「真、どうしたの?そんなにずーっとスマホばっかり見て……」
「んー……ゲームしてるの。」
普段あまりスマホを見ない真がここのところ珍しくスマホにかじりついている。ゲームをしているとのことで、俺にも見せてと頼んだらスッとスマホの画面を見せてくれた。
「育成ゲーム、かな……?」
「うん、ガチャで動物を集めて、自分だけの動物園を作るゲームなの。」
「動物好きなの?」
「うん!大好き!」
「そうなんだ……どんな動物園作ってるの?」
「見ていいよ、はい、どうぞ。」
「ん、ありがとう。」
適当にタップしてみると、トラやシマウマ、羊にヤギ、キリン、ゾウといった比較的大きめの動物や、ハリネズミやウサギ、リスのような小さめの動物がわらわらと溢れていた。こんなにたくさんの動物がいるのに、図鑑はまだ半分も埋まっていないのだとか。
「はぁ……もう100連もしたのに……」
「……えっ!?ガチャのこと!?そ、そんなに回したの!?」
「みんな200連とか300連とかしてるよ。中には課金してる友達もいるの……はぁ……」
真はがっくりと肩を落として落ち込んでいる。悲しげな表情もまた綺麗だ。しかし、やっぱり彼女には笑顔でいてほしいわけで。
「課金カード、俺、買おうか?」
「えっ!?だ、だめだよ!わたし、無課金で……自分の運命を信じたいの!」
真は綺麗な目を見開いて、ぐっと握り拳を作っている。なるほど、運命か。そう言われれば、自分の運だけで引き寄せたくなる気持ちもわかる。
「そうなんだ……何か狙ってる動物でもいるの?」
「……!!い、いるけど、教えない!恥ずかしいから!」
「は、恥ずかしいの?何?変な動物なの?」
「へ、変じゃないけど……お、教えてあげない!」
一体何が恥ずかしいのだろうか。今度は両手を林檎のように赤くなった頬に当ててもじもじし出してしまった。可愛すぎて思わず腕が伸びてしまい、小さな身体をぎゅうっとこの腕に閉じ込めた。
「きゃっ……」
「真、好きだよ。」
「う、うん、わたしも、すきだよ……」
俺の首に腕を回してきて、ぎゅうっと抱きついてくれる真があまりにも可愛くて、頬や額にキスをして、唇を何度も何度も重ねた。ちゅっと音を立てて唇を離して、名残惜しくてやはりもう一度、というのを繰り返していると、真のスマホから通知音が鳴った。
「あっ……」
「うん?見ていいよ、ほら。」
「えへへ、ありがとう!」
「わっ!はぁ……本当、可愛いことしかしないんだから……」
真は満面の笑みを浮かべながら俺の頬にキスをして、ニコニコしながらスマホを弄り始めた。そして数秒経つと、またしてもがっくりと肩を落としていた。
「どうしたの?」
「ガチャ……またすり抜けちゃったの……」
「すり抜け?」
「うん、欲しいのとは別の動物が当たっちゃったの……」
真のスマホの画面には虹色の枠に囲まれた動物が4匹もいて、結果としてはかなり良い引きのはずなのだが。彼女は溜息を吐くと、今日は友達と一緒に課題をする約束をしているから、と自室へ戻って行った。本当は帰したくなんてなかったけれど、そんなこと言えるわけもなく。
翌日の昼休み、うっかり古典の教科書を忘れてしまった俺と上鳴は一緒にD組の教室へと向かっていた。丁度教室のドアに手をかけようとした時、教室内からとても大きな真の悲鳴が聞こえた。
「……!!きゃわああああああっ!!き、き、きた!!きたよお!!う、う、うわあああああん!!」
「やったね真ちゃん!!」
「統司すげぇな……驚異の160連……」
「よくもまぁ無課金でここまでやったわね……」
悲鳴に驚いて一瞬動きが止まってしまった俺と上鳴はハッと我に返り、教室のドアをそっと開けたのだが次の真の言葉のせいで俺は注目を浴びる羽目に。
「このお猿さん、本当に欲しかったの……ほら、尻尾が白っぽくて、まるで猿夫くんみたい……はぁ……かっこいいなあ……」
「……統司、その、ヒーロー科の彼氏だっけ、そこにいるよ?」
真の隣の席の男子の一言でその場の全員が一斉に俺と上鳴の方を見た。するとぼんっと音がしたんじゃないかという勢いで顔を真っ赤にした彼女が再び悲鳴をあげた。
「…………きゃわあああああ!!い、い、い、いつから!?ふ、二人とも、いつからいたの!?」
「い、今さっき、だけど……」
「……欲しい動物って猿だったんだ。」
「あ、あぅ、あうう……」
真は顔を真っ赤にしながら隣にいるショートカットの女子の後ろに隠れてしまった。そこからひょこっと顔を出して、チラチラと俺の様子を窺っている。なんて可愛らしいんだろうか。あまりの可愛さに心を奪われてぼーっとしていたら、彼女は林檎っ面でもじもじしながら話し始めた。
「あのね、わたし、お猿さん欲しかったの、猿夫くんに似てるから、なんて言ったら失礼じゃないかな、って思って、あの……」
「全然、そんなことないよ。俺、名前に猿って入ってるしむしろ愛着が湧くかも。」
「本当……?」
「うん。あ、俺も一緒にそのゲームやろうかな、真にそっくりな可愛い動物、いるといいんだけど……」
「……!!やっぱり、猿夫くんは優しいなあ……えへへ、一緒にしよっか……」
真は姿を現して、ちょこちょこと俺の方へ歩み寄ってきた。それから、このお猿さんが欲しかったの!と満面の笑みで見せてくれたのだが、本当に俺にそっくりで自分でもかなり驚いた。まさかモデルにされてしまったのでは、なんて思うほどに。
「ほ、本当に俺に似てるね。」
「うん、だからこのゲーム始めたの!ずっとずっと欲しかったの!」
「そうなんだ、引けてよかったね。」
「うん!えへへ、運命的だよねえ……」
真は真っ赤な頬に手を当てて、ぽやーんとした表情でスマホの画面を見つめている。けれど俺達は周りに人がいたことを忘れていて。
「本当にアツアツだな、お前ら……」
「真、あんたあんなに男嫌いだったのに……あたしは嬉しいよ、うん……」
「学内一のラブラブカップルなんじゃないかな……」
そんな言葉を受け取った俺たちはお互い林檎みたいに真っ赤になって、照れ照れしながら動物園のアプリについてのやりとりを続けながら、小声でこんな話をした。
「……次のデート、動物園行かない?」
「えっ!?い、いいの?」
「うん、真が喜んでくれるなら俺はどこでも喜んで行くよ。」
「わあ……嬉しい!あのね、わたし、お猿さん見に行きたい!すっごくすっごく楽しみにしてるね!」
「猿が好きなんだね、なんか嬉しいな。俺も楽しみにしてるよ、じゃ、またね。」
「うん!えへへ……楽しみだなあ……」
真っ赤になった頬に両手を当ててニコニコしている彼女の頭をぽんぽんと軽く撫でてから俺はD組の教室を後にした。猿が好き、か……俺、猿夫って名前で良かったかも、なんて。
お猿さん
「はぁ……ほんっとに可愛いんだから……」
「……尾白、教科書は?」
「……!!ああっ!!そうだった!!」