猿夫くんと一緒に通学し出して数日が経って、そろそろ学校にも慣れてきた。今日も朝からお迎えに来てもらって、ふたりで並んで歩いていたら、ふと彼からこんな質問をされた。
「そういえば、真の個性って聞いてもいい?」
「えっ?……う、うん、いいよ。」
「あっ、もしかして嫌だった?ごめん、無理しないでいいよ。」
「んーん、大丈夫、えっとね……」
わたしは『真実』と名付けられた自分の個性について説明した。本来なら訓練を積めば相手の嘘を見抜けるレベルになるらしいけれど、幼稚園の頃色々あってからあまり個性を使わなかったせいで、せいぜい相手の言っていることが本音かどうかくらいしか見極められない。でも、最近はこの個性が嫌いじゃなくなってきていたりする、というのも目の前の眩しい彼のおかげである。
「そうなんだ……でも、そんな綺麗な目で見つめられたら嘘なんかつけないよね。」
「やっ、やだ、綺麗だなんて、そんな……」
綺麗な目、なんて言われてしかもそれが彼の心からの言葉だとわかるから顔がとても熱くなってしまった。わたしは両手を頬に当てて、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。けれども彼は眩しい笑顔でわたしを見つめてくれていた。綺麗なのはあなたの方だよ……けれど彼の殺し文句はこれだけでは終わってくれなくて。
「真。」
「うん?」
彼がじいっと見つめてくるもんだから、どきどきしながら目を大きく開けて見つめ返した。
「綺麗な目……真……好きだよ……」
「……えっ!?えっと……あ、ありがとう……嬉しい……」
「真は俺のこと、好き?」
「えっ、えぇ!?え、えっと……う、うん!」
突然好きと言われて、先と同様心からの言葉に顔が熱くなってしまい、その上好きかなんて当たり前のことを聞かれて、でも、恥ずかしくて言葉にできなかったわたしは首が取れそうなくらい何度も縦に振ることしかできなかった。ちらっと彼を見たらお顔も尻尾も赤くして、片手で顔を隠しながら、そっか……と恥ずかしそうに呟いていた。ふたりそろって林檎みたいに真っ赤になって学校へ行く羽目になってしまった。
それから何日か経ったある日の昼休み、いつも通り親友とお弁当を食べていたら校内のイケメンは誰だって話になって。二人は次々に男子の名前をあげるけど、やっぱりわたしは猿夫くんがいちばんで。軽く二人に惚気てしまったら、運が良いのか悪いのか、たまたまD組の教室に来ていた彼に聞かれてしまった。恥ずかしくてすぐにでも逃げ出したかったけど、彼があまりにも嬉しそうで、かっこよくて思わず見惚れて動けずにいたら、好きって言われたい、なんて可愛らしいお願いをされて、わたしは精一杯の愛情を込めて彼に大好きという想いを伝えた。この日からはなるべく彼に自分の想いを伝えるようにした。彼が不安になってしまうなら恥ずかしがってなんかいられないもの。
そしてこれまたさらに数日が経ったある日のこと。今日の放課後は部活動が早く終わって、猿夫くんはまだいるかなとA組の教室に近付いたら、彼とお友達の話し声が耳に入ってきて、話題の中心がわたしであることに気がついた。
「そういえば上鳴、こないだ尾白の彼女は見れたのか?どうだった?」
「あー!そうそうそれな!マジで可愛かった!特に目が綺麗でよ!ぶっちゃけ尾白には勿体無え!」
「失礼だな!でも、本当俺なんかにあんな可愛い子勿体無いよな……」
「けど、譲る気ないだろ?」
「あ、当たり前だろ!誰にも譲らないよ……」
急激に顔が熱くなった。猿夫くん、わたしのことそんな風に思ってくれてるんだ……なんて教室の外でぼーっとしていたら派手な赤髪の男の子が話しかけてきた。
「ん?うちのクラスになんか用か?」
「あっ、えっ、えっと……」
知らない男の子に話しかけられて驚いてなかなか声が出ない。目の前の彼はじーっとわたしの目をまっすぐ見つめてきた。
「おめェ……綺麗な目してんな……」
「えっ、あっ、ありがとう。」
「ん?目が綺麗で小さくて……!?ま、まさか、お、おめェが噂の!?」
「えっ?う、噂?わたし、何か悪いことしちゃったんですか……?」
「あ!いや、違ェ!悪ィ!」
なんだかとても不安になって、大きな制服の袖をぎゅうっと握りしめた。視界が不明瞭になってきて、目にじわじわ涙が溜まってきたのがわかる。赤髪の彼はものすごく慌てて謝ってきて、泣かないでくれ!って大きな声で言うもんだからびくっと跳ねて怯えてしまった。やっぱり、男の子は、怖い……怖くて何も言えなくなっていたら、教室の中から大好きな彼が出てきてくれた。
「真?どうしたの?……えっ!?なっ、涙!?えっ!?だ、大丈夫!?」
「まっ、猿夫くんっ!」
「尾白!悪ィ!俺がデケェ声出しちまって怯えさせちまった!」
両手をぱんっと合わせてこれまた大声ですまん!なんて言うからまたびくっと身体が跳ねて、猿夫くんの後ろに隠れてしまった。猿夫くん曰く、彼は物凄い熱血漢なだけですごく良い人だから全然怖くないとのことで。
「あの、びっくりして、ごめんなさい。」
「いや!気にしねェでくれ!俺の方こそ悪かった!」
彼は太陽のような笑顔を見せて、もう一度手をぱんっと合わせて謝ってきた。こんな爽やかな人がいるんだなあと思ってじーっと彼を見ていたら猿夫くんがわたしの方をじいっと見ていることに気がついた。猿夫くんを見上げて首を傾げたけど、なんでもない、だって。
帰り道、そっと手を繋いだら彼はいつもより強い力でギュッと握ってきた。何かあったのかなって見上げたらすごく切なそうな顔をしていて。
「何か、あった?」
「えっ?」
「手、力強いから……」
「ご、ごめん!痛くない?」
「大丈夫、でも、心配だよ。」
「……切島のこと、どう思った?」
「えっ?あの赤い髪の?良いひとだと思うよ。」
思った通りのことを素直に言ったのだけれどそれでも彼はまだ納得していないみたいで。
「俺、器小さいな……」
「えっ?」
「……真が切島に取られたらどうしよう、って。」
「えっ!?えぇ!?まさか!そんなことないよ!わっ、わたしがすきなのは……猿夫くんだけだよ……」
「あ、ありがとう……俺も、好きだよ……」
熱くなった頬に片手を当てて彼をじーっと見上げたら彼も片手で赤くなったお顔を隠していた。けれどその目はまっすぐわたしの目を捉えていて。首を傾げたら彼は立ち止まってこう言った。
「その綺麗な目で見つめられて好きにならない男なんて絶対いないよ……」
綺麗な目のキミ
「なっ、なに言ってるの!?そんなこと思ってるの、猿夫くんくらいだよ!」
「そんなことないと思うけどな……変なこと言ってごめんね、帰ろうか。」
「う、うん……」
真、キミは知らないんだろうね。とても綺麗な目をした小さくて可愛い美少女が、尻尾がある以外に大して目立つところもなく朴訥で普通の代名詞のような俺と付き合ってるって噂になってしまってること。