて逞しい姿とのギャップに胸がキュンとする。顔が熱くなってきて、思わず頬に手を当てようともぞもぞと動いてしまったら彼がゆっくり目を開けた。


「起こしちゃった?ごめんね。」

「おはよう、今日も可愛いね……」

「もう……起きてすぐそれ?」

「天使が……いるみたいだ……」

「……ばか。」


そっと頬に手を添えられたから黙って目を閉じた。おはようのチューをして、着替えて朝ご飯を食べに行ったら、緑谷くんから今日も仲が良いねと言われてしまって。ふたりして照れてたら、峰田くんから真冬なのに熱さ全開にすんじゃねー!と揶揄われてしまった。


お昼からは今まで一緒にいれなかった分を埋めるようにぴったりくっついて過ごした。わたしは大好きな読書、彼は課題をこなしていて、ちょっとお手洗いに行こうと席を外そうとするだけでどこに行くの?と聞かれて、早く抱きしめたりキスしたりそれ以上のこともしたいという彼の気持ちがありありと伝わってきてなんだかとても恥ずかしい。


「猿夫くん、ずっと応援してくれて、待っててくれてありがとう。でも、もう少し、お預けがいいな……?」

「うん、俺も真がしたい時がいいな。」

「えへへ、優しいところ、だいすきだよ。」

「ありがとう、俺も大好きだよ。」


こうして数日、彼と一緒に穏やかな日々を過ごした。彼は卒業後に都内のヒーロー事務所に就くことが決まっているから、それに備えて勉強やトレーニングを重ねている。





それからまた数日経って、ついにわたしの大学受験の結果が発表された。結果は無事に合格。家族はもちろん、彼は涙するほど喜んでくれて、わたしももらい泣きしてしまった。


高校生活はあと少し。わたしと猿夫くんが一緒に過ごす時間は確実に減ってしまうだろう。お互い慣れない生活が続いてしばらく会えなくなる日もあるかもしれない。けれど彼を信じて、これからもふたりで、同じものを見て、同じ気持ちで、同じ足取りで一緒に歩んでいきたいなあ、なんて思いながら熱くなった頬に両手を当てていたら、俺の話聞いてた?なんて言われて全然聞いていなかったのがバレてしまって、悪い子にはお仕置きしなきゃ、とひょいと抱き上げられて、優しくベッドにおろされてしまった。





昨晩、彼と肌を重ねるのは久々で、彼の匂いや体温に包まれる心地良さに酔いしれてしまった。常日頃から全てを溶かしてしまうような熱い愛情をたっぷり注がれているはずなのに、この時間だけはどうしてかいくら愛を注がれても足りないと感じてしまう。きっと、心だけじゃなくて、身体も彼を求めてしまっているからなのだろう。彼が責任を取れるようになるまでは最後まではしないと約束してくれたし、わたしもまだ早いとか怖いとか色んなことを考えてしまっているから、そうした行為をするのはきっとまだまだ先になる。


ふたりのこれからはわたし達にもわからない。もしかしたら彼に嫌われちゃう日が来るかもしれない、わたしが彼を信じられなくなる日が来るかもしれない。だけど、彼となら、尻尾のヒーローとなら、どんな困難も手を繋いで一緒に乗り越えていける気がする。隣に座っている彼の尻尾をぎゅっと抱きしめたら彼はびくっと身体を跳ねさせた。


「わっ、どうしたの?寂しくなった?」

「ううん……だいすき、って思ったの……」

「そっか、ありがとう……俺も真が大好きだよ。」

「うん……知ってる……」

「俺、早く、みんなを笑顔にできるような立派なヒーローに……真を守れるような一人前の男になるから、だから、今度は真が待っててくれる……?」

「うん、ずっとずっと待ってる……」


彼はわたしを優しく抱きしめて、頬に手を添えてくれた。





ふたりのこれから




「真、大学に行っても俺のこと好きでいてくれる……?」

「どこに行っても猿夫くんのことだいすきに決まってるよ。わたしの王子様で、ヒーローなんだから……」

「……俺、頑張るよ。真とずっと一緒にいるために。」

「うん、応援してる。わたしも、ずっと一緒にいたいな……」




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