約束のちゅー
模試が終わって、今日は一日ゆっくりしたいなと思って学校敷地内をお散歩していると、買い物袋をたくさん持った師匠と峰田くんにばったり出会した。師匠から、寮で宿題の休憩がてらにお菓子パーティをするから来ないか?と誘われて、A組寮の共同スペースへ一緒に行くと、猿夫くん、轟くん、上鳴くんがいた。男の子ばかりなのが恥ずかしくて遠慮しようとしたのだけれど、猿夫くんの尻尾の先がしゅんと垂れてるのを見るとお断りなんかできなくて。わたしは少し小さくなりながら彼の隣に座って尻尾をぎゅーっと抱きしめた……までは良かったのに。


峰田くんが注いでくれたジュースをぐいーっと飲むと、なんだか身体はぽかぽか、頭はぐらぐら、それにふわふわしてきて、おまけに喋るのも億劫になってきた。


「真?ぼーっとしてどうしたの?大丈夫?」

「…………猿夫くん。」

「うん?」

「……えへへ、だぁいすき。」

「ッ……!!お、俺も、好きだよ……い、いきなりどうしたの?」


猿夫くんが心配そうな顔でわたしの顔をじいっと覗き込んできた。動いている薄い桃色の唇に自然と目がいく。なんだか、とても、美味しそう……キス、したい、な。


「ちゅー。」

「え?」

「ちゅーして。」

「……えっ、ええ!?こ、ここで!?」


猿夫くんは尻尾をぴんっと伸ばしてびっくりしている。キスなんて、いつも数え切れないくらいチュッチュチュッチュ音を立てて何度も何度もしてるのに……


「ちゅー!」

「あ、後でね?ほら、みんな見てるから……」

「……えへへ、約束だよ。約束のちゅー。」


わたしは彼の両頬を掴んで、後でキスをするための約束のちゅーをした。ちゅっとリップ音がして、ぽっと彼の頬が林檎のように赤くなった。普段はあんなにかっこいいのに、今日の彼はなんて可愛らしいんだろう。わたしも頬がじゅっと熱くなったから、両手を当ててしまって。なんだか恥ずかしくて、えへへと笑って誤魔化したけど、その場の空気はとてもシーンとしてしまって。


「な、生のキスシーン……お、俺、初めて見た……」

「オ、オイラも……」

「お、お前ら……」

「……尾白、統司、そーゆーのは、二人の時にしてくれ。目のやり場に困る。」


わたしはみんながいることを忘れて猿夫くんにキスをしてしまった。照れ照れした猿夫くんから、キスをするために約束のちゅーをしたら後でする意味がないじゃないか、と指で額をとんっと突かれてしまったら、なんだか視界がぼんやりと歪んで、そのまま後ろにぽすんと倒れてしまった。猿夫くんがとても驚きながらわたしの名前を呼んでいる。どこも痛くはないけれど、なんだか身体がくったりして力が入らない。


「真!?ごめん!痛かった!?どうしたの!?」

「えへへ……ふわふわ、して、なんだか、くらくら、するの……」

「……!?こ、これ、酒の匂い……!?」

「えっ!?……うわっ!わ、悪い尾白!オイラ、統司ちゃんが林檎好きだと思って林檎ジュース注いだつもりが……!」

「何!?酒!?なんでこんなところにあるの!?」

「わ、悪い!俺が間違ってカゴに入れちまったんだわ……!」


そっか、わたし、師匠が間違えて買ってきちゃったお酒を飲んじゃったんだ。だからこんなに身体がぽかぽかして、ふわふわして、ちょっぴり熱いんだ……それに、なんだか、今、すごく……えっちなこと……したい……


「猿夫くん……」

「なに?具合悪い?部屋に行って休む?」

「うん……猿夫くんの、お部屋、行きたい……」

「わかった。部屋でゆっくり休むといいよ。みんな、ごめん、ちょっと席外すね。」


猿夫くんはわたしをお姫様抱っこしてくれたから、わたしは彼の首にぎゅっと腕を回して彼に密着した。彼の体温と匂いのおかげで気持ち良さが倍増して少しだけうとうとしてしまう。


「統司!悪かった!」

「統司ちゃん、ごめんな!」

「えへへ、大丈夫だよ……猿夫くん、だーいすき。」

「わっ、わかったから!ね、みんな見てるから、さ……そ、その、恥ずかしいから、ね?」

「はぁい……我慢する……だから、後でたくさんちゅーしてね?」

「……そ、そういうこと言わないの!ほら、行くよ!」

「はぁーい。」

「はぁ……これが酔った真……可愛すぎる……」


猿夫くんに抱っこされながら三階の彼のお部屋へと移動した。ベッドにそっとおろされて、彼は約束通り私の額に、頬に、そして唇にキスをしてくれた。顔を離した彼はわたしの頬に指を滑らせて、ゆっくりおやすみ、と言ってもう一度唇におやすみのちゅーをしてくれたのだけれど。


「……ッ!?んんっ!?真っ……!?」

「んぅ……んちゅ……」

「んむっ…………ん……っは、はぁ……」


触れるだけのキスになんとなく満足できなくて、わたしは彼を逃がさないよう、力の入らない腕を首に回して思い切り引き寄せた。驚いた彼の口が開いたからすかさず舌を捻じ込むと、彼は驚きながらもゆっくりねっとり舌を絡めてくれた。唇を離すと透明な糸がわたし達を繋いでいる。今、わたし、彼に、抱かれたい……


「真……可愛いよ……」

「……えへへ、ね……抱いて……?」

「うん……って、はぁ!?」

「猿夫くんの……おっきいの……ちょーだい……?」

「おっ……!?真、本当に大丈夫!?俺、心配だよ……」


なんだか頭の中がぐらぐらと沸騰してるような熱さを感じていたわたしは、自尊心やら羞恥心やらも溶けてしまっていたようで。自分で自分の熱くなったカラダをぎゅうっと抱きしめて、早くくださいと言わんばかりに熱い眼差しを彼に向けた。彼の細い目を見ていると、下腹の奥がきゅんっと疼く。わたしの心だけじゃなくて、カラダも、彼を、欲しがっている……


「ね……ちょーだい……」

「お、俺だって、挿れたいよ……」

「早く……挿れて……ほしい……」

「ッ……!!や、やっぱ無理だっ……!!」


猿夫くんはガバッとわたしに覆い被さって、わたしの唇に噛み付く様にキスをしてきて、舌を捻じ込んできた。彼に抱きつこうとしたけれど、手首を思い切り掴まれてベッドに押し付けられている。襲われてる、ってことなのかな……抱きつきたくて抵抗しているものの、さすが男の子だ、びくともしない。ちゅっと音を立てて唇が離れると、彼は呼吸を荒げながらわたしの衣服をひん剥こうとしたのだけれど。ぴたっとその手が止まった。


「……?どーした、の?」

「……ご、ごめん!俺、なんてことを……!!」

「えっ?」

「受験が終わるまで、えっちなことはしないって約束してたのに……!!」


……うん、確かに、約束してた。ぼんやりとだけど、思い出せる。


「……えへへ、そーだったねえ。」

「ごめんね……欲に任せて彼女を襲うなんて……俺、最低だ……」

「……襲っていーのに。」

「えっ?んむっ!」


尻尾の先をしゅんと垂らしている猿夫くんの両頬を掴んで、勢いよくお互いの唇をくっつけた。ちゅっと良い音がして唇が離れた途端に彼の尻尾は元気にぶんぶんと動き始めた。


「はぁ、全く……キミには敵わないよ……真、受験頑張ってね。俺も自分のこと頑張るけど、応援も頑張るからさ。」

「うん、頑張る……だから、受験、終わったら、わたしのカラダ……すきに、して、ね……?」

「ッ……!!覚悟しといてよね……心も身体も、めちゃくちゃに愛してあげるよ。」

「うん……たくさん、あい、して……」


なんだかとても、ねむ、たい…………


彼はわたしの末端まで熱くなった手を強く、優しく、ぎゅーっと握ってくれていた。遠のく意識の中、唇に柔らかくて優しい感触を感じた気がした。





約束のちゅー




「真……俺、最後までするのはちゃんと責任取れる様になるまで我慢するからさ……」

「…………」

「だから、その、卒業して、最初はあんまり安定しないかもしれないけど、いずれ、その……」

「…………」

「お、俺と、け、結婚……して、くれる……?」

「すぅ……すぅ……」

「……ね、寝てる!?このタイミングで……!?仕方ない……勝手に約束のちゅー、させてもらいます。」



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